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「黒影紳士」season3-1幕〜夢に現れし〜 🎩第五章 纏う者


――第五章 纏う者――

「そう言えば、サダノブには嗅覚でもあるのか?」
と、黒影は帽子にブラシを当て、手入れをし乍らサダノブに聞いた。
「まさか、其処迄犬じゃありませんよ」
 と、少し憤くれてサダノブは答える。
「じゃあ、早坂 冬真のアリバイ崩しに、犯行現場に行った時……貫井 恵介の気配を如何やって読んだんだ?やっぱり殺気か?」
 黒影は気になっていた事を聞いた。
「ええ、多分。先輩程悍ましい殺気じゃないんで、薄くてなんとも言えませんけど」
 と、サダノブは答える。
「ふーん……結構、冷静沈着な奴らしいな。……サダノブ、早速殺気読みのテスト実験しよう!」
 唐突に黒影はにっこり笑って言う。……サダノブは、実験と聞いただけで、壮大な爆破実験を思い出し、ゾッとする。
「何だよ、其の顔は。今回は危なくないから、警戒しなくて良い。それに僕は怒って無い」
 と、黒影はサダノブに言った。確かに爆破実験の時は怒ってストレス発散しまくっていたけれど、今回は大丈夫そうだ。
「……廊下へ出よう。距離があるから丁度良い」
 黒影はそう提案する。
「ええ」
 サダノブは言われるがままに廊下へ出た。
「じゃあ……先ず僕が軽く殺気を出すから、丁度あの殺害現場で感じた程度になったら止めてくれ」
 と、黒影は言うと瞳の中に赤い炎が揺らぎ出す。
「えっ!ちょっと……!全然軽くないですよ!」
 殺される!殺気で殺される!……サダノブは逃げたい衝動に駆られた。何か振動でも起こっている様な目の錯覚が起き、耳にも台風の中にいる様な圧迫感を感じる。それに、何よりも、まるで熱風が吹いて来たみたいに熱い。
「何かあったのかい!」
 涼子が黒影の殺気に気付いて部屋を飛び出して来た。
「犯人かっ!」
 と、風柳も慌てて出て来る。
「すみませーん!サダノブの殺気読みテスト中です。お気になさらず」
 そう黒影が言うと、二人は何だとホッとして部屋に戻る。
「サダノブ?お早う」
 黒影の影から白雪も顔をチラッと出して、また寝た様だ。
「サダノブさぁーん、喧嘩は駄目ですよー」
 と、穂は黒影の殺気を感じてもあまり気にしていない。
「先輩、強過ぎます!もっと其の半分以下です」
 サダノブは汗を拭って言った。
「そうか……じゃあ、こんなもんか?」
 黒影は瞳の中の炎さえ消し、ケロッとして言った。
「ああ、其れです、其れ。……先輩其の殺気、何を思って出してるんですか?」
 と、サダノブは聞く。
「ああ、昨日の嫌だった事を思い出しているだけだ」
 黒影は答えた。
「それも殺気になるんですね」
 と、サダノブは苦笑する。
「さあ……次は距離だ。此の殺気が分からなくなるまで走れ!」
 黒影は廊下の先を指差す。
「朝からジョギングですかぁー?」
 と、サダノブは弱音を吐き乍ら、ランニングする様にスタスタ走り出す。背中にある黒影の殺気を感じながら。
「……此の辺かな」
 サダノブは止まった。
「本当に其処か?」
 黒影は確認する。
「ええ、全く分かりません」
 其のサダノブの言葉を聞いて、黒影は影を廊下にスーッと伸ばす。
「影を使って、氷を発動する手前迄、お前も殺気を上げろ。殺害現場で写真を見て警戒していた筈だからな」
 黒影は同じ状況にしたいらしいので、サダノブは心臓の鼓動を聞いて、速くなった瞬間に影に触れる。
「未だだ。未だ、先輩の殺気が分かる」
 サダノブはもう少しだけ廊下を走り止まった。
「此処だっ!此処みたいですー!」
 サダノブは黒影に手を振った。
「目視出来るな……。サダノブ、其処にいろ」
 黒影はゆっくり一歩一歩確かめてサダノブのいる地点へ向かう。
「約700メートル。一キロも満たない。冷静だな」
 黒影はそう言った。
「何が分かるんですか、コレで」
 と、サダノブは聞くと、
「ああ、貫井 恵介が何らかの能力を発動出来る距離だ。あまり遠くからは発動出来ない様だ。殺気立っても精々一キロが限界らしい。……ところで、サダノブの其のちょっとの殺気は何だ?」
 と、黒影は問う。
「其れは……先輩に睨まれた時」
 サダノブがそう答えると、
「警戒心の塊だな、サダノブは」
 と、黒影はクスクス笑い乍ら部屋に戻って言った。
 ――――――――――

「白雪、お早う。……時夢来本出して貰って良いかな?」
 と、黒影は何も無かった様に話した。
「う……まだ頭が痛い。今、出すわね」
 白雪は自分の鞄から本を出して手渡した。
「フロントに紅茶、頼もうか?」
 黒影が白雪に聞くと白雪は頷く。黒影は紅茶を頼んで内線を切った。
其の儘時夢来をセットし、予知の挿絵をじっと見て考える。サダノブ以外、何で皆同じ方向を向いているんだ?サダノブ以外に他の方向を向いていれば、犯人ではないかと思ったが違った様だ。
「あの羽根を何時出すか……」
 黒影は呟くと帽子を深めに被り、腕を組んで考える。
 ……欲しいな……あの羽根。犯人ならば僕の指紋を使って犯罪者側にしたいと思うかも知れない。
 ……そうだ、態と指紋を綺麗に残して羽根を出させよう。
 と、黒影は自分の命が如何のより、羽根を奪う算段をしていた。
 ――――――――

「どうも、お世話になりました。本当に五月蝿くてすみませんでした」
 と、言うと女将は、
「楽しんでいただけたなら良かったです。此れに懲りず、またのお帰り、お待ちしております」
 と、にっこり笑うと丁寧に見送ってくれた。
 黒影は帽子を取り、胸に当てると感謝し、
「勿論です。ではっ」
 と、帽子を振って車に乗った。
「いやー、良い所だったなぁー。湯も最高だったし、なんせ丁寧だ。すっかり疲れが取れたよ」
 と、風柳は満足そうだ。
「そうですね。忙しいですが、また暇があったら来ましょうか」
 黒影は、そう言って微笑んだ。
 ……はぁ、それにしても、一睡も出来無かった。今のうちに寝ておこう……。
 黒影は帽子を深く被り、ウトウト眠り始める。
 白雪も其れを見ているうちにウトウトつられて眠ってしまった。
「全く……昔と変わらない寝顔だな。遊び疲れが飲み疲れに変わっただけだ」
 と、風柳は二人の寝顔を見て、微笑んで呟く。
 ――――――――
「帰りのお楽しみ、だよー。サービスエリアに入っておくれ」
 と、涼子が無線を入れてきた。
「ああ!涼子さん、昨日の踊り素敵だったよ。サービスエリアだね、了解!」
 と、風柳は少し浮かれて無線に返答した。

「……何だい?今日は風柳の旦那、随分ご機嫌じゃないか」
 涼子は無線を切った後に言った。
「疲れも取れてご機嫌なんでしょう」
 と、穂が言う。
 ――――――――
「おお!絶景だなっ!」
 風柳がサービスエリアから山々が見下ろせる高台に登り、気持ち良さそうに言うと豪快に笑った。
「皆、此方で記念撮影するよ!」
 と、高台から横に行った、花壇が綺麗な場所に涼子は皆を集めた。
「……此処だ!」
 黒影は辺りを見渡す。数人の観光客が疎にいる。
「先輩!」
 サダノブも気付いて警戒した。
「何も言うな。無駄に巻き込みたくない」
 サダノブの隣で小さな声で黒影は言う。
「半径一キロ、忘れてないな?香炉は?」
 黒影はサダノブに聞いた。
「持ってます」
「良し、何があっても手放すな」
「りょーかい」

「サダノブさぁーん、此処恋人岬なんですよー。一緒に写真撮りましょう!」
 と、穂がサダノブに言って走って来る。
「えっ、そうなんですか?じゃあ、一枚撮ってもらぉーっと!」
 と、サダノブと穂が始めに石碑の前で写真を撮る。
 ……違う、未だ此の瞬間じゃない……。
 黒影は予知夢と似た状況になるのを静かに待っていた。
「じゃあ、先輩と白雪さんもどうぞ」
 サダノブがそう言うので、黒影は白雪と腕を組み写真を撮る。
「涼子さん……俺、余り者なんで一緒に撮って貰えませんか」
 と、風柳が涼子にお願いする。
「仕方無いねぇ、特別だよ」
 と、涼子と風柳は並び、風柳は少し嬉しそうだ。穂が写真を撮ると、白雪が覗き込んで、
「なんか、大人ねぇー……」
 と、言った。黒影は其れを見て、
 ……大人って言うか、不倫旅行じゃないか……と、思うが口が裂けても言えない。
「じゃあ、最後に皆で撮りましょうか」
 と、穂が言った時だった。
「折角景色が良いんだからパノラマにしないかい?」
 涼子がパタパタと穂の方へ小走りする。
 風柳も白雪もカメラの方を向いて、気が付けば隣にサダノブがいる。
「……サダノブ!この景色……ガッ」
 黒影は予知夢の景色になったと言いたかった。
 ……が、何時も首から下げてから胸ポケットに入れて、落ちない様にしていた懐中時計が、何故か首の後ろで風に靡いてる。然も、直ぐに懐中時計は凄い強さで後ろに何かに引っ張られる様に黒影の首に食い込んでいく。
 ……駄目だ、息が出来ない……そう言う事だったのか。……黒影はサダノブの肩を持ち、柵へジャンプすると自ら岬を飛び降りた。
「先ぱーいっ!」
 サダノブは肩を掴まれ、誰よりも一番に黒影が落下した事に気付き、ただ助けたい一心で飛び降りる。
 ……如何すれば……色々と考えている中、
「先輩!」
 落下し乍らも手を伸ばすサダノブが黒影に見えた。
「馬鹿か!お前まで来て如何する!」
 と、言いな乍らもサダノブが見えた事で、諦める訳にはいかないと落下地点を見詰める。
 自分が落下地点に近づくにつれ、影が大きくなる。黒影はハッキリ正解を見た。黒影は帽子をサダノブ目掛けて思いっきり投げ付けた。
「サダノブ!自分を凍らせろ!僕の帽子の影を使え!」
 サダノブが影から氷を出せるなら、此の影は予知夢の世界と同じ物。ならば……
 黒影は落下地点より前で、コートを広げた。落下地点の影が広がる。
 黒影は落下地点に手を伸ばす。
 ……折れても構わない、生きてさえいればっ!
 地面に手が付くと同時に業火を巻き込む竜巻を影から上昇させる。
 ……良し、火を掴んだ!
 黒影は地面を蹴り上げ、火を体に纏い竜巻に突っ込んで行く。
「サダノブー!」
 ……いた。黒影はサダノブの凍った体を捕まえると、竜巻を止めてゆっくり旋回して地上に降りた。
「あっつ!熱いっ!」
 サダノブは頭をプルプル振りながら顔面を押さえている。
「おい、大丈夫か?」
 黒影は心配そうに覗き込むと、サダノブは笑って、
「大丈夫でーす!危なく自分の氷で窒息死するかと思いましたけど」
 と、言うので、
「こんな時に巫山戯やがって」
 と、黒影は言いながらもサダノブの無事にほっとして微笑んだ。
「サダノブ、犯人は僕を突き落として時夢来の懐中時計と、其の指紋を狙って来る。直ぐ隠れて犯人が羽根を出したら、此の偽物をばら撒いてやれ。後、時夢来本を持つ白雪が心配だ。涼子さんに無事と、白雪を頼むと伝えてくれ」
 サダノブは急いで近くの木々に紛れて隠れた。
 そしてタブレットから涼子にメッセージを送る。
 黒影は其の間に、帽子の底の裏からメスを取り出す。
「先輩!何するんですかっ!」
 小声でサダノブが言うと、
「頭を少し傷付けるだけだ。頭は血が沢山出るからな」
 そう言って前髪を上げると額を少し切る。すると、黒影の言った通り、顔の半分が真っ赤になる程血が流れ出た。
 そして黒影はメスをコートの首の後ろの襟の折り返しに挟むと、死んだふりをした。
 遠くから靴音がする。此の静かな殺気……貫井 恵介に違いない。サダノブは更に身を小さく息を殺した。
「やっと死んでくれたか、黒影……」
 貫井 恵介は、黒影を見て言うと、証拠にするのかスマホで写真を撮った。
「そうだ、こんな時は確認しなくちゃいけないな」
 そう言うと、貫井 恵介は黒影の腹を何度もガツガツ蹴りまくる。
 ……先輩!サダノブは、今にも助けに飛び出したいが、其れでは黒影の計画が台無しになってしまう。耐えるんだ……黒影が今、そうしている様に。
 貫井 恵介はとうとう蹴るのを諦めてポケットから羽根を取り出した。
 ……あれだっ!
「よくも、先輩を……」
 サダノブは貫井 恵介の前に出た。そして走って、直ぐに羽根をばら撒いた。此れを如何すれば良いかも分からないが、黒影が言ったのだから此れで良い筈だ。
 黒影はゆっくり立ち上がる。そして、炎をいきなり貫井 恵介に飛ばした。貫井 恵介は羽が燃やされない様に未だ手に持っている。
 黒影は、尚も手を狙わず、彼方此方に火を飛ばした。
 ……何で、貫井 恵介に当てないんだ?サダノブは不思議に思っていた。
「黒影、何がしたいんだ?」
 貫井 恵介は笑った。其の瞬間、黒影は貫井 恵介の真上の崖に火を当て石をバラバラと落とす。貫井 恵介はふいに顔を伏せて頭を下げた。
 ……今だっ!
 黒影は、メスを貫井 恵介の羽根を持つ手に投げ刺した。そして羽根が落ちると、自分の足元の影を使い、熱風で羽根を混ぜてしまう。
「サダノブ!貫井の足ごと羽根も凍らせろ!」
 黒影はそう言うと、慌てて貫井の手のメスを回収し、今度は貫井の反対側へ掌を突き出し、地面に熱風の風の渦を横に流すと、サダノブの腕を取り、
「離れるぞ!」
 と、言うなり突っ込んで行く。
 気が付くと少し先に貫井 恵介が見える。
「半径一キロ外、脱出成功だ」
 と、黒影は息を切らせて言った。黒影は直ぐに風柳に連絡を入れた。
「貫井 恵介。今、動けなくしています。彼の能力は半径一キロ以内の物理移動。確保の際は厳重に注意されたし。もし確保が困難であれば、多少手荒だが此方でも出来ます。羽根のお礼と言っておいて下さい。尚、凍傷の緊急搬送の準備が最低条件。以上!」
――――――――
 暫くして救急車が到着した音がした。
「準備出来たぞー」
 風柳が高台の上から声を轟かせて言った。黒影は、怒鳴るのが面倒でスマホで風柳に連絡する。
「一般人に知られるのは厄介ですから、見えない様に囲ったら離れるよう誘導して下さい。後、一気に登るので覗いてると危ないです。警察、緊急関係者も最低10メートルは下がらせて下さい」
 と、黒影が言う。暫くして、
「用意できたぞ!」
 と、言うので黒影は、
「りょーかい」
 と、サダノブにさっきの逆をすると言う。
「えっ?俺は?」
 犯人を上げて、取り残されると思ったサダノブは慌てて聞いた。
「仕方無い、迎えに来てやるよ。……其れ迄に、全部の羽根を拾っておいてくれ」
 と、黒影は言って笑った。
「良し、貫井 恵介を運ぶぞ!影を伸ばすから、此処から凍らせるんだ」
 と、言うなり、黒影はズルズル影を伸ばした。サダノブは其の影が伸びると同時に氷柱を地面から這わせ、バキバキと進み、貫井 恵介の体を固まらせる。
「先輩、急いで!」
「分かっている!」
 黒影は、其の氷で出来た影を進み、貫井 恵介の足元だけ溶かして上を持つと、熱風の中、真っ赤な炎を纏い舞い上がる。高台で、貫井 恵介の顔を撫で、氷を溶かし呼吸を確認すると風柳に手錠を借り、逮捕した。やはり、指紋は無かった。
「まだ緊急搬送は待って下さい。サダノブを上げてからです」
 黒影はもう一度、飛び降りた。
「良く信じるな。二度と呼吸出来なくなるかも知れないし、火傷するかも知れないのに」
 と、サダノブに黒影は言う。
「当たり前じゃないですか。先輩が俺を信用してくれるのと同じです。だから、……はい、羽根集めておきましたよ。あと、香炉も。俺は何度でも思い出します。ただ……」
 サダノブは言い辛そうだった。
「ただ?」
 黒影は聞いた。
「手……骨折しましたよね。ちゃんと治して下さい」
「ああ、約束する」

 サダノブを連れて上がり、僕は忘却の香炉をたいた。
 サダノブ含む、皆に車にいる様に言ってから。
 やっぱり、僕は嘘が苦手だと思うから。
 警察と緊急、貫井 恵介は如何やって上がって来たか覚えていないだろう。
 だから、こう言ったんだ。夢探偵社と「たすかーる」で何とか引き上げたんだって。
 サダノブは帰って来るなり、
「先輩には嘘は似合わない。だって真実を追う人だから」
 と、笑って言った。
 手の骨折は指三本の軽いもので済んだが、珈琲が飲み辛いのには困っている。

 貫井 恵介はあの指紋の無い手に、酷くコンプレックスを持っていたらしい。あの手の所為で職場で馬鹿にされたり、指紋認証すら使えないと不便にしか思った事は無く、そんな理由で物を落とし易いからとクビにまでなった。其れが嫌で嫌で、あの羽根を手にした時、自分の為に存在すべくして出逢った運命の羽根だと思ったらしいのだ。
 物理移動能力があっても、その能力よりも其の羽根に拘った理由がそれらしい。
 然し、其れで人殺しをしてもやはり金にはならなかった。殺したのは皆、彼の指紋の無い手を笑った者だと供述している。其処で闇の世界じゃ賞金首になっている僕をターゲットに変えたそうだ。もし失敗しても、僕の指紋を使い、闇の世界に引き込みたかったらしい。
 彼の殺意は少し歪《いびつ》で、僕が能力者であるのに、闇の世界にいないのが哀れだとも言った。確かに、光の下にばかりいれば息苦しさも感じるだろう。
 だから僕は光の中に影を作り生きている。
 彼は僕を救済するつもりだったらしいのだ。もう闇から逃れなくても良い様に。
 僕には「救済」なんて言葉は未だ考えるにも早過ぎる気がする。だから今は、「真実」だけがあれば良いと思うのだ。
 ――――――――――――
「ポチ2世、有難うな」
 サダノブは、忘却の香炉に手を合わせ、何故かお礼を言っている。
「……なぁ、何時からポチ2世はそんなに偉くなったんだ?」
 と、黒影は聞いた。
「あれ?何時からだっけ?……まあ、良いんすよ、お守りなんですから」
 サダノブは吞気にぽかーんとした顔で答える。
 黒影はコートのポケットに手を入れて階段を登ろうとした。
「ああ!先輩がくれたから、お守りになって……それで、偉いんだから、結局、先輩に有難う御座いますって言いたかったんですよ」
 と、サダノブは相変わらずの酷い説明をするのだが、
「そりゃあ、どうも」
 黒影はそう言ってクスッと笑うと、また階段を上がる。
 部屋に入る前に、一階から元気な声で、
「先輩の指が早く治りますよーに!」
 と、サダノブが言ったのが聞こえた。
「幼稚園か……馬鹿が」
 と、小さい声で言ったが、黒影は優しく今日も微笑んでいた。


 ――season3-1幕は取り敢えず完――

ですが〜、やっぱり未だ未だ続くのです。
ん?何処まで?
聞いちゃいましたか?
まだ半分に満たないです。
更に新幕が追随して降ってます。
けれど、案外読書好き様ならスッと来れたのでは?
読書好き様が嵌るんです、何故か。
だから、余り書いている方にはアピールしないんです。
何と無く、お分かり頂けました頃でしょう?微笑


🔸次の↓season3-2 第一章へ↓

🔸連鎖「Prodigy」をこの幕の先頭に読まなかった方のゆっくり寄り道用の道は此方。

🔗お帰りの道は「Prodigy」末章にて、この幕先頭とこの末章のリンク🔗を繋いでおきますので、ご安心して行き来下さいませ。

🔗此方からは未だと言う方も、「黒影紳士世界」マガジンから何時でも読めます。

この記事が参加している募集

お賽銭箱と言う名の実は骸骨の手が出てくるびっくり箱。 著者の執筆の酒代か当てになる。若しくは珈琲代。 なんてなぁ〜要らないよ。大事なお金なんだ。自分の為に投資しなね。 今を良くする為、未来を良くする為に…てな。 如何してもなら、薔薇買って写メって皆で癒されるかな。