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遂に蝦夷地を往く!~ふしぎの国のバード11巻~

『ふしぎの国のバード』は、19世紀末のイギリス人女性冒険家イザベラ・バードが、明治初期の日本を東京から蝦夷まで地図もない道を踏破した旅を描いた、佐々大河氏の漫画です。
彼女は、通訳の伊藤鶴吉と2人、日本人すらも踏み入ったことのない奥地を通って蝦夷を目指します。

旅の第一部は東京から新潟(1巻〜3巻)。
東京なんだけど、異国の人はまだまだ『江戸』って呼びたがっていたみたいです。

第2部、新潟から青森(4巻〜9巻)。
とてもハードな旅です。街育ちの伊藤が同じ日本の国なのかと衝撃を受けるほどです。

                               地図は、共に2巻10p

10巻は、色々あって函館で足止めされていまいした。

11巻にして旅の第3部、バードさん念願のアイヌの村平取ビラトリに向かう蝦夷地の旅が始まりました。
表紙ではバードさんがアイヌのアットゥシを羽織って嬉しそうにしています。

明治期の北海道が舞台と言えば漫画『ゴールデンカムイ』を思い浮かべますが、バードさんが旅をするのは明治11年(1978)の夏です。
『金カム』のアイヌの金塊強奪事件が明治35年(1902)なので、ひと世代ズレているんですね(バードさんは土方さんと同世代)。
バードさんたちは函館を立ち平取に向かうので、アイヌの人たちがどのように描かれるのか、時間の違いでどう違っているのか興味深いです。


函館を出立して暫く行くと、アイヌの狩人たちと出会います。
初めて出会うアイヌの人の、その所作を目の当たりにしたことに感激するバードさん。
無言の内にもお互いへの敬意が感じられるとても素敵なエピソードでした。

しかし、その後に着いた森で出会ったアイヌの磯吉は、今は和人に使われアイヌの名を捨てたと言います。
これに複雑な表情で「今 開拓の名の下に 数多の民族が変化を迫られ あまつさえ 絶滅の危機に瀕している 風景も 文化も せいかつも 消え去る運命にあるかもしれない まるで砂浜の足跡のように」と語るバードさんに「だから今我々が 記録しておかなければ」と伊藤が返す場面では、「お金お金」と言ってばかりだった伊藤の変化に目を見張りました。
混浴など日本の古い風習を遅れたものであると恥じていた、山奥の貧しい村の人たちを見下していた伊藤が、それらも貴重なものであると言うバードさんに動かされたのだと思いました。

それなのに、「蝦夷が未開で野蛮なことはこの国の常識」だと言い切りアイヌの人たちを信用しない伊藤の様子に、その土地のことを知るために土地の人と信頼関係を結びたいというバードさんの思いは完全には伝わっていないのだなぁと感じました。

その一方で、外国人通訳として夷狄いてきの手先と蔑まれ雇い主からは人間扱いされなかった伊藤の苦労が垣間見えるエピソードもあり、人間の感情は一筋縄ではいかないと感じさせられました。


この作品からは、東京から離れた地に残されていた古き良き日本を旅する喜びとともに、人を理解したい、人と理解し合いたいという希望を感じて力を貰っています。


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