魔法少女の系譜、その85~『夕ばえ作戦』~
今回は、番外編と言える内容にします。
かつて、NHKで放映されていたTVドラマシリーズ『NHK少年ドラマシリーズ』について、まとめて取り上げます。
これまで、『魔法少女の系譜』シリーズで、五つの『NHK少年ドラマシリーズ』作品を、取り上げてきましたね。『タイム・トラベラー』、『続 タイム・トラベラー』、『暁はただ銀色』、『まぼろしのペンフレンド』、『赤外音楽』の五つです。
これらの作品は、日本の魔法少女の造形に、大きな影響を与えました。のみならず、日本の娯楽作品に「SF」というジャンルを根付かせるうえでも、巨大なインパクトを与えました。
以前に書いたとおり、『少年ドラマシリーズ』は、SF作品ばかりだったわけではありません。むしろ、普通の青春もののほうが、多かったです。
時代劇もありましたし、外国のドラマを輸入して、翻訳しただけのものもありました。『しろばんば』や『二十四の瞳』や『風の又三郎』のように、名作文学を映像化した作品も、いくつもありました。
ですが、『魔法少女の系譜』シリーズは、日本の魔法少女について追跡するシリーズです。ですので、魔法少女に関連する作品だけを取り上げます。
『NHK少年ドラマシリーズ』は、魔法少女の一種としての「超能力少女」を、日本に根付かせたシリーズだと思います。「超能力少女」が登場するのは、一般的に、SFに分類される作品です。このために、『少年ドラマシリーズ』の中から、SFに分類される作品を、紹介します。
これまで、『魔法少女の系譜』シリーズで取り上げた五つの作品、『タイム・トラベラー』、『続 タイム・トラベラー』、『暁はただ銀色』、『まぼろしのペンフレンド』、『赤外音楽』については、紹介を省略します。『魔法少女の系譜』シリーズを読んで下さっている方であれば、もう、わかっているはずですからね(^^)
まず紹介するのは、『夕ばえ作戦』です。昭和四十九年(一九七四年)に放映されました。光瀬龍さんの小説『夕ばえ作戦』が、原作です。
一言で紹介すると、これは、タイムスリップものです。現代日本(一九七〇年代の日本)の普通の中学生が、江戸時代にタイムスリップしてしまい、現代日本の知識を使って、江戸時代で無双します。
主人公の砂塚茂は、肉体的には、普通の男子中学生です。面白いことに、江戸時代では、それが有利になるという設定です。
江戸時代の人間は、栄養不足の人が多く、医療も不十分なので、「普通」の中学生でも、江戸時代の人間の中に入ると大柄で、体力がある、ということになっています。
主人公の茂は、機械いじりが好きで、機械の知識があり、手先も器用です。一九七〇年代の日本では、そういう男子中学生は、不自然な存在ではありませんでした。
加えて、茂には、科学好きのSF少年である明夫と、忍者漫画好きな柔道少年の五郎という、二人の親友がいます。この三人が、そろって江戸時代に行けば、知識や体力の点で、極めて有利なわけです。
この設定、どこかで聞いたことがあると思いませんか?
「小説家になろう」小説でよくある「異世界もの」と、そっくりですよね? 「異世界」が、「江戸時代の日本」である点が、違うだけです。
一九七〇年代の日本には、まだ、コンピュータゲームは、存在しません。「なんちゃって中世ヨーロッパ的世界」である、ゲームの中の「異世界」は、まだ、ないわけです。そのかわりに、昔から、日本人に馴染みがある「江戸時代の日本」が使われています。
現代日本では平凡な人が、どこかの「異世界」へ行くと、俄然、有利な資質を持っていて、無双できる、という点が、「なろう」小説と、同じです。
さすが、原作の光瀬龍さんは、先駆的です。「なろう」が生まれる四十年ほども前に、「なろう」小説に先駆けています。
原作小説の『夕ばえ作戦』は、昭和三十九年(一九六四年)に、雑誌の『中一時代』に、連載が始まりました。中学生が主人公なのは、『中一時代』の読者を想定していたからですね。
しかし、そこは、光瀬さんですから、主人公たちが、無双するだけには終わりません。茂が好きになった江戸時代の少女が、奮闘もむなしく死んでしまったりします。ちゃんと、試練も用意されています。
時代が変わっても、人間が面白いと感じるものは、そうそう変わらないのですね。
光瀬さんは、「現代(原作小説の時代では、一九六〇年代)の中学生が、面白く感じるものは何か?」を考えた結果、『夕ばえ作戦』を生んだのでしょう。十代の若い世代にとって、「現実では無力だけど、どこかの『異世界』へ行けば、自分でも活躍できる」というのは、常に、魅力的な設定なのだと思います。
この「現代日本の人間が、『異世界』へ行って、無双する」設定は、裏返すと、「『異世界』の人間が、現代日本へやってきて、無双する」設定になります。
これは、初期の魔法少女に、よくある設定ですよね? 『コメットさん』、『魔法使いサリー』、『魔法のマコちゃん』、『さるとびエッちゃん』、『好き!すき!!魔女先生』、『魔法使いチャッピー』など、みな、そうです。
魔法の国から来たサリーやチャッピー、忍者の里から来たエッちゃん、宇宙人のコメットさんや魔女先生は、自分の本来いた所では、「普通」の人です。魔法の国の住人は、魔法を使えるのが普通ですし、忍者の里の住人は、全員、忍者です。地球に来た宇宙人は、魔法に見える科学力の持ち主です。
それぞれの故郷では、「普通」だった人が、現代日本へやってくると、超常能力を持った人になって、無双します。もちろん、失敗も多々します。
この表裏一体構造は、興味深いですね(^^)
一九七〇年代の日本では、「異世界から来た人が、無双する」話に、とても人気があったと言えます。その裏返しで、「異世界へ行った普通の現代日本人が、無双する」話が生まれ、人気が出ました。
長くなったので、今回は、ここまでとします。
次回は、別の『NHK少年ドラマシリーズ』作品を取り上げます。
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