公務員(主に自治体)における「タレントマネジメント」について思うこと
PTMとして活動していく中で、仕事柄、人事領域でのやりとりをすることが増えています。その中で、自治体の中でも「タレントマネジメントシステムの導入」というキーワードを聞くことが多く、今日は、そのことに関して思うことを・・・
なお、最近の民間企業におけるタレントマネジメントの動向についてはあまりアップデートできていないので、本稿は少し古い知識と個人的な仮説で書いてます。
タレントマネジメントシステムの導入≠タレントマネジメント
これは当たり前のことなのですが、それでも、改めて、書いておきたく。
現時点での自治体における導入事例などを見ると、まだまだ「人事評価のデジタル化」という域を超えてない、というのが実態かと感じています。これはこれで大事で、目標管理の導入や専門職コースの多様化など、自治体に置いても人事制度をブラッシュアップされている団体が増えており、ただ、それを紙とExcelでやるのは限界があります。システム導入でそれが効率化され、人事部門の本来業務(採用、育成、配置の最適化などの企画検討など)に多くの時間をさけるようになることが非常に重要なのは疑いはないです(グラビスが提唱していることでもあります)。この観点からでも、システム導入の検討が各自治体で進むことは望ましいことです。
ただ、一部、「タレントマネジメント」という流行り言葉でカモフラージュしている傾向も見て取れ、そこは気持ち悪いとも感じてます(カモフラージュしないと予算が取れないという面もありますので、一概に否定するものではないのですが)。なので、「”タレントマネジメント”をお題目にするなら、しっかりやろうよ」という思いが強いです。
タレントマネジメントとは?
私が「タレントマネジメント」という概念を知ったのは、ほぼ20年前(リクルートマネジメントソリューションズ勤務時代)なので、古くて新しいというか、今、改めて流行っているのが少し不思議でもあります。で、タレントマネジメントって何なのだろう?組織と個人にとってどういう意味があるのだろ?というのを考えてみますと・・・
①新規事業など既存ビジネスとは違った取組における人選
まず、もともとはここがタレントマネジメントの重要な狙いと考えています(20年前に初めて聞いた時もこの文脈だった記憶)。確かに、通常の人事評価は既存ビジネスに最適化されているので、そこでの評価をもとに、新しい事業に最適な人材を選べるかというと、必ずしもそうではない。では、他に何があるか、といっても評価材料がない。そこで、日常から人材に関する多様な軸でのデータベースを持っておくことで、新規事業などの新しい取り組みにおけるチームアップに生かそう、というのは、わかりやすく、合理的です。
また、近年では環境変化が早すぎて、「会社が事業を決めてそこに最適な人を当てこむ」というプロセスでは対応できず、「やれる人をベースに事業を考える」という「戦略・●●(←個人名)」時代になりつつあります(どこかの代表チームみたい)。ここにおいては事業のシーズ=人材(人財)なので、データベースが重要です(ないと始まらない)。ただし、これは全業種に当てはまるわけではないと思ってます(ここけっこう重要)。
②スキルや性格適性をもとにした効果的なチーム作り
①とも少しかぶるところがありますが、こちらは既存ビジネスでも使える話でして、人事の重要な仕事の一つが「人材配置」。これは色々な観点でなされますが、そのチーム/組織がより効果的に機能するようにする、というのは重要な観点の一つになります。その際に、「新しく追加する人材はどのようなスキルを持っているほうがいいか」や「どういう性格適性(行動特性)の人材が入ったほうがいいか」というのを可視化することは、とても役立ちます。合理的な判断につながるというのが一つ。あとは、PDCAをまわして改善できるというのも一つ。
大手企業の人事担当などは、ここを職人技でやられているケースもあるのですが、それを組織ナレッジとして、組織としてPDCAできるようになります。
②'NGな組み合わせを避ける
これは「効果的なチーム作り」の一部とも言えますが、「ネガティブな要素を排除する」というのも人材配置においては重要です。過去に当人同士でトラブルを起こしたことがある、結婚/離婚/不倫関係にある、などなど・・
こういう情報を組織として収集して貯めて引き継いでいく、というのも、人事部門の一つの顔だったりします(やっていない会社も多いですが)。
③個人のキャリア(育成・配置)プランづくり
①②は組織要素が強いですが、こちらは個人要素の話。
組織側が個人のキャリアを支援する上では、個々のスキル・業務経験・志向を把握することが必要です。しかしながら、研修受講履歴や配属履歴すら管理できてない組織(民間も行政も)もまだまだあります。まずは、これらを記録するデータベースは必須。ただし、これらはあくまで基本情報しかなく、本当の意味でその人にどういうスキルや知見があるかを表したものではないので、そこをどう把握するか、が重要。これはタレントマネジメントにおいて最も重い論点の一つでもあります。
自治体におけるタレントマネジメント
ようやく本題。上記①~③の観点で、自治体へのタレントマネジメントの適用について、ネックやその解決方法案(仮説)を書いてみます。
まず、①から重くて、そもそも、新規事業とかって自治体においてはそのまま当てはめづらい概念。となると、「タレントマネジメントってそもそも必要?」というそもそも論にもつながります。ここについては、①以外のポイントもあるので「必要」という前提で進めますが、それでも「自治体におけるタレントマネジメントの在り方・目的」について影響を与える要素と思っています。
ここについては、今後、行政経営や自治体経営の観点からもっといろいろな人と議論して自分なりの結論をつくっていくつもりですが、現時点での想定でいえば、全庁で対応しないといけないトピックス(コロナなどの大災害など)がおきたときには臨時のプロジェクトチームが立ち上がるはずで、そういった臨時的な対応(プロジェクト)における人選においては、人材のデータベースがあることは、非常に役に立つだろうと思っています。
次に②の観点ですが、まず②'はやっている自治体もあるようですし、ここはデータベース設計(どういうフラグやデータ項目を持たせるか)もそれほど難しくないので、やるべき事項です。一方で②については、スキル特性や性格特性をどうやって測定(データ化)するか、が重いです。性格適性についてはアセスメントが確立されているので、民間企業ですと採用時などに適性検査を行っていることが多く、それをそのまま使えます(使う適性検査がころころ変わるという運用の問題は別として)。ただし、自治体ではそういったところに予算がつきづらいため、ここは工夫が必要です(明確な解はまだないです)。そして、スキル特性は、その評価方法からより難易度が高いので、より難しく、こちらは③とも絡むので、そちらにまとめます。
もう一つ、②と絡んで重いのが、人材のスキル適性などをデータ化できたとしても、各職務に必要なスキル特性をデータ化できていないと、マッチングはできなくなります。この「各職務に必要なスキル特性のデータ化」は、タレントマネジメントの欄外にある(組織においても所管部門が違う)ので、同時に推進するのは難しいのですが、ここができていないと、人材のデータベースがどれだけできても、活用効果は半減してしまいます。ここも組織として超えないといけない大きな壁になります。
③については、すぐに取り組める(既にデータがある組織も多い)のは、自己申告のデータだと思います。これはキャリア開発(やエンゲージメント)において重要なので、データとして持っておき、配置配属などに活用することは必須と考えます。
そのうえで、スキル特性をどうデータ化するか、という重い命題について考えることになります。間接的な情報としては、「保有資格」「過去の異動履歴」「過去の研修受講履歴」がありますので、まずは、それを整理してもたせておくことは必ずやるべき(かつ、できるはず)。そのうえで、直接的な評価指標としては「過去の人事評価」が使えます。ただし、これは多くの方が感じると思いますが、評価者の評価スキルにかなり依存する。平たく言えば、評価基準がバラバラなのであまり参考にならないデータ、になっている懸念があります。なので、データとして持たせておくことは意味ありますが、どこまで活用できるか/すべきか、は悩むところです。
その点で、実効性があり、かつ、取り組みやすいと考えてているのが、「定期的な研修の中でスキルアセスメントを取り込む」です。●年次研修や新任主査研修など、年次や役職に応じた研修を行っている組織は多いです。その際に、スキルアセスメントの要素を組み込んでおくと、時間はかかりますが、一定の目線で評価データをつみあげていくことができます。
求められるのは統合的な組織戦略
スキル特性については、上述の通り、意味のある必要なデータをどう集めるか、の設計じたいも難しく、現存のデータを棚卸するとともに、「必要なデータを今後どう集めていくか」の議論も並行して進めることが必要です。
そして、データ活用の観点では、「集めたデータをどう統合するか」という点が、大きな山として残ります。データを集めたらAIが何とかしてくれる、なんて甘いことは残念ながらなく、「どう集約していくか」を考えることが必要になりますし、ここが人のやるべき仕事になります。そして、個々に求められるのは「組織戦略」です。すなわち、「今後、どういう業務が重要になるのか?」「そのために必要なスキルは?」という視点での設計です。
ここについては、企業であれば、その企業の事業戦略に依存するところです。自治体の場合は、2040構想の実現に向けて、今後、総務省などから提示される可能性もありますので、それを意識しながらですが、現時点で、私は4つの職務でおいておくのがいいと考えています。
①マネジメント職
②問題解決・企画特化職
③温かみのあるコミュニケーション職
④着実事務処理職
①は②③の統合型であり、行政経営を担っていく職務。②は「人材育成や組織づくりには難があるが、政策立案や業務改善などに強い人」というイメージです。ここは専門職と呼んでもいいかもしれません。また、デジタルの素養も必要になります。③は行政の重要なサービスである福祉系の人材です。ここはまだまだAIやロボティクスには代替されづらいところです。④については、今後、AIやロボティクスに代替されていく職務なのですが、3年でなくなるということでもないですし、高齢化の中で「取り残されないデジタル化」を進める中では、アナログとデジタルの併存期間は10年単位で続くので、当面は一定数が必要となる職務になると考えています(ただし、積極的に育成する職務でもない)。
上記の①~④は私(およびグラビス・グループ)としての仮説ですが、各組織なりにこういった設定をして、そこに必要なスキル定義をすることで、人材データもどう持つといいかが見えてきます。
行政(自治体)におけるタレントマネジメントは、ようやく緒に就いた段階であり、まだ事例もほぼないですが、今後の行政経営においては非常に重要なピースであり、冒頭にも書きましたが、「どういう理由でありシステムを導入するなら、それを徹底的に活用する」ということが大切です。その中で、データの持ち方や活用について試行錯誤が進み、5年後10年後にいいかたちができるようになればうれしいですし、(傍観者ではなく当事者として)その一翼を担っていく、という心持ちでいます。