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〈水の中で自由になろう〉②呼吸

 前回の「①水慣れ」に続き,今回は「②呼吸」についての課題を紹介していきます。
 画像の部分は「フリップ」になっていて,プールサードに選んで持って行くものです。これを提示しながら,だれでもたのしく授業することを可能にしています。



②呼吸のトレーニング

 「水の中では息をとめる」。これが水の中が怖いと思っている子の常識です。なぜ怖いのかというと,「水を吸ったり飲んだりしてしまうと,苦しいから」です。今までの人生の中で,そういう辛い思いをした経験があるからでしょう。もしくは,経験があまりにも少なく,未経験からの恐怖である場合もあります。だから,水中では息をとめてしまうのです。
 しかしながら,水の中で運動をするためには,水の中でも呼吸をしなければなりません。それを身につけなければ,水の中で自由になることはできないのです。
 そこで,「水の中で息を止める」という常識を,「たのしさ」で打ち破りましょう。まずは,「水の中で息がはける」こと。「はいても大丈夫という経験をすること」が大切です。顔をつけて,水中でぶくぶく息をはくのも怖い,という子でも,「水中で好きなことを大声で叫んでいい」という課題なら,できてしまうことがあります。


 これも,「口から息をはくこと」に慣れるトレーニングです。勉強の要素を取り入れることで,そちらに意識がいき,「口から息をはく」という恐怖と向き合わなくてすむことになります。
 低学年の子は「たして10がいくつ言えるか」,3年生からは「かけ算九九をどこまで言えるか」,などの課題はどうでしょう。
 水中での九九は,言えても2段くらいまでしか息がもたないので,「今日は5の段と6の段を一気に言えるかな?」などと,区切った課題を選んで出してあげるとよいです。
 個別にチャレンジする課題ですが,みんなで一斉に「せーのっ」でもぐってやると,周りから「ごぼごぼ」と音が聞こえてくるので,自分でも口から息をはくようになります。


 「水中で,口から息をはくこと」に慣れるために,「友だちとの関わりがある課題」を入れてみるとよいです。特に,問題形式がいいですね。相手にわかってもらうまで,知らない間に,何度でもやってしまいます。 
 そこで,ここでの課題は「なんの歌を歌っているのか」について,当ててもらいましょう。
 これは,ほとんどわからないので,「耳元で,わかりやすく歌ってあげるといいよ!」と教えてあげましょう。もちろん,相手が知っているであろう歌にしてください。いきなりサビの部分を歌うと,わかってもらいやすくなります。
 相手に当ててもらうか,こちらで時間を切って,交代しながら問題を出し合いましょう。時間の限り,何度でもためしてみたくなりますよ。
 


 「水中歌合戦」と同様,相手に当ててもらうクイズです。「口から息をはくこと」に慣れてもらうための活動です。
 いろいろなあいさつの中から,1つだけ選んで,水中で相手に伝えます。「水中歌合戦」と違うところは,耳元ではなく,相手の正面に立って,「口元を見てもらう」ということです。口をしっかり動かして,相手に伝えるのです。
 音としては,「ゴボゴボゴボ」としか聞こえませんが,口の形が見えたら,どのあいさつだったのか,当てることも可能でしょう。口から息をはくトレーニングだけでなく,相手にとっては「水中で目を開けて,何かを見る」という練習にもなっています
 これも,正解させてあげられたら交代します。当てられなくても,適当に時間を切って答え合わせをして,交代させてあげてください。


 ここからの課題は,先ほどまでの「口から息をはく」のとは違って,「鼻から息を出す」ということになります。そうなると,とたんに難しくなってしまう子がいるので,注意が必要です。
 「鼻から息を出す」課題が難しいとされる原因は,いくつかあります。まず,口は閉じていれば水は入りませんが,鼻は閉じることができません。また,口から水が入っても痛みはありませんが,鼻に水が入ってしまうと,とても痛いです。
 鼻の穴が閉じていないのに,それでも水が入らないのは,そこに「空気があるから」です。授業書《空気と水》を学んだ子たちであれば,理解してくれると思いますが,空気のあるところに水は入れません。だから,そこから空気をはき出している限り,水は絶対に入ってこないことを伝えて,安心してもらいましょう。
 鼻歌で人気の曲は,意外と「校歌」です。鼻歌を歌っているうちに,だんだんと体から空気が抜けて,体が沈んでいきます。そういう現象を見つけたら,すぐに教えてあげて,気づかせてあげるとよいでしょう。


 陸上の呼吸は,「鼻から吸って鼻からはく」のが普通です。ところが,水中でそれをやってしまうと,鼻から水が入ってしまって痛い思いをします。
 水中での呼吸法では,「鼻から出して,口から吸うこと」が基本です。水の中で自由になる第一歩は,水のルールに従った〈呼吸の仕方〉を身につけること です。ボビングは,水の中で自由になるための呼吸の仕方です。

 泳いでいて苦しくなってしまうのは,水中で息を止めてしまうからです。実は,水中で息は止めなくても大丈夫です。陸上で生活しているときに,息を止めることはありません。当然「はいたり,吸ったり」しています。

 ですから,水中でもそうすればよいのです。水中にいるときに「鼻から息をはいて」,水面に顔を上げたときに「口から息を吸えばよい」のです。
 これができると,苦しくなく運動を続けることができるようになります。


 「鼻から息を吸って,口からはく」という水中での呼吸法に慣れるために,いろいろなやり方で練習していきます。通常のボビングでは,正面を見ながら真下にしゃがんで沈んで息をはき,まっすぐ上がってきて息を吸う練習しましたが,今度は,プールの底を見る感じで顔を水中に入れ,「んーーーー」と言いながら,鼻から息を出し,頭を上げて「パッ」と息をはき出すことで自然と吸います。これを繰り返し練習しましょう。
 慣れてきたら,おでこの辺りから顔を水に入れ,頭のてっぺんから水面に上げるように動かして,ボビングをする形にしていきましょう。これは,平泳ぎやバタフライのときの「頭の動かし方」の練習にもなります。
 同時に,その動きに合わせた呼吸のトレーニングにもなるので,いい練習になるでしょう。

 

 今度は,クロールの息継ぎを意識したボビングを練習してみましょう。
 ポイントは,顔だけ横を向いて息を吸うのではなく,「体ごとねじって,顔を水面に上げるようにする」ことです。
 クロールでは,この「体のひねり」がとても大事になってきます。
 ボビングの練習をする前に,息を止めたままでもよいので,水面で体をひねる練習を先にするとよいです。顔を上げるというより,「右肩を上げながら左肩を下げる」「左肩を上げながら,右肩を下げる」という感じで,「肩から動かして,体をひねる動き」を左右交互に入れ替えながらやってみましょう。
 うまくできるようになったら,そこに「んーーー,パッ」のリズムで「鼻から息を出し,口でパッとはいて吸う」ことを組合わせていきましょう。








問題のこたえ

 ひとつは「水中で息を止めたままはかないで,顔を出したときに同時に〈はいて吸う〉をやってしまうとき」です。
 息を止めてしまうと,すごく苦しくなるので,そうならないために,「水中では鼻から息を出す」のでした。

 そして,もうひとつは「息の吸い過ぎ」です。

 たとえば,「深呼吸を早く連続で」やってみるとわかります。実は,息の吸い過ぎというのは,ものすごく苦しいのです。

 吸いすぎてしまうことを意識していないと,水の中では,それをやってしまいがちになります。
 そこで,肺の中の空気を半分だけ入れ換えるくらいの,「ちょっとはいて,ちょっとすう」という呼吸の仕方を意識していきましょう。
 どの向きの呼吸でもよいので,息をちょっとはいて,ちょっと吸うボビングをしてみてください。
 自分でやってみながら,〈一番苦しくない呼吸の仕方〉をさぐりましょう。



 自分の背がとどかないほどの深さのプールでも,ボビングができれば安全です。鼻から息を出してしずめば,必ずプールの底に足がつきます。底から足でジャンプしながら,手で水をかけば,必ず水面から顔が出せるでしょう。その時に,ボビングで練習した呼吸をするのです。
 陸上と同じように呼吸できることがわかったら,そのリズムに合わせて,だんだんと前にジャンプして移動していきましょう。
 あせらずに,呼吸を確保しながら進めたら,プールを横断することだってできます。それは,泳げているのと同じことです
 「ボビング移動」は,プールであなたができる「初めての泳法」だといえるでしょう。
 低学年の子が,大きなプールでやるときには,高学年の子に手を持ってもらったり,「赤い補助台から赤い補助台まで移動する」などの場を作ったりして,安全に配慮した練習をするとよいでしょう。


次回は,「③浮かぶ・姿勢のトレーニング」編です。お楽しみに!

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