仮面ライダーのゲームをつくった時の話②
「ホンモノの仮面ライダー」とはなにか?
「昭和vs平成」みたいな問いかけですが、今回も引き続き仮面ライダーのゲームをつくった時のお話です。
前回は「1.原作を必ず知る」として、原作を深く理解することの大切さをまとめました。
今回は「2.ホンモノの仮面ライダーであることを意識すること」について、まとめていきます。
これは一言で言うならば
遊ぶ人が見た時に このゲームの仮面ライダーが本物であるか?
を意識することです。
仮面ライダーは漫画原作ではありますが、TV放送されているドラマ版がもっとも多く目に触れられているコンテンツと言えるでしょう。
そこから派生して映画や書籍、ゲームになりますし、ヒーローショーやスーパーに並ぶお菓子にも繋がります。
世に出ている商品は、もちろん版権元の許可を得て正式な写真や設定を使用していますが、大事なのは
「絶対的なルールやポリシーを守っている」
ということです。
自分のゲーム制作時の環境を少し話すと、当時勤めていた会社では
仮面ライダー作品のゲームを作るのは初のことでした。
また、自分の配属前にいた開発者は
「仮面ライダー?TVでやっているねぇ」
くらいの認識で、正直調べていると言ってはいるものの不安しかありませんでした。
当然、仮面ライダーというコンテンツに深く触れたことがない人がつくれば、版権元としてはOKを出せないゲームルールやゲームシステムが出てきます。
1つ開発中に出た例を挙げます。
仮面ライダーは専用のベルトとキーとなるアイテムを使い、変身します。
変身を解除する時は、おおよそベルトからそのアイテムを外します。
ただ、その時のゲームシステムで
変身ベルトからアイテムを外して手に持ち、変身している姿のままポーズを決めるというものがあり
これが版権元からNGが出て作り直しになりました。
仮面ライダーを見たことある人からすれば、こんなの当然のことですが、当時のチームは
「そんなことわからないよ~!」
みたいな雰囲気でそういった指摘されるまで気づかない常識がいくつも見過ごされて作られていた状況でした。
自分も指摘されてから気づいたことでしたが、
「これでは絶対に仮面ライダーのゲームがつくれない」
と強い危機感を覚えたのを覚えてます。
(もちろんゲーム開発中はこれ以外にも制作側からではないとわからない、ルールは多くあります。)
そこからなにをしたかというと
・TV放送分を毎週かかさず見る
・「てれびくん」「テレビマガジン」を毎月購読
・製作スタッフ・出演者・スーツアクターの情報はすべて集める
・仮面ライダーショーに行く
(どれもファンからすると当たり前ですが…)
TV放送を見るのは当たり前すぎるので割愛。
「てれびくん」「テレビマガジン」を購読したのは、
メインターゲットである子どもたちが仮面ライダーをどのように見ているかを理解するためです。
必死に仮面ライダーのことを調べようとしてもネットやホビー雑誌などではどうしても「大人に向けた」バイアスがかかった情報が多いため、
子どもたちはこういう風に仮面ライダーをみてるぞ!という意識を持つのにすごく役立ちます。
(あとは特別なことがない限り、新ライダーの写真は「てれびくん」「テレビマガジンが最速おひろめだと思います)
製作スタッフや出演者、スーツアクターの情報は
「どういった理念で仮面ライダーをつくっているか」を理解するためのものです。
企画立ち上げから出演者オーディション、撮影現場でのスタッフの試行錯誤、出演者・スーツアクターが何を考えて演技をしたか。
これらは1派生作品に過ぎないゲームを「ホンモノ」に昇華する上でとても役に立ちました。
「この仮面ライダーはこういうコンセプトで製作された」を理解すると
おのずと「ゲームでやってはいけない表現、扱い方」が見えてきました。
また、企画意図やシナリオ構築、仮面ライダーのスーツ造形についての話は
どういったシナリオにするか?
どういう操作や技構成が良いか?
仮面ライダーの3Dモデルはどういう質感・構造にするか?
といったゲーム開発時のより具体的なアプローチが可能になります。
上記に限った話ではなく、多岐にわたってゲームに活かせる様々な情報がありました。
最後のヒーローショーに行く、ですが、これは製作指針を知るというよりも
ゲームを届ける子どもたちが仮面ライダーをどう楽しんでいるか?
仮面ライダーはどんな風に子どもたちと接しているか?
を知るために通っていました。
いくらTV放送を見ているといっても、仮面ライダーがTVではやらないことはたくさんあります。
ヒーローショーでも基本はTVと同じなのですが、いくつかヒーローショーだけでしか見れない特別な光景があったりします。
例えば、敵怪人と仮面ライダーが(一時的に)協力したり、普段は見ないライダー同士の掛け合い、子どもとの握手・写真撮影の時の対応などは
TVからは想像できない姿が見れます。
逆に言えば「なるほど、そういう表現もあるな」とインスピレーションを受けて、ゲームオリジナル、という形で吸収することもありました。
これらすべてを続けてきて「仮面ライダーはこうやってファンのもとに届けられている」とようやく初めて理解できたと思いました。
1つのゲームでしかないが、これがファンにとってホンモノの仮面ライダーとして体験される
初めての仮面ライダーが自分のゲームという人もいるかもしれない
そんな人の仮面ライダー体験を損なうのは、ファンとしても製作者としてもあってはならないと今でも意識しています。
と、色々と書いてきましたがこれだけではただのファンと変わらないです。
誰でも理解できたらゲームがつくれるか?という話になってしまいます。
お話しは次回の「3.ファンだからこそ、ファン目線は辞める」に続きます。