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歴史に残る凶悪犯罪者の心理分析(サイコパスの思考とは?)

第1章:サイコパスの真実—彼らは本当に「心なき怪物」なのか?


 「この人には何を言っても無駄だ」と思ったことはないだろうか。
 たとえば、あなたが誠意を込めて話しているのに、相手の表情は変わらず、まるで感情がないかのように冷たくこちらを見つめている。そんな経験があるなら、その人はもしかしたらサイコパスかもしれない。

 だが、ここで一つ誤解を解いておきたい。
 サイコパスは必ずしも凶悪犯罪者ではない。 それどころか、成功を収めている企業経営者や弁護士、医師の中にもサイコパス的傾向を持つ人は少なくないのだ。では、彼らと凶悪犯罪者のサイコパスは何が違うのか? そして、そもそもサイコパスとは何者なのか?

 私は以前、心理学の専門書を読み漁ると同時に、犯罪心理学の第一人者の講義を受けたことがある。その中で知ったのは、私たちが「サイコパス」という言葉に抱いているイメージと、実際のサイコパスの姿には大きな乖離があるということだ。そして、その誤解こそが、凶悪犯罪者の心理を正しく理解する妨げになっているのだ。

 本章では、サイコパスとは何か、その定義と特徴、そして「普通の人」との決定的な違いについて掘り下げていく。あなたが日常生活の中で遭遇するかもしれないサイコパス的な人物についても触れながら、サイコパスの本質に迫っていこう。


サイコパスとは何か?—映画の怪物とは異なる現実の姿

 サイコパスと聞くと、映画『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクターや、『アメリカン・サイコ』のパトリック・ベイトマンのような冷酷で知的な殺人鬼を思い浮かべる人も多いだろう。しかし、これはフィクションにおける誇張されたイメージであり、現実のサイコパスとは必ずしも一致しない。

 心理学的には、サイコパスは「反社会性パーソナリティ障害(ASPD)」の一種とされる。特徴としては以下のようなものがある。

  • 良心や罪悪感を感じにくい

  • 他人を操作しようとする

  • 魅力的な話術を持つ

  • 感情が表面上は薄い(だが演技として感情を見せることはできる)

  • 衝動的な行動をとりやすい

 興味深いことに、サイコパスは感情の機能が完全に欠如しているわけではない。むしろ、多くのサイコパスは、表面的には普通の人と変わらない振る舞いを見せることができる。彼らは「感情を演じること」が得意なのだ。

 私は以前、ある経営者のインタビュー記事を読んだことがある。その経営者は数々の企業を成功に導いてきたが、彼の部下たちは口を揃えて「彼は何を考えているかわからない」と言っていた。どんな場面でも冷静沈着で、社員がどれだけ困難な状況に陥っていても、まるで他人事のように淡々としている。しかし、その経営者自身は「私は常に合理的に考えているだけだ」と語っていた。
 これは一見すると優れたリーダーシップに見えるが、実はサイコパス的な特徴を持っている可能性がある。彼らは「人の感情がわからない」のではなく、「感情を理解することに興味がない」のだ。


サイコパスと普通の人の違い—決定的なポイント

 では、サイコパスと普通の人の違いはどこにあるのか? その答えを探るために、ある心理学実験を紹介しよう。

 被験者に二つの画像を見せる。一つはグロテスクな事故現場の写真、もう一つは可愛い子犬の写真。そして、被験者の脳波を測定する。
 普通の人であれば、事故現場の写真を見たときに脳の「扁桃体(へんとうたい)」という部分が活発に反応する。これは恐怖や嫌悪感を感じるときに働く領域だ。しかし、サイコパスの被験者の脳波はほとんど変化しない。子犬の写真を見たときも、事故の写真を見たときも、彼らの脳は同じような反応を示すのだ。

 つまり、サイコパスは感情の「振れ幅」が極端に小さい。
 喜びも悲しみもほとんど感じないため、犯罪を犯したときに罪悪感を持つことがない。そして、それこそがサイコパスが凶悪犯罪を犯す可能性が高い理由の一つなのだ。


私たちの周りにもいるサイコパス—気づかないだけかもしれない

 サイコパスは決して映画の中だけの存在ではない。実際、社会には「機能的サイコパス(Functional Psychopath)」と呼ばれる人々が存在している。

 彼らは犯罪を犯すことなく、社会で成功を収めている場合が多い。たとえば、カリスマ的なセールスマン、冷酷なCEO、政治家、弁護士、外科医などの職業に多く見られるという研究もある。

 私は以前、とある上司の言動に強い違和感を覚えたことがある。彼は部下の気持ちを一切考えず、ただ数字を追い求めることしか興味がなかった。誰かがミスをしても、感情的に怒るのではなく、「このミスで会社にどれくらいの損失が出るか?」と淡々と計算していたのだ。まるで人間ではなく、プログラムのような思考だった。

 この上司がサイコパスだったかどうかはわからない。しかし、サイコパス的な思考回路を持つ人間が、私たちの身の回りにも存在することは間違いない。問題は、その中の一部が「犯罪」に手を染めるかどうか、という点なのだ。


まとめ—凶悪犯罪者のサイコパスとは?

 本章では、サイコパスの定義と特徴、そして私たちの身近にも存在する可能性について掘り下げてきた。ここで改めて強調したいのは、サイコパス=犯罪者ではない ということだ。
 しかし、全ての凶悪犯罪者の中には、サイコパスが多く含まれている。 これは否定できない事実である。

 では、彼らはどのようにして「一線を越える」のか?
 普通の人とは異なる彼らの思考回路が、どのように犯罪へと向かわせるのか?

 次章では、「凶悪犯罪者の生い立ち」に焦点を当て、彼らの過去を紐解いていく。

第2章:凶悪犯罪者の生い立ち—彼らはなぜ「異常」になったのか?


 「人間は生まれつき善なのか、悪なのか?」

 これは哲学の世界でも古くから議論されてきたテーマだ。あなたはどう思うだろうか?

 私は昔、テレビのドキュメンタリー番組で、連続殺人犯の生い立ちを追った特集を見たことがある。彼が育った家は、表向きはごく普通の家庭に見えた。しかし、その家の内部は、まるで刑務所のような環境だった。父親は暴力的で、母親は子どもを無視し、家族の会話はほとんどなかったという。

 彼が初めて人を殺めたのは10代の頃だった。理由は「なんとなく」。その後、彼は何度も同じことを繰り返し、最終的に「モンスター」と呼ばれるまでになった。

 なぜ彼はそんな行動に走ったのか? もともと彼の心は「異常」だったのか? それとも、環境が彼をそうさせたのか?

 本章では、凶悪犯罪者たちの生い立ちを紐解き、彼らの心理がどのように形成されるのかを探っていく。生まれ持ったものなのか、それとも環境が影響するのか。その答えを一緒に考えてみよう。


家庭環境が与える影響—歪んだ心はどこで生まれるのか?

 幼少期の環境は、人の性格形成に大きな影響を与えることが知られている。特に、凶悪犯罪者の多くは、幼少期に以下のような経験をしていることが多い。

  • 家庭内暴力:親からの虐待、兄弟間での暴力など

  • ネグレクト(育児放棄):親が子どもに関心を持たない

  • 過保護・過干渉:異常なまでに厳しい躾、自由を奪われる生活

  • 犯罪者の親を持つ:家族に犯罪者がいる場合、その影響を受けることがある

 ここで思い出すのは、ある有名な殺人鬼のエピソードだ。彼は、幼い頃から母親に「お前は何をやってもダメな人間だ」と罵倒され続けていた。食事を与えられないこともあり、寒い冬の夜には外に放り出されることもあったという。

 そんな環境で育った彼が、やがて犯罪へと手を染めていったことは、ある意味で「必然」だったのかもしれない。幼少期に受けた傷は、簡単には癒えない。そして、その傷がある種の「復讐心」となり、社会に対する怒りへと変わっていくのだ。


社会との関係性—彼らはどこで道を踏み外したのか?

 犯罪者の心理を理解するうえで、「社会との関係性」も非常に重要なポイントとなる。

 一般的に、人は成長する過程で、学校や友人関係の中で社会性を学んでいく。しかし、凶悪犯罪者の多くは、その過程で何らかの問題を抱えている場合が多い。

 ある少年の話をしよう。彼は小学校の頃から周囲に馴染めず、クラスメイトから常に浮いた存在だった。いじめられることもあれば、自ら孤立することもあった。やがて彼は、「人と関わること」に意味を見出せなくなり、暴力的な思考へと変わっていった。

 「自分を認めてくれる人はいない」
 「どうせ何をしても許されない」

 そんな考えが根付いた結果、彼はやがて「誰かを傷つけること」に快楽を覚えるようになってしまったのだ。

 人間は、本質的に「認められたい」という欲求を持っている。しかし、それが満たされないまま成長した場合、彼らは「別の方法」で自分を証明しようとする。それが、犯罪行為であることも少なくないのだ。


遺伝か? 環境か?—凶悪犯罪者の本質を探る

 ここで一つの疑問が浮かぶ。

 もし、家庭環境や社会的影響だけが原因なら、すべての虐待を受けた子どもが犯罪者になるはずではないのか?

 実は、ここには「遺伝的要因」も関係しているという研究がある。

 ある研究では、凶悪犯罪者の脳を調査したところ、通常の人とは異なる脳の活動パターンが見られた。特に、感情を司る「扁桃体」と呼ばれる部分が、一般の人に比べて小さい傾向があるという。

 これは、「生まれつき共感能力が低い」可能性を示唆している。

 もちろん、「遺伝的要因だけで犯罪者になる」わけではない。だが、遺伝的に「共感しにくい脳」を持って生まれた人が、虐待やネグレクトといった環境で育った場合、犯罪に手を染める確率が高くなるのは事実だ。

 つまり、生まれつきの要因と環境の影響が組み合わさることで、凶悪犯罪者は生まれるのではないか というのが、現在の心理学における有力な説となっている。


まとめ—犯罪者の「境界線」はどこにあるのか?

 本章では、犯罪者の生い立ちについて掘り下げてきた。

 彼らが生まれ持った性質だけでなく、家庭環境や社会との関係が、彼らの人格を形作る重要な要素であることがわかった。

 だが、ここで一つ考えてほしい。

 「もし、彼らが別の環境で育っていたら?」

 もし、愛情深い家庭で育ち、良い友人に恵まれ、社会の中で自分の価値を見出すことができていたなら、彼らは犯罪者にならなかったのだろうか?

 そして、最も重要な疑問が残る。

 「では、彼らが犯罪を犯すとき、どんな心理状態だったのか?」

 次章では、彼らが初めて「一線を超えた瞬間」 に迫っていく。
 彼らは何を考え、どんな衝動に駆られ、どうしてその手を汚したのか?

 この「境界線」を知ることこそが、凶悪犯罪者の心理を理解するカギとなるのかもしれない。

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