ハンデがある利点
2023年7月10日。
東京都世田谷区にある私が育った児童養護施設へ、約3年ぶりの訪問が実現した。新型コロナウイルスの影響もあり、施設への訪問は随分と期間が空いてしまったなと玄関前で建物を眺めていた。
過去のNOTEにも書いているが、私は5歳から15歳までの10年間この児童養護施設で育ち、卒寮してから早いもので22年もの歳月が経過した。
今回、施設へと訪問した理由は、施設の高校生を対象とした尾瀬小屋での就労体験の調整をする為だ。都会から距離を置き、大自然の中でスマホから手を離し、五感を使って目一杯自分と向き合ってみる。景色なのか、植物なのか、人なのか、グルメなのか、滞在環境なのか、、、。何に刺激を感じ、感情がくすぐられるかは分からないが、国立公園の魅力を子供達に味わってほしいと考え、私が施設へと話を持ち掛けたのが3年前の事だった。
旧知の仲であり、当時の苦楽を共にしてくれた大切な人達が尾瀬を訪れ、尾瀬小屋で再会する喜びや変わらぬ関係がある幸せを噛み締める。幼少期に自分が山小屋を経営しているなんて夢にも思っていなかったし、友人や先生も同じだっただろう。それでも自分含めみんなが元気に歳を重ねて来てくれたからこそ今がある。
僕がいた児童養護施設は本当に恵まれた環境だった。美味しいご飯が当たり前にあったし、毎月のお小遣いもある。習い事のサッカーはやらせてくれたし、旅行にだって連れて行ってもらえた。七五三、授業参観、誕生日会、クリスマス会、何でもあった。
Jリーグやプロ野球観戦なども招待してもらえたし、
皇后雅子様、とんねるずの木梨憲武さん、ヒロミさん、元メジャーリーガーの佐々木投手、サッカー選手の三浦泰年さん、土佐ノ海さんなど他にも名だたる有名人の方が児童養護施設を訪問し、プレゼントや交流の機会を下さった。驚いた事に、同施設に対し木梨憲武さんは22年経った今も変わらぬ支援を続けているという。テレビでは見せない、人としての底知れない器量を感じる。
私は東京都内や福島県にある児童養護施設への支援、川崎の不登校支援学校のお手伝いをしています。といっても、難しい事は何もしておらず前述したような自分が幼少期にしてもらった事を今度はそっくりそのまま自分が出来る範囲でやっているだけです。自分が手掛けているレジャー施設や宿泊施設に招待してレクリエーションをしたり、兄の飲食店から施設にご馳走を提供したり、スポーツ観戦の招待、就労体験など、ほんの少しだけ恩返しさせてもらってます。
たまに、高校や大学に呼ばれ簡単な講義もします。こちらも特別な話や耳障りの良い話は出来ないので、このNOTEに書いてあるような何てことないお話をさせていただいたりします。
私の兄が川崎フロンターレを応援していた事もあり、檜枝岐村にお世話になっているお礼を形にしたいという想いから、尾瀬の麓で暮らす子供達にサッカーという文化を使って川崎と檜枝岐村に小さな架け橋を作りました。『フロンターレ応援交流会』と題し、フロンターレのクラブストーリーの上映や、選手からのビデオレター上映、サイン入りキャップやサッカーボールなどを尾瀬小屋から贈呈した。自分が昔お世話になった場所だけでなく、今お世話になっている檜枝岐村の皆さんにも私が出来る範囲で感謝を伝えたいのです。
一見、尾瀬とサッカー、檜枝岐村と川崎って関係がないように思えるし、無縁の位置関係なようにも思える。今まではそうだったかもしれない。でも、何かの縁で互いが興味を持ったり、好きになったり、応援したりするというのは、早いも遅いもなく、昔も今も関係ない。人と人との繋がりが何かの始まりを生むものだと思っています。
来月の8月12日には、檜枝岐村の小中学生と共に川崎フロンターレのホームスタジアム等々力競技場へと訪問し、試合観戦をする事も決まっている。
全員がサッカーに興味がある訳じゃないだろうし、私が昔、山に無理矢理連れて行かれた時のように、何となく参加する子供もいるかもしれない。でも、今でこそあの時の体験の大切さも分かるし、頑張っている一流の人達に触れる大切さも分かる。だから、複雑に考えずに子供達が『楽しい』とか『凄い』『カッコいい』みたいな屈託のない笑顔でいられる時間を提供したい。それは私が体験してきた事だから。
今でもよく思う事がある。
自分は施設で育って良かったと。
これは全員が同じ考えにはならないし、色んな考え方や意見はあるでしょう。
私の場合、もし幼少期から当たり前のように家族が側にいて、望むものが全て手に入ってしまうような環境にあったとしたら、今の自分は絶対にいないと思います。多少のハンデがあったからこそ、強くなれたし頑張る事が出来た。人間は生きていると、常に『やるかやらないか』『挑戦するか諦めるか』『イエスと言うかノーと言うか』『好きか嫌いか』などの選択を迫られます。選んだ先が長く険しい道のりで、自分にとってハンデある選択だったとしても、その道を歩いた分だけ強くなり成長する事は言うまでもない。
愛する両親から虐待を受けたり、経済的理由で家族で暮らす事が出来なかったり、親を亡くしてしまったり、簡単には推し量ることのできない絶望感に苛まれる子供もいる。
でも、誰かへの期待値が「ゼロ」まで下がれば、その分自分に期待するしかなくなるし、その後の幸せも災いも自分自身で作ればいい。
元気な身体と心さえあれば、道は切り開ける。
今の私なら子供達にそう伝えるだろう。
ゆっくり前進しよう、未来の子供達。
尾瀬小屋
工藤友弘