おいしい蕎麦と果物、そして天然の母
この時期の果物といえば、わたしの1番は"リンゴ"。
みなさんご存じ、人類が食した最古の果物。
『1日1個のリンゴ、医者知らず』
『リンゴを食べると医者が青くなる』
という言葉もあるくらいだ。
きっと身体に良いのだろう。
世界中で生産される品種は、数千種類にもなるらしい。
なかでも私は壮瞥町のリンゴがお気に入りだ。壮瞥はりんごの町。プルーンやブドウも有名で、フルーツ狩りもできるので海外からの観光客も多く訪れる。
今回私が久しぶりに行った際にも、観光バスがたくさん駐車していた。こちらの"くだもの村"にある果樹園の駐車場に車を停め降りると、とてもおいしい空気にまず驚く。澄んだ空気が身体に巡っていく感覚がわかる。天気の良い日は、青い空に紅葉した木々たちが良く映え、さらに目の前には昭和新山と有珠山がそびえ立つ。何回見ても「わあ…」と声を出すほどの壮大さだ。その美しい環境の中で自分の食べたい果物を選ぶだなんて、贅沢な時間である。
去年は、所謂B級品のリンゴ大袋を買って、夫と大量のジャム作りやスイーツ作りをしたのだが、この物価高によりなかなかそのようなこともできなくなってきた。今年は「早生ふじ」と「トキ」を1袋(3個入)ずつ購入。さらに果樹園の方たちの応援になるならと、初めてプルーンやブドウも購入。これが帰宅後に食べてみると、飛び上がるほどにおいしかった。おいしいと感じたものは親兄弟にも食べさせたくなるわけで、おすそ分けをしたのだが皆大絶賛の果物たちであった。やはり普段と違うことをしてみたり、挑戦をすると新しい発見があり面白い。世の中知らないことだらけである。
我が家の一員である小型犬2匹はリンゴが大好きで、私たちがリンゴを食べていると必ず「アゥオーアゥオー」と鳴き始め、前足2本を同時にトランポリンに乗せているかのようにビヨーンビヨーンと跳び跳ねる。小さくカットしたものを少量与えるのだが、それをまた「シャクっシャクっ」と音を立てて食べるのだ。ここで何が言いたいのかというと、総じて『可愛いやリンゴ』というわけである。平和な日常だ。
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壮瞥町のお隣に「伊達市」があり、そこには思い出のお蕎麦屋さんがある。そば通であった父がおいしいと言っていたお蕎麦屋さんの1つ。何度も家族で遥々連れてきてもらった。小さい頃や学生の頃は、蕎麦が大して好きでもなく興味もなかったのでそこまで嬉しいわけではなかったが、その時間が好きだった。父は単身赴任でほとんど家にいなかったので、家族4人で食事、ましてや外食をすることは滅多になかったため余計にうれしかったのかもしれない。
そんなことを思い出し、予約をして夫と実母と数年ぶりに食べに行くことになった。
案内された席は庭園が眺めて、落ち着ける端の席だった。注文はもちろん決まっている。「たこ天丼そばセット」!こちらのお店は、たこ天が有名なのだ。
その日は雨降りで、庭園に静かに雨が降り注ぎ、なんだかしんみりしてしまう。
そんな中、母の携帯に着信。
どこかで聞いたようなメロディーのオルゴールが鳴る。それはバッグの奥底にしまっていたようで小さく聞こえたのだが、バッグから取り出した瞬間には大きな音楽が響き渡った。
「はい、もしもし」
『いや出るのかーい』と、そこにいた誰しもが思ったことだろう。そしてそれよりも驚いたのは声のボリュームだ。拡声器を使っているみたいだ。どうやら"かかりつけ病院から予約調整の連絡"だということはわかった。明らかなる視線を多方向から感じたため、シーっとジェスチャーをするが本人は電話先の声を聞き取ることで精一杯の様子。雨なので「外に出て電話をして」とも言えない。お構い無しに母は話を続け「ちょっと今メモできるものがなくて…!」と左右を見て、なぜかテーブルの上に置いてある、つま楊枝が入った小瓶を一瞬持ち上げるなどしている。
いったいそれで何を?
予約日時を暗記しようと「○月○日の○時ですね!」と数回繰り返すものだから、私の方が覚えてしまった。店員さんや近くにいたお客様たちも覚えてしまったのではなかろうか。
そうして地獄のテレホンタイムが終わり、母はすぐさまバッグから手帳を取り出し、先程の予約内容を記している。
いや手帳あったんかーい!!
耳が遠くなったことは別として、昔から天然なところは変わらない。「マナーモードにして、店内での着信はなるべくかけ直そう」と伝える。「近々耳鼻科へ行き検査をして補聴器を使ってみるか」とか「嫌だ」とか、そんな会話をしているうちに注文の品が届く。
このお蕎麦もたこ天も、世界一と思うほど絶品。
さすが我が父!
結構なボリュームがあり"母は食べきれるだろうか"という私の心配をよそに、おいしいおいしいと食べ進め完食していた。思えば『たこ』は母の大好物の1つだ。
さすが我が父!!
おいしいものを大切な人たちと食べる時間を噛みしめる。そして誰しも老いには逆らえないのだと、ちょっぴり悲しくなる。親孝行として私にできることはまだまだたくさんありそうだ。
P.S.
今後はマナーを守りますので、どうかまたおいしいお蕎麦を食べに行かせてください。