「お疲れさま」は失礼ではない件
▼「お疲れさまです」というあいさつは失礼だから言わないほうがいい、というデマが流行(はや)っている。
2019年5月14日付の毎日新聞夕刊に、このいいかげんな説を全否定する優れたコラムが載っていた。小国綾子記者。適宜改行。見出しは
〈「お疲れさま」は失礼?〉
結論は、失礼ではない。
〈日本語学者の飯間浩明さんに聞いてみた。「いえ、失礼じゃないですよ」と言われ、ほっ。それどころか「ご苦労さまでした」も昭和の時代には目上に対して普通に使われていたそうだ。
「目上に『ご苦労さま』は失礼、という謎のルールが広まったのは20世紀末のようです」と飯間さん。そういえば私が「ご苦労さま」を封印したのも同じころ。〉
「お疲れさま」は、「ご苦労さま」の代わりに使われるようになったようだ。
〈飯間さん、面白い言葉を教えてくれた。「敬意逓減(ていげん)の法則」。敬語は使われるうちに敬意のニュアンスが薄らいでいく。「例えば『貴様』は江戸時代には手紙で目上に使われた。軍歌の時代は『貴様と俺とは同期の桜』で同輩に。今や相手を罵倒する言葉です。
本来は長い時間をかけて敬意が薄まり、使い手が失礼に感じて別の言葉を使い始めるのですが、いまはツイッターなどで『それは失礼だ!』という批判が可視化されやすい。敬意逓減のスピードが加速しています」。なるほど。
飯間さんに「『お疲れさま』を使い続けて大丈夫」と太鼓判を押してもらった私は、引き続き「お疲れさま」でいこうと決めた。迎えた令和の時代、「お疲れさま」に代わる職場あいさつの新スタンダードは登場するのだろうか。〉
▼筆者が「お疲れさま」は使ってはいけない、というウソを初めて知ったのは、タモリ氏がテレビで断言していたのを見た時だ。
なぜそんなウソを言うのかな、と思うと同時に、芸人というのはいいかげんなことを言うのが仕事だからなあ、とも思った。しかし、彼は「ブラタモリ」などでは「まっとう」なことを言って金を稼いでいるので、あの「お疲れさま」デマは社会に幾許(いくばく)かの影響を与えただろう。たぶん、毎日新聞夕刊よりも影響力が大きいだろう。
迷惑な話だ。
(2019年6月2日)
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