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十和田石のデスク

秋田の銘石、十和田石。
地鶏で有名な比内町で採石されている、美しい緑色凝灰岩です。

石のデスク08

もう10年以上前かな、那須の某温泉で浴槽にこの石が使われていたのを見たんです。柔らかさとクールさが融合した表情に一目惚れし、いつかこの石を使いたいぞと思ってました。で、3年前に今のアトリエに引っ越した時に「メインの机は石で作ろう!」と。その時は他の石材も候補に入れていて、色々なサンプルを取り寄せては、試しに切ってみたり削ってみたり。他の石材も良さそうなものがいくつかありましたが、表面を水磨き#800で整えた時、十和田石の絶妙なサラサラすべすべ感がちょっと特別な手触りで、なんだかこの上で仕事をすると良いものが作れる気がして。キミに決めた!ってなりました。

ただこの素材、見た目も手触りもどストライクでしたが、天板に使うにはいくつかハードルがありました。

●薄く作りたい。でも割れちゃダメ。

石のデスク06

椅子も薄板でシャープなデザインにしたいので、デスクもシュッとしたやつにしよう。天板は重厚なものではなく、ピシッと薄く…でも割れちゃいけない。

そこで、22mmの薄い石材と1.6mm薄い鉄板を貼り合わせることにしました。
 ・石は薄くてもしならない。でも割れやすい。
 ・鉄板は薄くても割れない。でもしなる。
鉄と石、どちらも硬いイメージのある素材ですが、上記のように性質は大きく違います。違うってことは、お互いの弱点を補い合えるってこと。合体させて、頑丈な天板が出来上がりました。

●簡単にシミができるのはまずい。

十和田石は「多孔質」です。細かな穴がたくさん空いているのが特徴で、大谷石やライムストーン も多孔質石材に分類されます。総じてこれらの石は水分や油分がしみ込みやすく、汚れがつきやすいのが難点です。
ここはテクノロジーに頼り、クレストンという浸透性保護剤を使いました。表面だけをコーティングするのではなく、中まで染み込ませるタイプの保護剤です。石の細かな穴に充填されて、水分が入り込むのを防いでくれます。

早速仕入れて、この動画と同じ実験をやってみたところ、バッチリ撥水してくれました。スゴいなと思ったのは、だいぶ大量に染み込ませてみたけど、全く風合いが変わらないこと。「なんか塗った感」が皆無なんです。
あとは耐久性ですね。作ってから3年間、保護剤の塗り直しはせずに毎日仕事&昼ご飯に愛用してきたけど、今も変わらず綺麗なままです。今後もクレストンにお世話になろうと決めました。

●大きな一枚板は手に入らない。

石のデスク09

横幅1500mmくらいのデスクにしたかったのだけど、入手できるサイズはMAXで長手が900mm。複数の板を接ぎ合わせる必要が出てきます。そこで300x900のプレートを5枚接ぎ/目地幅1mmにして、900mm x 1504mmの天板にしました。目地はフラットに仕上げているので、接ぎ合わせ箇所に段差はありません。うちの三男坊の肌のようにスベスベです。

●脚の仕様は自由です。

石のデスク03

自分用には脚の替わりに鉄板でBOXを作り、本棚に。この棚は、ひそかに上段と下段で少し高さを変えています。上段はA4サイズの本がちょうど良く納まるサイズで、下段はもう少し高さを持たせてレターパックが納まるようにしています。この設定のおかげで、一冊だけ異様にデカいジャコメッティの作品集も、高井さんから借りっぱなしのリチャードセラの作品集も、下段にスッポリ入りました。
ちなみに天板下部の仕様は自由です。用途に応じて、シンプルな脚でも、引き出しでも作れます。

***

このデスクは作ってすぐにお披露目するわけにはいきませんでした。初チャレンジの要素も多く、出来た当初は良くても、時間が経ってヒビ割れやシミが出てはいけません。しばらくは使いながらの様子見で石の上に3年。今ならようやく胸を張って、この家具も合格だと言えるようになりました。
どんな素材でも、必ず「苦手なこと」が存在します。でも、それを理由に可能性を絶つ必要はありません。異素材を組み合わせて苦手を克服できる事だってたくさんあるし、むしろそこにモノ作りの旨味が隠れていたりします。
苦手なことだらけの自分にはピッタリかも。今では良き相棒です。


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