◆読書日記.《アイザック・アシモフ他・編集『クリスマス12のミステリー』》
※本稿は某SNSに2019年12月24日に投稿したものを加筆修正のうえで掲載しています。
アイザック・アシモフ他/編集のミステリ・アンソロジー『クリスマス12のミステリー』読了。
皆さんご存知SF界の巨人であり『黒後家蜘蛛の会』等のミステリ・シリーズでも有名なボストン大の生化学者アシモフ博士が、クリスマスにちなんだ12の短編ミステリを集めたミステリ・アンソロジーです!
本書が編まれたのは1981年の事だそうで、最近の作家の作品は入っていません。
やはり第一次~二次世界大戦間の「黄金時代」と呼ばれた時期のイギリス~アメリカ・ミステリがメインになっているようです。その中でもやはりビッグ・ネームはクイーンとカーでしょうね。
先日も軽く触れましたが、ミステリには何故「クリスマス」を扱ったものがちらほら見られるのか? また、クリスマスを題材にするミステリの特徴とは何なのか?
本書の12編の短編ミステリを読んでいて幾つか気付いた点を書いていこうと思います。
アシモフ博士の「まえがき」にも書いてあるように、クリスマスというのはやはり「おめでたい」で、しかも「聖なる」というイメージがあるわけです。
そういう特別な日に犯罪やトラブルが起こると言うのは、一般人からしてみれば「せっかくのクリスマスに」と眉をひそめたくなるような事態なわけですね。
そういう特別な日に犯罪や事件が発生する。
そして、それが探偵役の人の活躍によって無事解決される事で、人々はホッ安心して、最後には「じゃあ改めて、メリークリスマス!」と一言入れる事で「一件落着」感を実に分かり易く表現する事ができる。
これは、ややもすると暗くなりがちな「犯罪・事件」を扱う「ミステリ」にとっては、後味を明るいものにすることが出来る特効薬のような題材になるわけです。
陰惨な事件を扱って暗いイメージの小説のイメージを払拭して、小説の雰囲気を明るい後味にしたい作家としては実に便利な題材だという事なんでしょうね。
また、クリスマスの時期というのは、世界的に「ハレ」の時期と言う事で外国の人々にも共感されやすいし、この時期は実に特別な雰囲気がある。
「おめでたい」というイメージはあれど、年末と言う事で人々はどこか忙しなく右往左往している。年末をどうやって乗り切るか、という切羽詰まった時期でもあるわけです。
つまり、そういう時期には様々なトラブルの種というのも発生しやすいという事でもあります。作家は、ミステリ的な事件を発生させる「動機」を設定しやすい。
また、街は人でいっぱいだから、犯人は人ごみに紛れやすいという利点がある。
サンタクロースの格好や、その他いろんな仮装をする人が街中にいるので、人々の間に仮面を被った犯罪者が一般人の中に紛れ込み易いという状況でもあるわけです。
このような「ハレ」の時期というのは、日常とは違った特別な状況を設定しやすいという特性がありますので、特別なトリックを仕掛けるにはなかなか好都合な時期でもあるのでしょうね。
勿論、以上の特徴というのは、本書の12の短編にもそれぞれ取り入れられている仕掛けでもあります。
例えばレックス・スタウトのネロ・ウルフものの短編「クリスマス・パーティ」では、パーティ中に毒殺された人物に酒を注いだサンタクロースの仮装をした人物を、参加者が誰も心あたりがなかった、という状況を描いています。
サンタは毒殺の騒ぎに紛れて姿を眩ませてしまった。サンタが犯人では?というお話。
またクイーンの『フランス皇太子の人形』では、49カラットのダイヤがはめ込まれた人形を衆人環境の中から盗み出すという怪盗からの挑戦を受けたエラリイとクイーン警視が、サンタの格好をした人物に翻弄される様が描かれています。
クリスマスというのは、どこかわくわく感も増幅させる効果がありそうですね。
ぼくの中では、本書の中でのベストはスタンリイ・エリンの『クリスマス・イヴの惨劇』でした。さすがエリンだけあって安定の出来ですね。
本作はミステリの中でも「奇妙な味」というジャンルで、ぼくはエリンお得意の「プロバビリティの犯罪」を持ち出してくるのかなと思いましたが、ちょっと違いましたね♪
流石にエリンは味のある文章でドラマを盛り上げます。
弟嫁の事故死によって仲の悪くなった姉弟の屋敷に、弟嫁の兄だった人物が尋ねて来る。姉弟は仲が悪いのだが実は……という所で、最後の一行でこの短編全体の印象が大きく変化する、実に巧妙な演出が効いた短編でした。
という事で、無事「クリスマスを題材にするミステリの特徴とは何なのか?」という謎は解け、今年も安心してクリスマスを迎えられそうです。
みなさまもどうぞ良いクリスマスを。メリークリスマス!
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