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#002 内なる基準を問う - 「意味のイノベーション」にみる仕事観 

Cover photo by Daria Nepriakhina

短期集中連載「インサイド・アウト – これからの『働く』の方向性を考える」 第1回(全6回)

前回の記事「本noteのトリセツ」では、私たちを取り巻く環境の変化を踏まえ、次のような仮説を共有しました。

時間(WHEN)や場所(WHERE)について、私たちがコントロールできることは限られている。また、仕事(WHAT)の地図はどんどん書き換えられていく。
私たちのこれからの働き方のデザインにおいて福音となるのは、WHYとHOWによる再考ではないだろうか?

では、WHYとHOWを手掛かりとすることによって、「働く」のこれからについてどのような方向性を見いだすことができるでしょうか? どのような概念が、私たちの将来に示唆を与えてくれるのでしょうか?
 
ビジネスの動向や私たちの職場の現状に目を向けると、ひとつのキーワードが浮かび上がってきます。それは、インサイド・アウト自身の内なる基準を問い、意思決定し、行動するアプローチのことです。

この短期連載では、イノベーションと消費行動、企業理念(パーパス)、組織開発アプローチ、リーダーシップ、人的資本経営をインサイド・アウトの視点から読み解き、私たち一人ひとりの内なる多様性の価値によって仕事での成果を生み出すことについて考察します。

それでは、はじめましょう。まずは「ろうそく」の話から。


ろうそくに求められる「意味」の変容

ろうそくの売れ行きが好調であるという。かつて私たちがろうそくに求めていた価値、つまり「明かりをともす」という機能は、今や電灯やスマートフォンによって代替可能となった。その存在はまさに「風前の灯火ともしび」の状態にあったわけだが、ろうそくの消費量は近年再び増加傾向を示している。なぜだろうか? 

それは、一時の巣ごもりの状況などを経て、私たちがろうそくに求めることが、部屋を「暗くする」ことによって癒しの空間を手に入れるという新たな意味へと置き換わっているからだ。
灯火用具としての機能的な価値が失われていたろうそくは、新たに獲得した役割によって「キャンドル」市場での復権を遂げている。

「意味」が響き合う関係をつくり出す

イノベーションを創造するアプローチのひとつに「デザイン思考」がある。ユーザーはどんなことを解決したいのか。その背景にあるのはどのような感情や欲求なのか。こうした問いを立て、ユーザーへの共感を重視してイノベーションの糸口を探っていく。他者(ユーザー)を起点とし、求められていることに寄り添っていくその姿勢は、「アウトサイド・イン」のアプローチとされる。

これに対して、開発者が起点となるイノベーションのアプローチがある。イタリア・ミラノ工科大学のロベルト・ベルガンティ教授によって「意味のイノベーション」と名付けられたその手法は、創り手が自己の内面と向き合い、どのような意味や価値を大切にするかを内省し、自身の洞察やビジョンをもとに製品やサービスの開発につなげていく。

それは、「意味」が響き合う関係をつくり出そうとする試みであり、信じることを、信じてくれる人に届けるという営みでもある。

このような「内から外へ」のプロセスは「インサイド・アウト」のアプローチと呼ばれる。

癒しの時間と空間をつくりだすろうそくのように、ユーザーにとっての新たな「意味」を提案する取り組みは、私たちの価値観に問いかけるイノベーションとして注目が集まっている。

自身に向かってWHYを投げかける     

消費の傾向として、私たちは「モノ」から「コト」への変化を経験した。物的な充足を得ることから体験を楽しむ方向への変化である。さらには、製品やサービスを消費することの「意味」を大切にした消費行動への移行が顕著となっている。

たとえば、サステイナビリティ。持続可能性を問うことは、もはや社会全体の共通の価値観といってよいだろう。ちょっとした買い物でも、環境負荷、リサイクル率、フェアトレード、地産地消といったワードが頭をよぎる。
長期出張用の携帯電気髭剃りを選ぶ時だって、小型の乾電池式にしてサイズを優先するか、充電器はかさばるが環境に優しくいくか・・。しばし棚の前で立ち尽くす。

消費の持つ「意味」は、今や私たちにとって大きな関心事である。そして、その意味が個人として大切にしたい価値観と共鳴するとき、私たちの心は動かされる。クラウドファンディングが隆盛であるのも、「共感」や「応援」といった意味づけに価値を見いだすことにその理由があるのだろう。
自身の価値観に基づく消費行動によって、私たちは「自分らしく」を表現することができる。

このように、イノベーションの担い手も、消費者である私たち一人ひとりも、それぞれの内面に目を向け、大切にしたいことと向き合うことをはじめている。

自身に向かってWHYを投げかけ、自分ならではの在り方を模索すること。

そこにはインサイド・アウトの志向が働いている。

参考:


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

今回の記事では、「意味」のイノベーション、「意味」の消費について取り上げました。
では、もし私たちの仕事にWHYを投げかけたとしたら、どのような「大切にしたいこと」がみえてくるでしょうか?

次回は、私たちを衝き動かすWHYの正体とそのメカニズムに迫ります。

本連載で「届けたいこと」についてはこちらをご覧ください。


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