【1分小説】指輪
親友と飲みに行った帰り。突如上がってきた吐瀉物の中に指輪があった。それは月光を反すようにきらきらと輝いていて、胃液の池とさっき食べた鶏の肉片の蔦とに浮かぶ一片の蓮の花みたいに綺麗だった。
酩酊した揺れる意識の中から記憶を探る。しかし、もちろん指輪を飲んだ覚えなどさらさら見当たらない。そもそもこの指輪自体にすらまったく見覚えがない。
私はアクセサリーを身に着けないから、指輪を買ったことが一度もない。だから、これは私のじゃない。だとすれば、だれかのもの?それか、だれかからもらったもの?ああ゛、気持ちが悪い。
温泉卵みたいな雲の奥の月を見上げる。首をもたげたとき、また胃液が喉をすぼめていくのを感じた。吐いた。吐瀉物の中にまたしても指輪があった。目を凝らすと、さっきのものとサイズ違いのおそろいだった。
そのとき、いつかのなにかの快感を思い出した。だが、当時私にまたがっていた男の顔だけが、モザイクになって見えなかった。私はいつの間にか、絶頂するように卒倒していた。
目を覚ますと、酸っぱい臭いのなかに、鶏の繊維だけが転がっていた。
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