透明な病と生きる 第5章 ”退職、それから”
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第5章 退職、それから
前章までに、ブラック企業でのストレスと過労にて自律神経失調症となり、その根源を断ち切るためにその会社を退職するまでの流れを書きました。自律神経失調症のことを中心にしましたが、実際には適応障害やうつ症状もある程度混在していたのかもしれません。しかし、それらの症状をはっきりと分けて認識することは困難です。
本章では、退職した後に自分の心身をどう癒し、コントロールする方法を探っていったかを書きたいと思います。そしてそれは、ともすれば適応障害の方などにも応用できるかもしれないので、タイトルからも病名は省きました。あくまで個人的な考え・体験に基づくことにはなりますが、ご参考になれば幸いです。
退職後
退職した後、その時点ではまだ心身が癒えたわけではなく症状は残ったままだったので、すぐに次の就職をしてレギュラーワークをするのは無理だ、と思い、休みながらリスキリングの期間に充てることにしました。勉強しながら、非常勤で週2~3日仕事をする。あくまで自分が今できるペースで生活を組み立てる、を実践しました。私が選んだ非常勤先はいずれも基本的に残業などの時間外勤務がないところで、定量以上の業務は生じないのが利点でした。まあレギュラーワークと比べると昇給やボーナスがないというのは痛手ではありますが、お金よりも自分のコンディションを整えて生活を立て直すことを優先したので、月々生きていけるくらいの稼ぎで良しとしたのです。そうやって、決まったリズムで毎週過ごせるというのは生活の起伏をなだらかにし、心身を落ち着ける効果があったと思います。もちろん休みも確実に決まっているため、予定通りに自分の時間を作れるのは大きかったです。おかげでそれまで疎らにしかできなかった趣味など、仕事中心だったそれまでとは違う、自分本位の“自分らしい生活”を組むことができました。
しかしそれでも、症状が全く出なくなったわけではありません。第3章に書いた症状のうち、嚥下障害や味覚障害、めまいは出なくなりましたが、吐き気・喉のつかえ感や胃の症状は続きました。やはり慣れない場所にいる時や、それほど親密でない他者と過ごすとき、そのほか過去に症状のトリガーになった状況では不調をきたすことがありました。つまり、自分一人での生活はある程度安定しましたが、他者との関わりにおいては制限が残ったのです。安定とは言っても、まだ以前処方された薬は使いながらであり、寛解とはほど遠い状態でした。当然、新たな人間関係の構築にはあまり踏み込むことができず、ただただ自分の置かれた場所を見つめるだけの膠着状態の日々が続きました。
新たなる”おまもり”
やはり症状として最も頻度が多かったのが吐き気や食欲不振、喉のつかえ感であり、安定剤を屯用するとしてもすぐに効くわけではなく、この症状にどう対応するかが悩みの種でした。特に仕事中や運転中、映画館など、すぐに休んだり移動したりできない状況でどうするか。また、食事の席などで事情を知らない人と一緒にいる時に急に薬を飲むわけにもいきません。いつでもどこでも打てる手はないものか…。
いろいろな方法を試していたとき、たまたま人にもらったミント味のガムを噛んでいると、なんとなく症状が和らぐ感じがしました。ミントのスースー感が効くのか…?しかし私は自分・他人にかかわらずガムを嚙む音が苦手で、ガムを買うことは避けていました。ガム以外でミントの作用が得られるもの…
ペパーミントの葉を噛むか?いや生ものはマズい。保存がきかないうえに鞄に入れると何もかもミントの香りになってしまう。
歯磨き粉は?いや飲み込めないし、毎回うがいが必要になる。無理だ。
ミント水?常飲すると間違いなく飽きるしいつでもは飲めない。
そんなある時、コンビニでたまたま目にしたもの―
そう、それはミントタブレット。
だいたいお菓子コーナーのガムの近くにある、フリ〇クとかそういう清涼菓子の類ですね。それまで買ったことがなかったので思いつかなかったのですが、あれは紛れもない “ミントの塊” ・・・!
ケースに入って売られており、保存も利くし持ち運びも容易。何かの折にポリっと一粒噛んでも、ちょっとしたブレイクや口直しだと認識してもらえる。ガムと違い吐き出す必要もないので、運転中や映画館での摂取もしやすい。
これだ!と思い、買って試してみると効果はてきめん。
どういう作用機序かはわかりませんが、ミントのスースー感が喉に行き渡ることで喉が広がる感じがして、つかえ感が軽減します。行き着いた先の胃内に対しても作用するので、吐き気や胃重感が軽くなります。もしかしたら、最初は喉の症状軽減だけが効用だったものが、それを繰り返すうちに認知行動療法的に「タブレットを食べると状態が改善する」をいう図式が成り立ち、その行為自体が自律神経の過度な興奮を抑える働きをするようになったのかもしれません。これは今でも、仕事の合間や疲れたときなどに状態をリセットするかのように口にしています。鞄に必ず入れ、どこに行くにも持っていくお守りのような存在です(と書くと、もはや依存なのでは…という気もしますが)。それを用いることで、内服していた西洋薬、漢方に対する代用が可能となったため、薬剤を必要とする頻度を減らしていくことができました。
私はコスパ重視でミン〇ィアを愛用しています。フ〇スクの半額くらいなのでね。フルーツ寄りのフレーバーなど、スースー感が弱いものはあまり効かないので、ミ〇ティアで言うと爽快レベル4以上がおすすめです。ちなみに、一番スタンダードな白と青のパッケージの商品がレベル4です。
要所要所でポリッと噛んでリフレッシュ、あたかもヤバいクスリをキメているような感覚も味わえます。
それから
ミントタブレットという強力な即効薬を得て、なんとか症状と付き合いながら2年ほど過ごしました。身体は健康とは程遠かったですが、ほどほどに働いて休む時は休んで、自分が好きなことにも時間を使う。今思えば、人生の夏休みのような日々でした。
その期間を経て、ある程度はコントロールがつけられるようになってきたので、そろそろまた定職に就かないとな~、という段階に差し掛かりました。
ちょうどその頃、社会人になってそれなりの年数になってきたこともあり周囲の友人が次々と転勤し、街から離れていってしまいました。また、自分にとってもその時住んでいた街は、それまでの苦しい記憶に満たされてしまっていたので、そこに住み続けるのもネガティブな気持ちを引き寄せてしまうかもしれない、と考えました。
住んでいたのは地元というわけでもないし、友人も少なくなる。住み続ければ、諸悪の根源たる前職の会社を目にすることもあるし、社員たちと遭遇することもある、そのたびに苦しい記憶の数々が呼び起されてしまうだろう。
それならばいっそ、離れてしまおう。
その街に縋りつく理由は多くはない。もう一つの大きな鳥籠から巣立つ時が来た。
私は再就職とともに、他の街へ移住することを決めたのです。
環境を大きく変えてしまうことは一種の賭けではありましたが、心機一転の言葉通りになることを願って、人生の再生へと歩みを進めるのでした。