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授業はたのしいだけでいい! ―第3回「尊敬する人との出会い」
●ぼくに仮説を出会わせてくれた人
学校の常識を身につけ,学校に行くのがつまらなくなり,仕事として仕方なく学校に通っていたぼく。その隣で,いつも学校のことで頭をいっぱいにして,お仕事に一生懸命な彼女。「ぼくとは大違いだな」と驚かされたことは…
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休日のデート中なのに,「来週,授業参観があるのよね~」といって,ホームセンターで大量に豆電球を買っている。
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しかも,それを家に帰ってから,なぜかペンチでつぶし始める(!)
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そして「うまく割れない~」と言って,同僚の先生に電話して「どうしたらうまく割れますか?」って聞いている。
「いやいや,そんなマニアックなことに答えてくれる同僚なんていないだろ(^^;)」
と思っていたら,
「うん,うん,なるほど~!そうすればよかったんですね!」って言っててビックリ。
すぐに「上手な豆電球の割り方」が書かれたFAXまで届きました(゜Д゜)
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どうなってるの??
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「私,仮説実験授業のサークルに通っているの。たのしい授業なのよ。一緒に行ってみない?」と誘われる。
「休みの日なのに授業のことなんて…」って思ったけど,まぁこれも付き合いか,と思ってついていくことに。
そこでは,学校の授業とは全然関係のないような,おもしろい科学の実験や,ものづくり,悩み相談などをしていた。
とっても居心地のいい空間で,「楽しい人たちだな~」という印象をもった。
彼女さんは,「体育で〈スポーツちゃんばら〉を楽しんだ」という内容の資料を発表していて,「え?それってどういう授業なの?」と隣で聞いていたぼくが一番ビックリする。「そんなの学習指導要領にないじゃん」って思った。
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・・・なんとぼくは,悲しいことに,たったの1年半で,「教育界のつまらない常識」を身につけてしまっていたのだ。
そして,せっかくのサークルも「休みの日なのに授業のことなんて…」という気持ちが変わることはなかった。
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「たのしい授業フェスティバルっていうのがあるんだけど,一緒に行かない?」
・・・いつもの感じで誘われるままに,ぼくはフェスティバルに参加していた。パンフレットを見ながら,「たくさんあるんだけど,1つしか行けないところが惜しいわよね~」と言っている彼女さん。
ぼくのとっては,謎だらけの内容だった。
「《もしも原子が見えたなら》? 原子って,あの原子?小学生からやるの?ありえないでしょ」
と思った。だから,「学校の授業では使えないけど,自分の興味として参加するのは楽しいな」と思って参加していた。
そんな「付き合い参加」のある日のフェスティバル。
「今日は授業の前に中さんの講演があるっていうのに,出るの遅れちゃった!走らなきゃ間に合わない!」と言って会場まで走る彼女さん。
これにはビックリ。
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ぼくがフェスティバルに参加するのは「たのしい授業」を受けたいためであって,「講演を聞きたい」なんてことは,これっぽっちも思っていなかったので。しかも,会場に着いてみると,その講演の演題には
「学力低下の真相」
みたいな超つまらなそうな文字が。
…ところが,その超つまらなそうな講演は,ぼくの心にさらに大きな衝撃を与えてくれるものだったのです。
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●中一夫さんの「学力の講演」
「たのしい授業を受けに来たのに,その真逆の〈学力低下〉の話を聞くことになろうとは…」と,イライラしながら聞いたその講演に,いつの間にか,聞き入っていました。
普通だったら聞いていられないような,国際学力テストの結果分析の話。それなのに,つい考えてしまいたくなるような問題形式で話されるものだから,気づいたら夢中になっていました。
その結果の見方に,心底驚かされました。そして,ぼくの中にあった学力観は,根底からくつがえされたのです。
今までどれほど,表面的な学力観に右往左往させられていたのか。
「成績が上がれば,学習意欲が高まる」となんとなく考えて「わかる授業」をめざしていたけれど,「みんなができるようになれば,逆に,学習意欲は下がってしまう」というのは,各国の結果を見ても明らかな〈法則〉だったのです。
本当の学力を語るなら,勉強をたのしく続けていける「意欲と自信」が,どれほど大切なものなのか。そしてそれは,ぼくたちがやっている「たのしい授業」で育てることができる。
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そう熱く語る中さんの講演は,真っ暗だったぼくの教師としての未来に,明るい一筋の光を見せてくれたように感じました。
いや,それまでは,未来が真っ暗だったことにすら,気づいていない状態で,もがき苦しんでいたのです。
考えてみたら,職場で「これからの教育の未来は明るいよね!」などと語る人なんて,ひとりもいませんでした。
それどころか,「学力低下」「いじめ」「不登校」「学級崩壊」「保護者対応」「長時間過密労働」「給料や退職金は下がり続けている」など,暗くなる話題のオンパレードでした。
そんな中で,ぼくは初めて「明るい教育の未来を語る人」に出会い,そして初めて「たのしい授業をやってみようかな」と思うことができたのです。
マネが嫌いでできなかったぼくが,「こういう人になりたい」って思うことができた瞬間に,やってみようかなと思えました。
●変わり始めた自分
まずは,おそるおそる,「たのしい授業プラン」から始めました。仮説社から『たのしい授業プラン・国語』『社会』『体育』,それに『道徳』など,シリーズで出されていて,すぐにできる1時間ものの授業プランがたくさん載っていました。
彼女さんがやったことのあるものを中心に,やり方も教えてもらいながらその通りやってみると,子どもたちはとても喜んでくれました。
どうして,今までやらなかったんだろうと後悔してしまうほど,その反応はよくて,特に〈道徳プラン〉などは,「先生,また次もプリントの授業にしてね」と頼まれるほどでした。
ある日,「今度はどんな授業で喜ばせてあげようかな」などと考えながら,わくわくして授業の準備をしていたときに,ふとぼくが,
「自分は変わったと思う」
と,彼女さんに話しました。
すると,「あなたは変わったというより,もともとそうだったんじゃない?ただ,元に戻っただけでしょ(笑)」という,思いもよらない返事が返ってきました。
でも,「そうかもしれないな」と思えて嬉しくなりました。
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けれど,そんな「たのしい授業」の感動を味わったぼくも,仮説実験授業の授業書だけは,できないまま数年がすぎました。
人は簡単に変革することはないのです。
つづく
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※これは,『たのしい授業』という雑誌の「手書きのページ」に,2021年6月号~11月号までの半年間連載されたものです。「手書きの原稿」をごらんになりたい方は,ご購入いただけるとありがたいです!
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