警察が、こわい。
店のまえの通りに、パトカーがいた。
昨日の夜、閉店作業をしていたときのことだ。
その赤いランプと白黒の車体を見て、心拍数が上がる。
心の中でつぶやく。
『僕はなにもしてません。僕はなにもしてません』
こういうときに、わけもなく罪の意識を感じるのは僕だけではあるまい。
法の番人をまえに、なぜか緊張してしまうのだ。
僕の住んでいるところは、警官との遭遇率が高い。
その度に頭をよぎる。
『もしかして、あのことがバレた?』
もはや気分はウォルター・ホワイトだ。
しかし僕に、キャンピングカーで麻薬を生成するスキルも度胸もない。
すると脳は勝手に、最近の悪事を列挙し始める。
『彼女と一緒に買ったおやつを、勝手に食べたことか?』
『弟が結婚したときのご祝儀をケチりすぎたこと?』
『それなら、このまえ朝までゲームをしてしまったことも?』
『そのゲームで盗賊団を暴力で壊滅させたのは、やりすぎだったか』
『近くの村で盗みもやったし』
『一般人を馬車で轢いて、吹き飛ばしてしまったこともある』
盗難、詐欺、器物損壊、殺人。
考え始めると、僕の思考の傾向はたしかに犯罪者のそれだった。
もしかして、という考えも浮かぶ。
警察との遭遇率が高いのも、知らない間に僕のプロファイリングは済んでいて、『要監視対象』になっているからなのではないか?
『PSYCHO-PASS』のように、犯罪係数が導入されたあかつきには、その施行日のうちに、変形機構のついた、いかつい銃を携えるスーツの二人組が家にやってくるだろう。
自覚もある。
残念ながら。
こうして僕が自宅にいる今も、どこかでアンパンをほおばる刑事によるハリコミが行われているに違いない。
『ホシはもうじき動き出すはずだ。おい新人。手錠の用意はできてんだろうな?』
『もちろんッス!』
『よし。よく見とけ。心に闇を抱えた人間がどんな顔してるかを、な』
『オッス! 勉強になるッス!』
僕はその奇異の眼差しにさらされるのは嫌なので、「もう外出は控えよう」と思った。