僕が壊したもの
僕は、ある人との関係をぶち壊した。
友達期間が長かった彼女に、友達以上の感情を抱いてしまい、それを本人にぶつけたのだ。
僕は、これまで築いてきた良好な友達関係を壊してでも、自分の思いを伝えたくなってしまった。
独りよがりかもしれない。そんな不安はあった。正直、彼女が僕の気持ちを受け入れてくれる自信は、あまりなかった。
彼女を失うことは怖い。でも、どう転んでも受け入れる覚悟だけはできていた。
想いを伝えた結果、彼女も僕と同じ気持ちでいてくれて、シンプルにうれしかった。想い、想われることの尊さを、ひしひしと感じた。
彼女を前にしながら、僕の口角は宇宙に突き刺さっていたと思う。彼女は、そんな気色悪い僕を見て、幸せそうに微笑んでいたのを、今でも覚えている。控えめに言って、信じられないくらい幸せだった。
「自分の思いを伝えたら、これまでの関係が終わってしまうかもしれない。そう考えたら怖かった。」
僕の腕の中で、彼女はそう言った。僕が思いを伝えていなければ、今もまだ、友達のままだったのかもしれない。
「じゃあ、これからは安心だね。」
そうして僕たちは恋人同士になった。それからは、なんてことない日常がキラキラ輝いていた。
彼女との「おはよう」で1日が始まり、「おやすみ」で1日が終わる。いつしか、そんな心地良い毎日が当たり前になっていた。そして、これ以上の幸せはないと思っていた。
僕は、あてもなくふらふらと歩くのが好きだ。知らない街でも、謎の自信と直感で迷いなく進む。この便利な時代に、だ。彼女も、同じだった。
偶然見つけた、美味しいコーヒーショップ。
歩き疲れて、ひと休みしようと腰掛けた流木。
彼女好みの、小さな雑貨屋さん。
夕日を見るためだけに、海へと走った道。
旅行や誕生日などの大きなイベントも楽しかったけれど、些細な共通点を見つけたり、くだらないことで笑い合ったり、なんてことない小さな幸せを、ふたりで感じれる瞬間が、なによりも愛おしかった。
僕が壊した関係を、彼女が「元に戻したい」と言ったあの日、彼女はいつも通り僕の隣にいた。近くにいるのに、手を伸ばせば触れられるのに、彼女を遠く感じた。同じ空間にいるはずのに、僕は猛烈な孤独を感じてしまった。
彼女は、僕が恋人とは友達に戻れない人間だということを知っている。案の定、僕はそれを受け入れることができなかった。
「わがままなで、最低なことを言っているのは分かってるけど、自分の人生の中であなたを失いたくない。無理を承知で、別れても友人としてまた会いたい…。」
彼女の過去最大級のわがままだ....と、僕は今でも思っている。
「ごめん…。やっぱり、しばらく会えないや。でも、いつかまた笑って会えたらいいなと思っている。」
これが僕の、精一杯の答え。この時は、本当にそう思っていたから。
だけど僕は、恋人から友達へ感情を戻す術を知らない。
「分かった…。ずっと待ってる…。」
彼女はそう言うと、みるみるうちに顔が歪んでいった。
「ごめん…」
そう呟き、泣き崩れる彼女を見て思った。
本当は「泣かない」と決めていたんだね。百も承知の上で、全力でぶつかって来てくれたんだろう。
そんな真っ直ぐなところも大好きだった。
でも、元通りにはならない。仮に、友達に戻れたとしても、あの頃とは何もかもが違うのだ。
だけど僕は、あの日彼女との関係を壊したことを後悔していない。
本当は、僕の隣でずっと笑っていて欲しかった。
頑固すぎるほど真っ直ぐで素直なところも、たまに見せる弱さも、意地っ張りなところも、自分では好きじゃないと言っていた笑窪も、全部大好きだった。
彼女と別れてしまった今、僕は一体何を求めているのだろう。
彼女が僕のもとに戻ってきてくれること?
彼女が、僕を手放したことを後悔する日がくること?
今となっては、なんだかどれもしっくりこない。
彼女に会いたいけど、今は会いたくない。でも、猛烈に会いたい。
きっと彼女は、僕が「会おう」と言えば、首を縦に振るのだろう。
この先、どちらかの命が果てるまで一生会わないかもしれない。
だけど偶然、もしくは必然的に再会するかもしれない。
そんな、訳の分からないことを考えている。
行き場のないこの気持ちを、1日でも早く昇華させたい。つい最近までは、そう思っていた。
だけど、正面から向き合うことも大事なのでは...と思い始めている。
どうやら僕は、彼女のことがまだ好きみたいだ。
行き場のないこの気持ちをnoteに書いて、少しずつだけど整理できている気もする。僕は前に進めているのだろうか。
壊れたからこそ、新しい形に生まれ変わるものもあるのだろう。
例えそれが、どんなに歪な形でも。
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