司書がおすすめの絵本·児童書をただ語る『ボンジュール、トゥール』
『ボンジュール、トゥール』ハン・ユンソプ/著 影書房 2024年2月
【あらすじ】
フランスに住む韓国人の少年ボンジュは、パリからトゥールへ引っ越してきた。
新しい家の自分の部屋には備え付けの古い机があり、その机に「愛するわが祖国、愛するわが家族、生き抜かなければ」とハングルで落書きがあるのを発見したボンジュは、そのただならぬ内容に、落書きをした人物を探し出そうとする。
一方、新しい学校の同じクラスにはトシという日本人がいた。
両親の友人・同僚の日本人には好感を持っているのに、トシに対しては反日感情が働き、うまく接することができないボンジュ。
落書きの犯人探しとトシとの関係、その2つはやがて思いもよらない方向へ…
【レビュー】
少し前にACジャパンのCMで、
「宇宙飛行士になるのが夢です」
などの台詞だけが示され、
「どんな人物を思い浮かべたか?」
と問いかけるものがあった。
性別、年齢、宗教、肌の色
心のバリアフリーが必要、とわかってはいても
気づくと私たちは色々なしがらみに囚われてしまっている。
…と、いうことに、
簡単に気づけるシチュエーションとして
“外国に行く”というものがある。
私は外国に住んだことはないが
この本の主人公、ボンジュは
フランスに住んでいて、まだ年端もいかない少年だけど
すでにしがらみに囚われてしまっている。
そしてそんな自分に気づいてゆく。
トシの家族にまつわる設定はけっこう無理があったりするが、
ボンジュのような心境の変化は
誰にでも大なり小なり経験があることなのでは、と思う。
落書きの犯人を追う過程は
身近に起こりうる小さなミステリーとしてワクワクできる。
ラストは、
ボンジュが一連の出来事を、この先の長い人生でずっと忘れることはないだろうと思わせ
味わいがある。