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10円 18


定年を一週間後に控えたよしえは、
幸治のペニスに舌を這わせながら、心が冷えていくのを感じた。

彼女の激動の人生は日本のいざなぎ景気とともに始まり、
令和と共に終焉を迎える。

彼女は売春婦として約五十五年間、客のペニスを舐めあげた。
口の周りにはヘルペスの痛々しい跡が残るが、彼女にとってそれは、
生きた証。勲章だった。

客として五十五年間通い詰めた幸治は、最後のフェラチオ姿を目に焼け付けるように見入った。
最後のよしえのフェラチオだと思うと、心の奥底が熱くなるのを感じた。

「よしえさん。ワシ、立つかもしれん」

「幸治さん。いいんですよ。無理しないで」

嘘ではなかった。
自身の心と同様、年をとるごとに何も感じなくなっていたペニスが疼いた
気がしたのだ。

よしえは、ここぞとばかりに十八番のディープスロートを始めた。
幸治は、天井の染みを眺めながら、よしえとの初めての出会いを想起した。
ただ、出会いといっても、赤線に立っていたよしえを当時十円で買っただけなのだが...
しかし、齢七十。未だ素人童貞の彼にとっては、最初で最後の女性だった。

目を瞑ると、若き日のよしえの顔がぼんやりと瞼に現れる。
おさげの似合う可愛らしい女性だった…

ドクンッ。熱いものがこみ上げてきた。

「幸治さん!立ちましたよ!おちんちんが!EDのおちんちんが!」

幸治は驚き、目を見開いてよしえを見た。
そこには、顔面皺くちゃのおばさんが自分のペニスに舌を這わしている姿。
その瞬間。幸治のペニスは除草剤を撒かれた草の様に萎びれた。

幸治はよしえの頬を思いっきり叩くと、十円玉を乱暴に手渡し、その場を去った。

よしえは、手のひらに押し付けられた十円玉をじっと見つめ、初めて幸治のペニスを舐めた日のことを思い起こした。

五十五年前。
その日も「歯 あたる!」と頬を叩かれていたのだ。

よしえの頬を一筋の光の粒がつたった。
何故、零れ落ちたのだろう。
それは、よしえにも分からなかった。


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