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吉本興業の騒動から見えるもの(1) 「闇営業」って言うな

▼報道すれば報道するほど、消えていく真実というものがある。

ということを、たまに思うのだが、吉本興業をめぐる最近の報道を見ていて、そう思った。

▼消えていく、と思ったことは2つ。

1)いわゆる「闇営業」の問題。宮迫博之氏の謝罪会見で明らかになった。

2)吉本と民放各社との関係。田村亮氏の謝罪会見で浮き彫りになった。

両方とも、日本社会の極めて深刻な害悪である「クロスオーナーシップ」とリンクしてくる問題だ。

両方とも、新聞社自身、テレビ会社自身に突きつけられている問題が、宮迫氏と亮氏の謝罪会見で露わになったのに、まず、謝罪会見ではふにゃふにゃの質問しかしないし、その後も、ほとんどのマスメディアが、それらの件に触れない。

▼まず、1)からメモしておこう。

筆者は、そもそも「闇営業」という言い方がよくないと思う。芸人たちが気の毒でしかたない。

吉本興業の場合は、そもそも契約書を交わさないのだから、厳密に言えば、闇も光もない。言葉のイメージが悪すぎる。宮迫氏も言っていたとおり、「直(ちょく)営業」とか、「直(ちょく)」でいい。

得々と「闇」「闇」と言っている人は、もしかしたら、自分は安全な「光」の側にいるとでも勘違いしているのではないかと余計な心配をしてしまう。

▼6000人いる吉本の芸人の、何割にあてはまるかわからないが、「直がなければ、家族を養えない」人がたくさんいるだろう。

▼わかりやすく書けば、宮迫氏も、亮氏も、さらにいえば、「直」のきっかけをつくったカラテカの今江氏も、「それほど悪いことをしたのか」ということだ。

まず、法律的には、何の問題もない。「いや、道義的責任ガー」とか、「公序良俗に反するガー」と叫ぶ人がいるが、芸人に公序良俗を求める人は、いったい何がしたいのだろう。素朴な疑問だ。

▼公序良俗など、簡単に変化するものであることは、前回、「芸人は、芸が身を助ける件」と題してメモした。興味のある人は読んでください。

しかし、もっともっと宮迫氏を擁護すればよかったと反省している。ちゃんと新聞記事を読んでいなかった。

以下は、2015年6月17日配信の朝日新聞デジタルの記事。

〈特殊詐欺の疑い、40人を逮捕 架空社債の購入持ちかけ〉

〈架空の社債の購入を持ちかけて現金をだまし取ったなどとして、警視庁と京都、愛知、佐賀など17府県警の合同捜査本部は、住所不詳、無職大野春水(しゅんすい)容疑者(27)ら男女計40人を詐欺や詐欺未遂容疑で逮捕し、17日発表した。1人が容疑を認めているほか、大野容疑者ら39人は否認や黙秘をしているという。

 発表によると、大野容疑者ら15人は昨年11~12月、奈良県大和高田市のパート女性(72)方に、実在する証券会社の社員を名乗って電話し「社債を購入してくれれば高値で買い取る」などとうそをつき、現金500万円をだまし取った疑いがある。残りの25人も同様に、長野県千曲市の無職男性(73)や愛知県田原市の無職女性(54)から現金をだまし取ろうとした疑いが持たれている。

 捜査員が16日、東京都台東区や新宿区にあるビルとマンション計4カ所を家宅捜索し、その場にいた40人を逮捕。固定電話116台や携帯電話111台、パソコン30台を押収した。合同捜査本部は、40人が詐欺電話をかける「かけ子」グループで、このグループによる詐欺被害が全国で約60件あり、被害総額は約20億円に上るとみて調べている。〉

▼今江氏、宮迫氏、亮氏たちは、このグループが、東京都内のホテルで開いたパーティーに呼ばれて、司会をしたり、余興で歌を歌ったりした。

そして、今となっては日本中の人が知っているが、彼らが呼ばれたパーティーは、「2014年の年末」に開かれた。

詐欺グループが逮捕されたのは、「2015年の6月」だ。

つまり、年末のパーティーの半年後だ。

▼ここで、「闇営業なんてとんでもない!」と思っている人がいたら、少しだけ考えてほしいのだが、警察が逮捕する半年も前に、あるグループのパーティーに呼ばれて、「いや、あれは反社会的勢力の集まりだから、行ってはダメだ」と、いったいどこの誰が判断できるだろうか。

どのマスメディアが、この「そもそものボタンの掛け違え」をわかりやすく報道しているだろうか。だいぶ手前で、思考停止していないか。

▼もしも、今回の件が前例になってしまったら、吉本に限らず、芸人として食べている人たちは、たまったものではない。「勘弁してくれよ」と思っている人が、たくさんいると思う。なぜなら、こんな案件は、原理的に「防ごうとしても防げない」「見抜こうと構えても、見抜けない」からだ。

うまいたとえが思いつかないが、たとえばゲームのマインスイーパで、広大なマス目のうち、最初のひとマスで地雷を押したら社会的生命が終わってしまうようなものだ。

▼さらに、これが肝心なところだが、7月20日の宮迫氏の謝罪会見で明らかになったように、この詐欺グループは、「吉本興業を通したイベントのスポンサー」だったというのだ。だから今江氏は安心していたし、宮迫氏以下の芸人たちも安心して、「直」に行ったのだ。

この証言が事実なら、問われるべきは個人ではなく吉本興業ではないのか?

「闇営業」と言えば言うほど、事の本質からズレていくのではないか?

▼マスメディアも、嬉々として個人攻撃にうつつを抜かしている人たちも、芸人たちをこれほど攻撃してやまないのに、吉本興業本体を同じようには決して攻撃しない。

もしかして、自分だけは安全圏に立って、安心して弱い者いじめがしたいだけではないのか。

▼もう一つ書いておくと、察しのいい人は気づいていると思うが、「どこでパーティーが開かれたのか」という問題がある。

東京都内の、あるホテルである。

▼なぜ、わざわざ「反社会的勢力」に部屋を貸したこのホテルを、誰も批判しないのか。念のため書いておくが、筆者は「そのホテルを批判せよ」、と言っているのではない。

▼芸人たちが呼ばれたパーティーは、都内の一流ホテルを借りて行われたパーティーなのである。ホテルは当然、客が「反社会的勢力であるかどうか」をチェックしただろう。詐欺グループは、そのチェックをクリアしているのだ。

個人攻撃に血道をあげる人たちの論法を借りれば、吉本興業も、この某ホテルも、「反社会的勢力」が罪もない人々から巻き上げたお金で、ほくほくと潤(うるお)っていたのだ。

芸人個人の失敗よりも、はるかに巨大な問題なのだが、マスメディアは取り上げない。

うっかり2600字を超えてしまった。(つづく)

(2019年7月25日)

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