元号の解釈は自由である件
▼「令和」という元号をどう解釈するか、それは一つだけではなくて、人それぞれであり、そうあるべきだ、ということを以前、メモした。安倍総理大臣が発表した見解は、もともとの出典には存在しない言葉で埋められていた。
▼今号は、元号「令和」発表直後の2019年4月2日、各紙で報道された記事の中から、面白かったものを三つ紹介する。
▼ロバート・キャンベル氏は2019年4月2日付の朝日新聞に以下のような素敵なコメントを寄せた。
〈「中国で伝統的に歌われる情景」として「帰田賦」説を唱えつつ、「国書か漢籍かということはどうでもよく、国を超えて共有される言葉の力、イメージを喚起する元号だ」と評価する。〉
筆者は、安倍総理は「国書」と「漢籍」の両方を出典として発表すれば国際的な感じが出てよかったのに、もったいないことをしたなあ、と思ったが、キャンベル氏のコメントには納得である。
言葉は国境を超えた力を持っている。
▼二つめは、「令和」という元号を予想的中させた人の話。共同通信の4月2日配信記事から。
〈当てた人 新元号予想で的中、愛知県の男性 「法令順守と平和」願う〉
〈新元号の公表前に相次いだ企業などによる予想イベントで、「令和」と的中した男性がいたことが2日、全国で居酒屋を経営する「ヨシックス」(名古屋市)への取材で分かった。愛知県の20代の男性で、ルールを守る日本になってほしいとの思いで法令順守の「令」、平和から「和」を取ったと説明しているという。
同社によると、元号を予想し、当たれば最大10万円分の優待券を贈るキャンペーンを2月から店頭とインターネットで開始。約5500件の応募があった。「和」を用いたのは300件以上あった一方、「令」は2件だけで、予想は難しかったようだ。〉
▼「令和」に関して、この説とはまったく異なる説が社会に流布しているが、この説を否定できる人もいない。解釈はそれぞれ自由だからだ。
筆者はこの記事を読んだ時、「イル・ポスティーノ」という映画を思い出した。何度見ても、「お前の人生はそれでいいのか」と問われたような気分になる、静かで、切なくて、大好きな映画だ。そのなかで主人公が、
「詩とは書いた人間のものではなく、それを必要とする人間のものだ」
と話す場面がある。
元号もまた一つの作品、一片の詩として読むことができる。筆者は「令和」について、今の日本が必要とする読み方は、「美しい国」の象徴として云々よりも、「ルールを守る日本になってほしい」というこの20代の読み方のほうだと思う。
▼三つめは、女子高生の発想に驚かされた記事。2019年4月2日付の東京新聞から。
〈渋谷で女子高生300人に聞いた予想には、安倍首相の名前の一字が入った「安久」や「平和」が上位を占める傍ら、「嵐」「タピオカ」「卍(まんじ)」がランクイン。調査した広告代理店「アイ・エヌ・ジー」(渋谷区)の久我美穂さん(27)は「女子高生の中でも改元は話題になっていた。好きな物や流行が結果に表れた」と話している。〉
「タピオカ」と「卍」には思わず声を出して感心してしまった。面白い。
▼じつは、「自分たちの好きな元号をつける」感覚は、そんなに変わったことではないかもしれない、と思わせる記事もあった。つい最近まで、日本列島には政治権力者の思惑とは別に、「勝手に元号をつける」感覚があったのだ。それは次号で。(つづく)
(2019年5月20日)