イメージの魔術師 エロール・ル・カイン
エロール・ル・カインという画家の画集です。
彼は、おとぎ話の絵本をよく描きました。本書には、『いばらひめ』、『シンデレラ』、『美女と野獣』、『雪の女王』、『ハーメルンの笛ふき』、『竹取物語』、『アラジンと魔法のランプ』、『アーサー王の剣』などの絵が載っています。
上記の作品名を見ていただけば、東洋の作品と西洋の作品とが、入り混じっているのが、わかるでしょう。
ル・カインは、とても器用な人でした。西洋的な絵も、東洋的な絵も、自在に描き分けられました。作品により、がらりと作風を変えています。
ある時は、米国のハリウッド映画ふうに、ある時は、フランスのアール・ヌーヴォーふうに、ある時は、ペルシアの細密画ふうに、ある時は、日本の浮世絵ふうに、ある時は、中国の陶磁器の絵付けふうに、といった具合です。
いったい、この人には、いくつの引き出しがあるのでしょう?
これで、正式な美術教育は受けていないというのですから、驚きます。
幻想的な絵が好きな方なら、ル・カインの絵は、きっと、気に入るでしょう。
そもそも、本書の表紙(カバー)絵が、たいへん夢幻的で、美しいですよね。この絵に目を奪われたなら、本書を読んで―というより、見て―、損はありません。
表紙の絵は、『いばらひめ』の一場面です。十二人の妖精たちが、王さまの娘が生まれたお祝いに駆けつけるところです。お祝いに招かれなかった十三人目の妖精が、木の陰から覗いています。
一人一人の妖精の、なんと個性的なことでしょうか。昆虫のような翅【はね】があったり、一角獣に乗ったり、貝殻のような冠をかぶったりした妖精たちが、無数の草花がちりばめられた道を、行進してゆきます。
本書は、画集ですから、絵を見て楽しむ本です。
ページを開けば、まさに魔術師のように、おとぎ話を具現化してくれるのを、見ることができます(^^)
以下に、本書の目次を書いておきますね。
まえがきにかえて さくらももこ
I 華麗で繊細な世界
いばらひめ
シンデレラ または、小さなガラスのくつ
おどる12人のおひめさま
美女と野獣
II おとぎ話の語り手
オルヴィル王とウシガエル
飛ぶ船
白猫
ずるがしこいウと魚
雪の女王
三つの魔法
フォックスおくさまのむこえらび
かしこいモリー
ハーメルンの笛ふき
キューピッドとプシケー
ル・カイン――メルヘン絵本にイラストレーターとしての特徴を探る 吉田新一
Intermission
III 東方へのまなざし
竹取物語
ね、うし、とら……十二支のはなし
フォーの小犬
王様の白い象
アラジンと魔法のランプ
まほうつかいのむすめ
裁判官パオ
IV 初期作品
アーサー王の剣
キャベツ姫
サー・オルフェオ
V 深まるファンタジー
魔法にかけられた学校
ぼくのいもうとみなかった?
アルフィとくらやみ
ハイワサのちいさかったころ
りんご村の危機
VI クリスマス
1993年のクリスマス
こまったこまったサンタクロース
Intermission
VII 踊りだす絵
キャッツ―ボス猫・グロウルタイガー絶体絶命
魔術師キャッツ
ル・カイン讃歌 田村隆一
海のかなたの蜃気楼 中川千尋
VIII 挿絵の仕事
龍の凧【たこ】
浜辺の拾い屋
IX ル・カイン47年の軌跡
エロール・ル・カイン――その生涯と作品 ペニー・シブソン
アルバム エロール・ル・カイン
エロール・ル・カイン著作目録