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介護業界分析 なぜFAXを使うのか

こんにちは、ペースノートの野尻です。
お客様が増え、会社のメンバーが増えてくるにつれ、介護業界について同じご質問をいただくようになりました。
その一つが、「なぜ介護業界ではFAXを使うのか?」です。これは業界の内外に関わらず、多くの方からご質問いただきます。今回はこの「なぜFAX?」という疑問についてお答えしていきたいと思います。


介護業界のFAXの普及率

さて、介護施設のFAX普及率ですが、ほぼ100%であるといっていいかと思います。個別の介護事業所のデータは、厚生労働省の「オープンデータ」で閲覧することができます。
介護サービスの種類に関わらず、ほぼすべての事業所でFAX番号を持っていることが分かります。

政府のとらえ方

介護でFAXというと、2年前の「脱FAX」というニュースを思い起こす方も多いのではないでしょうか。
2022年5月、政府はいわゆる在宅介護の施設間でのやりとりがFAXで行われていることに着目し、居宅介護支援事業所と、居宅サービス事業所のケアプランの共有について、クラウドシステム化すると表明しました。これは「脱FAX」というタイトルで、介護業界でFAXが使われ続けていることが「DX時代から遅れている」という文脈で大々的に報道されました。

その後、この内容は「国保連ケアプランデータ連携システム」として、開発、運用が始まりました。
現在の運用状況は、2024年12月現在、東京都内の居宅介護支援事業所(居宅)で217の事業所が導入(総数が2900件のため普及率は約7%)。通所介護では65件の事業所が導入(総数が1500件のため、普及率は約4%)となっており、必ずしも社会課題として政府が認識した、「脱FAX」が進んでいる状況とはなっていません。

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/R5_ICT_houkokusyo.pdf

居宅とは、居宅介護サービスを受ける要介護者が必要となる「ケアプラン」の作成を依頼するところです。
施設介護と異なり居宅介護では、要介護者とそのご家族にとって、居宅のケアマネージャー(ケアマネ)は代理人のようなもので、このケアマネがどの事業所の居宅介護サービスを受けるのが良いのか、アドバイスをくれ、面談や契約もサポートしてくれます。
上記のシステムは、居宅が、サービス事業所(通所介護や訪問介護など)とケアプラン関係書類をやり取りする際に、オンラインでやり取りできるようにする、というものです。

業界の構造

しかしながら、居宅の規模に目を向けてみると、全国40000弱ある居宅のうち、10000事業所以上が1人ケアマネで運営されており、全体のおよそ50%が2人以下運営の居宅介護支援事業所となっています。

ケアマネ人数別の居宅事業所数

おひとりで居宅を運営されている方は、事業所はご自宅、携帯電話も個人用と共通という方が少なくありません。
仕事用のセキュリティのあるEメールアドレスを持たれている方も、私の感覚値になってしまいますが10%~20%程度であると推測しています。

こうした構造下にある居宅が、ケアプランデータ連携システムと、そのデータの活用を行うための介護請求ソフトを入れる投資を行うだけのメリットがあるかどうかが、「脱FAX」を目指す「国保連ケアプランデータ連携システム」導入のカギになるでしょう。

FAXの長所

ちなみに居宅にとっては、FAXを使うことでのメリットも多くあります。
私が把握しているだけでも、以下の長所があります。

業界のスタンダード

介護施設にとってFAXの普及率は100%であり、これは医療機関も共通です。これまで関係性のなかった施設に対しても、検索をすればFAX番号が出てくるため、つながるための連絡手段として極めて優秀であると言えます。

確認漏れの少なさ

居宅ケアマネは外出が多く、パソコンの目の前に常にいるわけではありません。事務所に戻って、印刷されているFAXに目を通して、いらないものは廃棄、いるものは残すというスタイルが主流です。

一覧性の良さ

利用者やサービス事業所が少なければ、パソコン内で管理するよりもむしろ簡単に確認することができ、一覧性も良いです。
「デイサービスから来たサービス案内FAXをまとめてファイリングしている」という居宅も少なからずあります。

海外の事例

海外でも医療分野を中心に、現在でもFAXが多く使われていることに変わりありません。
以下、Forbesの記事「アメリカ医療機関における、FAXのしぶとい生き残り(2023年)」では、かつてオバマ政権が医療機関に対して「脱FAX」を進めるために、多くの経済的誘導策を実施したものの、とん挫した事例が紹介されています。

こうしたFAXをとりまく状況の中で、米ナスダック上場のUpland Softwareは、FAXを業務システムと情報連携し、様々な企業のシステムをつなぎ合わせて、ITの利便性とFAXの長所を生かした顧客体験を目指しています。

おわりに ペースノートとして

ペースノートのシステムにも「FAX」は重要なパーツとして組み込まれていますし、今後もしばらくは介護業界にとってFAXが重要な通信手段であることに変わりはないと思っています。

介護現場の状況を深く観察し、「脱FAX」ではなく、「よりよいコミュニケーション体験」を「現状からの急激な変化によるストレスを伴わず」に実現したい。
今後もペースノートのものづくりの基本姿勢として持ち続けたいと考えています。

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