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ドラマ『舟を編む~私、辞書つくります~』にドハマりしたカウンセラーの感想。

「なんて」面白いドラマだろう。
この「なんて」を調べると

助詞:軽んじたり、遠まわしに言うことを表す。
副詞:驚いたり、感心したりする気持ち表す

このドラマは全編を通して主人公の岸辺みどりが一回目で口癖のように言う、この「なんて」の意味が助詞から副詞に代わっていくストーリーです。

私はカウンセラーなので、このプロセスが、もう泣けて泣けて仕方がなかったです。

大海原の岸辺にたたずみ途方に暮れて、自分を卑下するというより、自分と身の回りのものすべてを「なんて」とバカにしているように取られる岸辺みどりが、とつぜん配属先の馬締光也から「あなたには辞書作りの才能があります」といわれ、日本語学者の松本朋佑先生に「すべての言葉には、生まれてきた理由があります。(中略)言葉に良い悪いはありません。あるのは、選び方と使い方です」と言ってもらいます。

そして、注目すべきは「『なんて』を気が向いたら辞書で引いてみてください」、「辞書はあなたを誉めもしませんが決して責めたりもしません」と言われます。

この一連の場面、大変立派なカウンセリングになっています。

カウンセリングのプロセスにはさまざまな技法によって異なりますが、相手を認めるというプロセスが重要です。

その人の持っている強み、優位性を認める。

石丸伸二さんが言っている経済合理性の一部である「比較優位」です。

例えば、東京都は様々な産業において優位性を持っていますが、こんな東京都でも農産物や海産物においては比較劣位になることが多いです。だとすれば、わざわざ地価の高い東京都内で農産物を生産するより、海に漁港を作るより、この分野で「比較優位」な地方から仕入れるということが合理的であるといえます。

この考え方を押し広げていくと、「すべての言葉には、生まれてきた理由があります。」というセリフの解釈も違ってくると思います。

つまり、「誰でもが『比較優位』なものを持っている」と。

そして私には、「すべての人には、生まれてきた理由があります」と言っているように聞こえます。

では、この理由とは何か。

「誰かが誰かに何かを伝えたくて伝えたくて必要に迫られて生まれてきたんです。辞書は、言葉の海を渡る舟だと。人は辞書という舟に乗り、暗い海面に浮かぶ小さな光を集める。最もふさわしい言葉で、正確に想いを誰かに届けるために。」

松本先生の言葉

これはカウンセリングの考え方に通します。

この「想い」は「感情」という言葉に置き換えることもできます。

本来、言葉がそうであるように、感情に良い悪いはありません。

これは共感に因るものであったり、自らの身を守ったり、生きるために必要があって生まれてくる反応です。

この感情を誰かに伝えたくて伝えたくて言葉が生まれてきたのだとすれば、「暗い海面に浮かぶ小さな光を集める」ように,正確に聴き取ることがカウンセリングです。

そして、最もふさわしい言葉で正確に要約し、この感情を受け止める。

もし、言葉が想いを伝えたくて伝えたくて必要があって生まれてきたものであるならば、この想いを伝えるために、人は必要があって生まれてくるのではないかとさえ思えてくる。

私のカウンセリングでも「人は必要があって生まれてくる」のであって、感情の捉え方と使い方を間違えてはいないか、そして、どうしても伝えたい思いを洗い出し、これを伝える練習をしてもらうのがカウンセリングだと思っています。


ところで、岸辺さんは松本先生に「もし、辞書がなければ、茫漠とした大海原を前にしてたたずむほかないでしょう。」と言われます。

これを受けてでしょう、馬締さんは言います。

海や空の濃い青を指す紺碧の碧はみどりとも読みます。俺がはじめてあなたの名前を目にしたとき、頭に浮かんだのは、太宰でもプーシキンでもなく、紺碧の大海原を前にしてたたずむ顔も知らないあなたの姿です。

馬締光也のセリフ

馬締さんは驚くべき想像力によって、「茫漠とした大海原を前にしてたたずむ」岸辺さんの状況や気持ちの在り様をとらえ、一緒に辞書を作りましょうといったのでしょう。

きっと真面目さんも、ここに登場する人たちも、みんな松本先生からこのような話をしてもらっていたに違いないと思います。

そしてのちの話ですが、馬締さんは「辞書の申し子」と語られますが、松本先生は荒木さんから「辞書の鬼」と言われていますね。

このドラマの中では、松本先生は心理学でいう理想化自己対象転移、つまり「理想の人」の人として描かれています。

このドラマに登場する人たちは、松本先生を経緯と尊敬をもって灯台のように目指し、自らの人生を進めようとしています。

そして、岸辺さんも、この洗礼を受けたということかもしれません。

一回目のストーリーだけで、書きたいことが次々と溢れてきます。

とはいえ、切りがないです。

一言でこの想いを言葉にすれば、

「なんて」ホワイトな職場なんでしょう。

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