『構造と力』っぽい本三選
1983年に出版され「ニューアカデミズム」ブームの火付け役となった浅田彰の『構造と力』。一昨年40年の時を経て文庫化されたことで手に取った人もいるだろう。91年生まれの私はニューアカ当時の事情など知る由もないが、高校2年生のときにこの本を手にとり、その明快さと面白さに惹かれたことは覚えている。この本を読むとまるで、現代思想界のすべてを手中に収めたような気持ちに一瞬なれる。もちろんそこには、ひとつひとつの事柄への踏み込みの浅さも裏縫いされているのだが、ともかくそういった広範な固有名詞の使用と、明快さと見通しのよさ。そういった本をここでは「『構造と力』っぽい」本と名付け、もし『構造と力』に大いなる魅力を感じている読者がいるとしたら、他分野でもそのような本をご紹介できたらと思って執筆する。
①『西麻布ダンス教室』桜井圭介+いとうせいこう+押切伸一
ダンスに詳しくない人が手に取れば、おそらく知らない固有名詞がいっぱいで最初は目眩がするだろうが、対談口調と論旨の明快さから次第に「あ、この人はこんな感じの位置付けなのかぁ〜」というのが見えてくると思う。しかもバレエからコンテンポラリー、日本の舞踏まで幅広く押さえていて、ただの羅列でもなく一貫したパースペクティブを与えているという点において、名著だと言えると思う。ただし哲学系の概念の理解にはやや甘いものがあるとも感じられる。
②『小説的強度』絓秀実
この本は長編文芸評論である分だけ①③より難しく感じられるかもしれない。ヘーゲル、サイード、ブランショなど思想家の固有名詞オンパレードである。だがその論旨の骨格自体は、「A:B=C:D」というアナロジーの基本形式で出来上がっているところもあるため、そういった意味では明快とも言える。『構造と力』を熟読できた読者なら楽しくこちらも読めるはずである。古書価が高いのが難点。
③『文明の恐怖に直面したら読む本』白石嘉治+栗原康
3冊目をこれにするか、石岡良治+三浦哲哉『オーバー・ザ・シネマ』にするか迷った(この本の最終ページには編集協力として私の名前が載っていることを自慢させてほしい)。どちらの本も対談(後者は鼎談も含む)で、様々な話題について語られているが、より一本の線が通っているほうはどちらかと言ったら『文明の〜』のほうになるだろうと思ってそちらをチョイスした。私にとっては特に白石氏の発言に興味深いところが多く、仏文学者の割には自著でそこまで仏文学者ぶりを見せてくれない白石氏の(仏)文学者ぶりが一番見えている本かもしれないと思った。
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以上が個人的ブックガイドであった。この記事を開く人は大抵が『構造と力』を知っているか読んでいるかだと思うので、そこから先への読書としてご活用いただけたら幸いである。ちなみにその後の私事を記すと、少なくともドゥルーズに関しては、2003年の江川隆男『存在と差異』の出現とともに、『構造と力』は完全に過去のものになってしまったと思う。出版社は今更『構造と力』を文庫化するのではなく、6000円近くもする『存在と差異』のほうを絶対に文庫化するべきである。…という個人的感慨をどうしても書いておきたかった。