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就職先は島。水槽に向かって「また明日ね!」そういう世界ではたらきたい。

東京生まれ東京育ち。
静岡の大学では海洋学を学び、新卒のタイミングで海士町に来島。
大人の島留学卒業後も、いわがきの赤ちゃんを育て続けることを決めた理由とは。

島根県の離島、隠岐島前地域で大人の島留学・島体験に参画した皆さんの来島前・来島後、そしてこれからについてお届けする「私、島で働く。」
その卒業生版、番外編となる「卒業生は、今。」
来島のきっかけから島での仕事・暮らし、自分自身の変化。そしてこれからを思い描く未来とは。
1人1人のストーリーをお届けしています。

篠原夢さん 東京都出身 取材当時23歳
R5年度大人の島留学生として参画
現在は海士町役場いわがき春香特命担当として勤務

R5年度大人の島留学生として海士町に来島。
今年の春から海士町役場の入庁し、いわがき春香特命担当として海士町種苗センターで勤務する篠原夢さんにお話を伺いました。


大人の島留学を経て、海士町種苗センターの正職員になるまでのこと。

昨年は、大人の島留学という制度に参画して、海士町種苗センターでいわがきの赤ちゃんを育てるお仕事をしていました。
今年度は海士町役場に入庁し、正職員として変わらずお仕事を続けています。

海士町種苗センター

海士町種苗センターは、一年を通していわがきの赤ちゃんの成長を見守るお仕事です。

いわがきの赤ちゃんの体の大きさを測ったり、1ml中に赤ちゃんが何個体いるかを数えたり。Instagramの投稿やnoteの更新をしたり。
餌やりの濃縮という作業のサポートなどが主な仕事です。

ウニの赤ちゃんが誕生したときは、採卵を見学させてもらって、とにかく幅広い業務に関わらせてもらっています。

餌の濃縮作業

自分の中の直感というか、大人の島留学として来島した直後の5月には、海士町種苗センターで働きたいという想いが湧いていました。

職場のみなさんもあたたかくて、自分も楽しいと思える仕事ができている。
こんな環境ってなかなか出会えないのかなと思ったんです。

職場の方とのコミュニケーションも大切な時間

その頃、海士町役場の募集が始まったので、受験しました。
働きながら試験勉強もして、役場の面接でも「島に来てかなり早い決断だけど理由はあるの?」と聞かれるくらいのスピードでしたね(笑)

大人の島留学のときは、ペアを組んで誰かと一緒に働くことがメインでしたが、正職員になって一人で任せてもらえる場面が増えました。

それに伴った責任もありますが、自分も海士町種苗センターの一員として働かせていただけていることにやりがいを感じています。

ゆっくりした環境が心地いい。

島生活は2年目を迎えました。
東京で生まれて、高校を卒業するまでの18年間ずっと東京にいました。
その後、静岡の大学に入学したのですが、住んでいた時は思わなかったけど、「東京って人が多かったんだな…」と気がつきました。

もともとチャキチャキしたタイプではなかったけど、東京に帰省したら、人の歩くスピードについていけなくて。

ゆっくりした環境が自分の中では心地いいなと、地方で働くことを視野に入れはじめました。

もちろん親元を離れたり、家族が近くにいないということは心配でした。
でも、自分が大学生の時から姉は大阪にいたし、父と母も沖縄に引っ越してしまったので、結局離ればなれ。

寂しいけど、自分のやりたいことがあるんだったら地方で暮らすのもありかなと思っていましたね。

就職への不安、はたらきたい場所を求めて。

大学3年生の時、水産系の飲食業を展開している会社に内定をもらいました。
内定をいただいた会社は毎年生しらすを使ったプロジェクトをしていて。
海と密接に関わるプロジェクトもしながら飲食業にも関わる働き方でした。

どちらかというと、飲食業よりかは、プロジェクトの方に惹かれていて。
でも、面接の時に「今はコロナ渦だからそのプロジェクトはストップしているんだ」ということを聞かされました。

いつ再開するかもわからない。「自分のやりたいことはできそうかな…?」とちょっと決め手にかけていましたね。
他の選択肢が見つからなかったら「ここでいいかな…」みたいな、そう思っている自分も嫌でした。

就活で悩んでいるときに母親が「こういうのあるよ」と教えてくれたのが大人の島留学でした。
受かるかわからないけど、受けてみたら無事に参画することが決まって。

▼大人の島留学とは

島に対するハードルはなかったです。
とりあえず1年間はいってみようと。

それより私は新卒だったので、大学の卒業式では「○○に就職した」とか「○○県で就職する」という話題になるんですけど、私は大人の島留学という制度に参画するから就職ではないことに不安はありました。

でも、海に関わる仕事に就きたい気持ちは変わらなかったし、一次産業の現場や知識も少ないので、産業のリアルを肌で感じる1年にできたらいいなと思い、島に行くことを選択しました。

いわがきの赤ちゃんを育てるしごと。何でも挑戦させてくれる環境との出会い。

大人の島留学では、選考の段階でどんなことがやりたいのかを聞かれて、「水産系の大学に通っているので、水産系の仕事に関わりたいです」とお伝えしました。

一昨年の12月に事前来島して、水産系の事業所を4つほど見させてもらったのですが、そのあとの面談で4つの候補にはなかった「海士町種苗センター」を紹介してもらって。

お話を聞いただけですが、大学で学んだことも活かせそうな職場で、水産系の大学に通っていた自分に合わないことはないかなと思って。

大人の島留学を経て、改めて種苗センターを選んでよかったなと思います。
なんでも挑戦させてもらえる環境というのが、すごいありがたいです。

水槽に向かって「また明日ね!」そういう世界ではたらきたい。

元から一次産業には興味がありました。
実は大学時代に養豚場のインターンへ行ったことがあって。

インターンへ参加しようと思ったのは、5歳の時に動物園の豚に一目ぼれをしたからです(笑)

生きものと関われるし、人生の経験の一つになる。
佐賀の山の中にある養豚場で、豚の餌やり、ふん掃除、体温測定の仕事をやらせていただきました。

この時、「そんなことまでやらせてもらえるの?」ということまで関わらせてもらって。自分は農学部ではないから全くわからない未知の世界なのに、色々と携わらせていただいて同時に命の尊さを感じました。

あと、養豚場で働いている方たちが純粋に動物が好きな方たちだったのもよかったです。
こういうところで働きたいし、こういう思いを持っている人たちと働きたいと思いました。いずれ出荷はするけど、その愛情がやっぱりすごいなと思って。

現実的な部分でその会社に就職することはなかったのですが、海士町種苗センターのみなさんと話した時に養豚場でのインターンのことを思い出して。

一次産業だと、大切に育てた生きものをいつかは出荷することになりますけど、海士町種苗センターのみなさんはお仕事が終わったときにいわがきの赤ちゃんがいる水槽に向かって「また明日ね!」って声をかけるんです。

そうやって生きものを大切に育てているみなさんと働けていて幸せです。

いわがきの赤ちゃん

いわがきの赤ちゃんやウニの赤ちゃんはすごいスピードで成長するんです。

成長していくものって見ていて応援したくなる、小さいけど命が宿っているんだなぁということを日々感じています。

この子達が大きいいわがきになってみなさんに届いていくんだなと考えると命の大切さを実感しますね。

今までの暮らしでは見られなかった景色。

島での暮らしでは想像していない出来事が起こります。
フクロウのホーホーという声が聞こえたり、キジの大きな鳴き声が響きます。
夏の夜にイカ釣りを頑張っていたら、船に乗ったおじさんが近づいてきて、釣れたお魚をお裾分けしてくれたこともありました。

魚のお裾分け(写真提供:篠原さん)

ですが、昨年までの1年間は、なかなか地域の方と交流する機会がつくれなくて、「積極的に関わる子はすごいな」と思いながらただただ、見ているだけでした。
だからこそ、今度は関わり方を変えたいと思い、今年は綱引き大会にも参加することができました。
昨年の経験を経て、待っているだけでなく自分が動き出すことで地域の方との交流も増えている気がします。

綱引き大会に参加(写真提供:篠原さん)

島で暮らすことは楽しいですし、大人の島留学という制度があって安心でした。

突然一人で島に飛び込むにはハードルが高いけど、シェアハウスには仲間がいて、話したいことを話せるという環境があったからなんとかやってこられたのかなと思っています。

誰だって思い悩む時はあると思うから、家に同期の大人の島留学生がいてくれることはありがたかったですね。

私は入口が仕事で、好きな仕事と出会った結果、就職というカタチに至りましたけど、仕事に限らず「地域の人と関わりたい」とか、何か一つでも「これがしたい」があると島に来るハードルは必然と下がるんじゃないかなと思います。

はじめての島で仕事も生活も上手くいかないって結構きついと思うんです。
何か一つでもやりたいことがあれば「もうちょっと頑張ってみようかな」と落ち込んだ時も踏ん張れると思うので。


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