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主人公に託そう《宝の地図》!/愛を込めて「SAVE THE CATの法則」シリーズをご紹介したい【第2回】
いきなりですが、まとめから入ります。
1)主人公には《宝の地図》を持たせたい!と思った
2)宝の地図を持つ主人公は超強力な冒険のリーダーになってくれる
3)目的だけ持たせるのではなく、宝の地図の3項目すべてを主人公に持たせていきたい
今日はこんなお話です。
(※前回次回予告からだいぶ変わりましたすみません)
* * *
シナリオライター12年生のしむらです。いろいろ書くシナリオライター。とにかく作るのが好き。パンダも好き。レッサーパンダも好き。
そして自分が書いたキャラクターも大大大大大大大好きです。(ドドン
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「D.backup リモのはこにわ」より。
https://pp.atelierpp.com/d_backup/
そんな私は、遠い過去に生み出してきたキャラクターたちに大ッ変申し訳ない気持ちを抱いています。
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それはなぜかと言うと・・・
過去の私は──SAVE THE CATの法則シリーズを読む前の私は、大事な大事な子どもたちに《宝の地図》を託してこなかったから!!!!
SAVE THE CATの法則シリーズ?
SAVE THE CATの法則とは、シナリオを書くという《大冒険》を最高に楽しくしてくれるガイドブック!
詳しくは第1回の記事を見てね!!!!!
主人公に託そう《宝の地図》!
さて。土下座から垂直ジャンプ↑↑↑で立ち上がり本題です。
第1回では『SAVE THE CATの法則』シリーズ第一弾の『本当に売れる脚本術』で紹介されている《ブレイク・スナイダー・ビート・シート》について激推ししてまいりました。
今回は、ブレイクさんが『本当に売れる脚本術』で提唱したいくつものツールを小説執筆に転用することを目的として執筆された、もうひとつのSAVE THE CAT、ジェシカ・ブロディさんの『SAVE THE CATの法則で売れる小説を書く』より、
私が最高と思った&もっと早く知るべきだったと痛感した教えを、私なりの言葉でシェアシェアしていきたいと思っています。
早速見ていきましょう。それは同書の『気になる主人公とは?』の章で非常~~にわかりやすく紹介されている・・・これ!!
ヒーローに次の3つを与えればOK。
1 問題(あるいは、どうしようもない欠点)
2 求めるもの(あるいは、ヒーローが求めるゴール)
3 本当に必要なもの(あるいは、人生の教訓)
以上の3つを最初から考えておけば、あなたが考えたヒーローは放っておいても見る見るうちに肉づけされていきます。
著:ジェシカ・ブロディ 訳:島内哲朗 フィルムアート社
書き手の方なら、↑を見たとたんに「うちの子どうだったっけ?」と今すぐ確認しに行きたくなるかと思います・・・が、ちょっと待って。この記事読んでからにして!! 行かないでッ!!!!
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物語=冒険です。そして前回紹介した「ブレイク・スナイダー・ビート・シート」は、作家が持つべき最高の冒険のガイドブックとして紹介させていただきました。
では、この《主人公に持たせるべき3か条》は何に例えられるかというと・・・そう、《宝の地図》!!
ジェシカさんは、これを持たせることによって主人公(ヒーロー)は「放っておいても見る見るうちに肉づけされていく」と仰っていましたが・・・
私はある実体験を得てから「いやいやジェシカさん、それ以上の効果あったよ!」と、ジェシカさんひいては世界の物語書きのみなさんに伝えたい気持ちになりました。
それ以上の効果とは──
宝の地図を手に入れた主人公は、超強力な《冒険のリーダー》になってくれる!
私が実体験として得た《宝の地図》の最高の効果は、マジでこの表現に尽きます。
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観客にとって主人公とは《僕らを引っ張る大冒険のリーダー》であってほしいもの!
と書いても「何言ってんだこいつ」と思われかねないので・・・まずは、困ったときの具体例にご登場願いませう!!
宝の地図がどのように名作に仕込まれているのかを《クレイマー、クレイマー》を例に説明してみる
SAVE THE CATシリーズ『10のストーリー・タイプから学ぶ脚本術』内でも紹介されている、ダスティン・ホフマン主演の名画『クレイマー、クレイマー』では、映画序盤と終盤に、ダスティン演じる新米シングルファーザー・テッドが、幼い息子のビリーにフレンチトーストを作ってあげるシーンがあります。
この映画を観たことがある人は、《クレイマー、クレイマーのフレンチトースト》と言うだけで涙腺が崩壊するんではないでしょうか私はする(食い気味
(ネトフリさん、このシーンピックアップしてくれてありがとう)
序盤、まだ新米シングルファーザーだったテッドお父さんは、これから息子とふたりで生活していかなければならない不安と苛立ちもあり、フレンチトーストをうまく作ることができず、最終的にはフライパンを落とす・台無しにする・そして子どもの前でブチ切れるという最悪の姿を見せていました。
しかし。
この物語という冒険を経て成長した終盤のテッドお父さんは違います。息子と息の合ったコンビプレイを見せながら、順調に、淡々と……とっても美味しそうなフレンチトーストを完成させるのですあのシーンの感動ったらない(再び食い気味
クレイマー、クレイマーのフレンチトーストとはテッドの成長の象徴!!
美しい!!
これぞドラマだ!!!!!!
脱線しました。(認める)
さて。そんな『クレイマー、クレイマー』にもブレイク・スナイダー・ビート・シートは内包されています。もちろん今回話題に取り上げている《宝の地図》こと、主人公に持たせるべき3か条も!
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『クレイマー、クレイマー』のテッドの宝の地図(予想)
1 問題
「広告業界での仕事に没頭し家庭をほったらかしていたら、妻が突然出ていってしまった。今日は人生のベスト・ファイブに入るくらいの良い日だったって言うのに、妻のせいで台無しだ!」・・・と思っていること=利己的になってしまっていること
2 求めるもの
「妻がいなくたって、ビリーと二人で楽しく暮らしてやる!!」
3 本当に必要なもの
利己的ではなく他己的な人間になること。愛を知ること!
ダスティン・ホフマン演じる新米シングルファーザー・テッドに託された3か条──宝の地図は、きっとこんな感じ。
※『10のストーリー・タイプから学ぶ脚本術』もヒントにしつつ私が考えたものです。なのでロバート・ベントンさんのお考えになったこととは違っているかもしれませんのでなにとぞやさしい気持ちで受け取ってください
かの名作の中で、3か条こと宝の地図がどのように仕込まれ機能しているのか?私の拙い要約でストーリーを観ながら、一緒に確認していきましょう。
第一幕でのテッド
テッドは夜遅くまで会社に入り浸り上司と談笑しています。家族のために早く家に帰ろうという気持ちは微塵もなさそうです。おっ、ダメ夫か?
更に上司からは出世の話を持ち出されルンタッタの上機嫌。息子のビリーが寝静まった後に家に帰ってきて、なにか言いたそうにしている妻の話も聞かずにまずは電話。電話が終わったら終ったで、妻にかけた言葉は・・・「食事は?」
はい、妻は家から出ていきました。
テッドは妻が出ていった原因がわからず混乱。イライラ。そして夫婦を心配して家にやってきた友人のマーガレットに対して叫び散らかしました。
テッド「彼女が僕に何をしたかわかるか!?」
マーガレット「あなたの人生のベスト・ファイブに入る日を台無しにした」
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▶これは《1.問題》をベースに作られたお膳立て、問題提起のビート。マーガレットのセリフが暗に「あなたは自分のことしか考えられない人だものね」という皮肉を含んでいます。ぐうの音も出ない。
▶テッドの冒険はここから始まります。ここがテッドが冒険の最初に立つべき場所。スタートライン。
第二幕前半でのテッド
妻が帰ってこないのが決定的になると、テッドは妻のありとあらゆる痕跡を家の中から排除しはじめます。
「妻がいなくたって、ビリーと二人で楽しく暮らしてやる!!」
この《お楽しみ》ビートのテッドからはそんな意志をひしひしと感じます。
どっこい、息子のビリーはママを求めて寂しそうです。しかし、テッドは仕事と家庭を何の問題もなく両立させようとするのに必死で、ニコニコしながらもビリーの気持ちなんて考えている暇がありません。
ビリーの困惑と悲しみは、父への反抗という形で表出。ビリーの反抗的な態度はテッドから作り笑顔を奪い、彼を苛立たせていきます・・・
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▶これは《2.求めるもの》に沿って語られるお楽しみのビート。テッドは求めるもの(=ビリーと二人で楽しく暮らすこと)に引っ張られるあまり、幼い息子が反抗という形で示した心のSOSを笑顔で無視。嗚呼矛盾!その結果テッドはビリーにそっぽを向かれるなど多くの失敗を繰り返します。
▶しかしこれはテッドの冒険には必要な道のり。失敗の道のりを歩むことでテッドは、「このままではいけない」「何かを変えないといけない」と学んでいるのです。失敗は成功のモト!
中間部のテッド
ビリーとの大ゲンカを経て、テッドはようやく現実に目を向けビリーの寂しさを受け入れるようになります。テッドがビリーに何気なく言った「また明日」というセリフは、ビリーにとってなんと心強かったことでしょう。
テッドはビリーの自転車の練習に付き合うなど、それまでやってこなかった父親らしいことをどんどんするようになっていきます。良好になっていく父子関係。楽しい日常。そのピークとして、あのフレンチトーストに並び立つ名シーン──テッドの成長を印象づける中間部の名シーンがやってきます。
公園で遊んでいたビリーが、遊具から落ちてケガをしてしまいます。
痛くて泣き叫ぶビリーを抱え病院に駆け込むテッド。担当医は幼いビリーの目の近くを縫うと告げました。10針もです。
あれよあれよという間に処置が始まりました。そのときです。
あの、自分のことしか考えていなかったダメ父テッドが、
処置の痛みで泣き叫ぶビリーのおでこにキスをして、
「大丈夫だ、大丈夫だ、お前は強い子だ」囁きかけ、
一緒に痛みを堪えるのです・・・!
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▶これはテッドが《3.本当に必要なもの》に近づきつつあることを示しているミッド・ポイントのビート。テッドはこの冒険の中で順調に成長しています!・・・今のところは。
▶そう。これは偽りの勝利。だってまでこの物語は中間点。残り50%も残っているのですから。
第二幕後半~第三幕のテッド
このあとテッドは、元妻ジョアンナがふっかけてきたバチバチの法廷バトルに挑むことになります・・・かわいいビリーの親権をめぐって。
詳細は省きますが、この後のテッドは再び《2.求めるもの》=ビリーと二人で楽しく暮らすこと(築き上げた日常を守ること)に引っ張られて行動します。結果、ジョアンナとはバチバチの敵対状態。
このあたりのビートを観ていると、あたかもテッドがビリーの親権を勝ち取ることこそが、テッドにとっての勝利のように感じられます。
しかし、本当にそうでしょうか?
テッドは中間部までの冒険で成長し、息子のビリー=血の繋がった家族を思いやれる人間になりつつありました。
元妻ジョアンナは、テッドにとってビリーとの日常を壊す敵でしょうか?
それとも──
物語はクライマックスへ向かっていきます。テッドは中間部で掴みかけていた《ソレ》を、ジョアンナとの法廷バトルを得てついに、ついに手にするのです。
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\\ エンドロール! テッドは《宝》を手に入れた! //
▶この冒険を終えたテッドは《3.本当に必要なもの》──利己的ではなく他己的な人間になること。愛を知ることを手に入れました。これはテッドがビリーやジョアンナ、友人マーガレットとの冒険の果てに得た《宝》!
▶宝を手に入れたテッドは、物語の冒頭からは考えられないほど大きく成長しています。冒険は人を成長させるもの。物語は主人公を成長させるものなのです。
* * *
以上『クレイマー、クレイマー』の主人公テッドを例にして、『SAVE THE CATの法則で売れる小説を書く』で解説されている3か条──私が《宝の地図》と呼ぶ3要素──が、名作の中でどのように仕込まれ機能しているのかを解説してみました。
(人に説明するために書くと自分の中でも整理されていいですね)
改めて、宝の地図を持つ主人公が超強力な冒険のリーダーになってくれる理由を解説してみる
さて。ここまでの説明を踏まえた上で、私が3か条=宝の地図を主人公に持たせることで起きた最高の効果を解説します。
先の『クレイマー、クレイマー』の前半部では、テッドというダメ父・ダメ主人公の《問題》や《求めるもの》に引っ張られた行動に多くの人が呆れることでしょう。なにやってんだい、と。
が、人はその呆れの感情を抱いた時点から、無意識にテッドという《ある意味魅力的な主人公》に惹かれ、引っ張られ始めているのです。
「こんなダメ父が、物語の最後にはどうなるのだろう?」
そしてテッドは、その期待通りに成長を遂げ続けてくれます。時々《求めるもの》に引っ張られて失敗しながらも、《本当に必要なもの》を手に入れるまで続く、冒険の道程で。
「テッド、成長してるなぁ・・・でもまだまだ問題はありそうだ。よし、最後までついていくぜ!」
こうなれば、観客は最後までテッドの冒険についてきてくれます。つまり、映画を最後まで視聴してくれるということ。
これこそが、主人公が物語という冒険を牽引する超強力なリーダーシップを発揮している状態。
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私が宝の地図のことを知った後に生みだされ、宝の地図を持たせて冒険=物語に送り出した主人公たちは、私がそれまで描いてきた主人公たちよりもずっと「前に進みたがる力」と「観客を巻き込む力」を持っているように感じられました。
結果、その主人公の物語を読んでくださった某編集部さんからも、これまでと違ったとても良い反応をいただけています。ありがたや。
《宝の地図》がない主人公はどうなる?
お次はちょっとネガティブな観点から、宝の地図の最高さを伝えてみることにします。
物語を書く人は、一度くらい誰かにこんなことを言われたことがないでしょうか。
「で、この主人公の目的は何?」
物語の主人公を描くうえで欠かせないのが、主人公の《目的》。
「何がしたいのか」「どうなりたいのか」がよくわからない主人公の様子が延々と語られる作品は、乱暴な言い方ですが、つまんなくなりがちです。
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主人公を観客を乗せるジェットコースターに例えた場合、目的がない・わからないというのは、つまりゴールがないということ。
ゴールがないジェットコースターなんて、乗る前から不安になりそう。
「どこに向かってるの……?」「いつ終わるの……??」
そんな声が乗客から聞こえてきそうです。
目的のない主人公=観客を牽引する気がない、リーダーシップのない主人公。これじゃあ観客もついてきてはくれません。
だからシナリオ学校の先生方も、担当編集さんも、目的がよくわからん主人公に出会ったら「この子の目的はなに?」とか「この子に目的を持たせてあげて」とコメントをするのです。
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私も会社ではシナリオディレクターをしています。たま~にですが、主人公の目的が不明なお話が書き手さんから上がってくることもあるので、その際は世の編集さんみたいに↑のようなコメントすることもあったのですが。
SAVE THE CATを読んだあと、私はこの伝え方を改めることにしました。
なぜなら「目的を与えてあげて」だけだと、ちょっと足りなくて。聞きようによっては《求めるもの》だけを設定すればいいみたいに取られてしまうかもしれないな、と思ったからです。
1 問題(あるいは、どうしようもない欠点)
2 求めるもの(あるいは、ヒーローが求めるゴール)
3 本当に必要なもの(あるいは、人生の教訓)
著:ジェシカ・ブロディ 訳:島内哲朗 フィルムアート社
「目的を与えてあげて」というコメントを受けた書き手さんは、たしかに目的=《2》を設定した修正稿を上げてくれます。どっこい、それだと↑で言う《1》と《3》が欠けていたりすることが、ままあったのです。
1と3が欠けた主人公が、どんな主人公になるかというと・・・
❌《問題》が欠けると、せっかく設定した目的=《求めるもの》を求める必然性や説得力がなくなり、共感しづらい主人公になる。
❌《本当に必要なもの》が欠けると、主人公が順調に目的=《求めるもの》だけを達成してお話が終わってしまう。主人公は成長を遂げられないまま終わり、テーマ・教訓が語られることはなく、物語が終わったあとに観客の心に何も残せない主人公になる。
目的=求めるものがない主人公が、観客を牽引する気がないリーダーシップのない主人公になるとすれば、
問題がない、本当に必要なものを手に入れない主人公は、観客を牽引したくてもできない、リーダーとしての資質に欠ける主人公・・・そんな人になりがちです。悲しきかな。
宝の地図は1~3すべてが揃っていなければ、主人公を超強力なリーダーにするという効果を発揮できないようなのです。
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なので最近の私は「この主人公、なんか面白くないぞ」と思ったら、その子に《宝の地図》の1~3すべてが持たされているかどうかをチェックします。
もし1つでも欠けているものを見つけたら、それを補えるよう、書き手さんに伝え、調整するのです。
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自分の主人公に持たせたくなるかなって思ったりもする。
さあ、持ってっちゃって!
第2回のまとめ
1)主人公には《宝の地図》を持たせたい!と思った
2)宝の地図を持つ主人公は超強力な冒険のリーダーになってくれる
3)目的だけ持たせるのではなく、宝の地図の3項目すべてを主人公に持たせていきたい
SAVE THE CATのおかげでシナリオを書くのがもっと楽しい! しむらおとのが激推し気味に紹介・解説させていただきました。
前回&今回と例に挙げてきたビートシート&3か条以外にも、『SAVE THE CATの法則』シリーズには、脚本・小説・シナリオなどなど物語づくりをも~~~~~~っと楽しくしてくれるツールがたくさん紹介されています!
・最高のログラインの書き方
・10のストーリー・タイプ
・プールで泳ぐローマ教皇
・氷山、遠すぎ!
・SAVE THE CAT! つまり、猫を救え!
ブレイクさん&菊池さんのネーミングセンスがまた良いんです。ほらほら、なんだか中身が気になってきませんか?
そんなあなたは、ぜひぜひ本書を手にとってみてください。見て。読んで。そして楽しくシナリオ書いちゃって!! わくわく!!!!!!(アーニャ?)
SAVE THE CATシリーズは、以下の商品がAmazonにて取り扱い中です。
次回予告
さて次回は・・・・・・・・・・未定です(真顔)
いや!!!!!
前回(第一回)でドヤ顔で次回予告★とかしておきながら!!
結局書いてるうちに内容が変わってしまった今回だったので!!!!!!!!!!!!!
次回については一旦未定にしておきます・・・(たぶん、おそらく、SAVE THE CATのどれを買ったらいいの?という話はすると思います)
あなたの主人公と良き冒険を! おとのでした。
* * *
▼6/12追記 第3回公開しました!
▼こんな活動もしてるよ宣伝。
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