カスタマーサポートとカスタマーサクセスの交差点(約1万文字)
openpage代表取締役の藤島です。先日、月刊コールセンタージャパンの矢島編集長と話す機会がありました。カスタマーサポートの立ち位置から見た「カスタマーサクセス」を取材や調査をされており、私自身もカスタマーサポートの視点からカスタマーサクセスを考えてみるキッカケとなりました。
本記事では、カスタマーサポートの歴史的背景から現在のトレンド、その流れにおけるカスタマーサクセスの立ち位置や交わり、その誤解について私の考えをまとめたいと思います。
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①カスタマーサポートの歴史を振り返る
カスタマーサポートは電話機の発明から登場した(1990年代)
以前の私の記事で、カスタマーサポートの生まれた背景について説明したことがあります。※下記記事の2,カスタマーサクセスとカスタマーサポート
カスタマーサポートとは、電話機の発明が誕生の由来となっており、カスタマーサポート部門が出来る前(1970~1980年代)は、企業への問い合わせやクレームは直接会社の代表電話に届いていたのです。
そして1990年代、CTI(コンピュータと電話が統合されたシステム)やPBX(外線・内線の制御システム)が開発され、「他の電話オペレーターに通話を転送する、顧客の電話番号を登録し、ナンバーディスプレイで表示する」といったことが技術的に可能となり、カスタマーサポートの部門が急拡大しました。カスタマーサポートの歴史は、下記のコールセンタージャパンの矢島さんの対談記事により詳細が掲載されています。
コールセンタージャパンの雑誌創刊のきっかけは、90年代から普及したCTIの日本向けの情報発信のため、米国情報誌の翻訳権を得たことから始まっています。この発信内容がまさに、コールセンターの誕生の歴史でした。
インターネットの登場でカスタマーサポート需要が爆発(2000年代)
さて、ここからが前回の私のカスタマーサクセス記事には書ききれなかったカスタマーサポートの歴史の続きです。
電話機の発明から、CTI、PBXに進化し、「お客様窓口」として電話対応をしていたカスタマーサポートの部門ですが、2000年代に入り、メールやホームページ問い合わせもその対応範囲に含まれるようになりました。インターネットの登場で、デジタル接点もカスタマーサポートの職域として増えたのです。
消費者が企業に連絡するチャネルが増え、その後のカスタマーサポートは、製品のジャンルを問わずあらゆる企業において問い合わせ業務が発生するようになります。これに比例してカスタマーサポートの職業人口も急拡大しました。私も(北海道出身のため)学生時代に札幌のコールセンターでアルバイトをしていたのですが、非常に採用旺盛だったのを覚えています。顧客対応の担い手が不足し、地方のコールセンター拠点はどんどん増えていきました。
また、マルチチャネル化に伴い、zendeskのような複数チャネルからくる問い合わせのチケット管理システムが登場しました。これにより問い合わせ対応に関するデータ分析が出来るようになりました。
この頃のカスタマーサポートのKPIは、応答率(受電率)や応答スピードといった、どれだけ速やかに顧客のトラブルシューティングが出来たのかというものでした。
カスタマーサポートは顧客体験の担い手へ(2010年代)
2000年~2010年代は、カスタマーサポートが従来の受電対応のみの職業から脱皮し始めるタイミングです。先ほど紹介したカスタマーサポートベンダー最大手のzendeskが創業されたのが2007年で、彼らの発信からもカスタマーサポートの職能としてのブランディングが変わり始めた時期です。この頃から「カスタマーサポート部門は重要な顧客との接点だ。戦略的に活かそう」という考えが生まれ出しました。
コールセンタージャパンを発行するリックテレコム社が「コンタクトセンターアワード」を初回開催したのもこの時期です。(2004年)
なお、カスタマーサポートの顧客体験が強い競争優位となったザッポス社が急成長した時期も2000年代です。カスタマーサポート部門は単なる受電対応チームではなく、カスタマーエクスペリエンスの担い手なんだという見方がされるようになり始めたのです。
しかし、その一方で、企業内では「カスタマーサポートはコストセンターだ」「カスタマーサポートは収益貢献が出来ていない」と言われることもあったようです。リックテレコム社はその誤解を解くための情報発信を続けています。例えば下記の2014年に発売された書籍「戦略的コールセンターのすすめ」ではカスタマーサポートは戦略的な業務であり、顧客関係を築くインテリジェンス集団であると訴えています。
カスタマーサポート部門は顧客接点、それはすなわち「顧客の声」の代弁者となりうる立ち位置でもあり、VoC(ヴォイス・オブ・カスタマー:顧客からいただく声)の回収や他部門への情報連携など、企業戦略の一つとなると、発信も新たな観点としてなされるようになりました。
カスタマーサクセスの分野でも馴染みの深い顧客ロイヤリティ、NPSといった考えが登場したのもこの時期です。顧客接点に加え、顧客データの集約ポイントという観点がカスタマーサポートの現場に生まれたのです。
カスタマーサポートテクノロジーの急発展(2020年代)
そして2020年代。これまでカスタマーサポートは地方のコールセンター拠点を増やしながら、内製・外注を織り交ぜて対応してきましたが、人材不足が深刻化しました。新型コロナウイルスにより在宅勤務が増え、コールセンターでの採用が難航し、稼働率も落ち込んでしまったのも要因の一つです。
一方、幸運にも同時期に実用化が進んだデジタルテクノロジーは「AI技術」です。コンピュータが自ら学習し、アウトプットを出すAI技術はカスタマーサポートと大変相性が良いものでした。
具体的には、チャットボット、RPA、IVR(Interactive Voice Response:自動音声)、音声認識といった製品がカスタマーサポート部門に次々と導入され、溜まったデータを活かし更に製品が改善される好循環を生みました。
これに関して、最近読んだ驚いた記事はこちらです。
03番号で男性から電話がかかってきて、「Googleマップ」と名乗られる。癖のある喋り方だなと思って電話でやり取りをしていたら、実はGoogleの自動音声で全くそれに気づいていなかったというニュースです。
これに代表されるように、カスタマーサポートのテクノロジーは劇的に発展しております。カスタマーサポートの人材不足が深刻になりゆく今、カスタマーサポート業務のデジタル化が人材不足を解決していくことでしょう。
②カスタマーサポートとカスタマーサクセスの大きな違い
カスタマーサポートのデジタル化のトレンドと同時期に、2020年代にカスタマーサポート部門でホットなワードのもう一つが「カスタマーサクセス」です。
しかし『カスタマーサポートはカスタマーサクセス的であるべきだ』と言われ、なんだかそれっぽいが実際はよくわからない。不思議な表現になってしまっているのがカスタマーサポートから見たカスタマーサクセスではないでしょうか。
なぜカスタマーサポートとカスタマーサクセスは遠く離れているのか?
カスタマーサポートからみた、カスタマーサクセスが遠く見える大きな要因の一つは、顧客属性の違いです。
カスタマーサポートは対応製品の8割近くがBtoCであり、会話内容はトラブルシューティングが中心となります。しかし、カスタマーサクセスにおいてはこの比率が逆転します。つまり、カスタマーサクセスの担い手のほとんどがBtoBの事業です。
なぜなら、カスタマーサクセスの発祥と由来はSaaS製品の利用促進と契約拡大にあるため、その業務ノウハウのほとんどがBtoB取引の内容になるのです。そのため、現在カスタマーサクセスの担い手は、カスタマーサポート出身者よりも、BtoBのIT業界の法人営業やコンサルティングの出身者が中心に構成されています。
実際に、弊社openpageが開催したカスタマーサクセスの大型イベント「CSPROUD」では、参加者の9割以上はSaaSやSIなどBtoBのIT事業者でした。参加者に占めるBtoC比率は5%程度で、それら参加者からは「BtoCのカスタマーサクセスのやり方があまりわからないので教えて欲しい」という声がありました。それはカスタマーサクセスの考え方のほとんどがBtoB取引に準拠した内容となっているため、BtoC企業からはアンマッチに感じられてしまうことが背景にあります。
製品属性(toC、toB)からカスタマーサポートとカスタマーサクセスはコミュニケーションが異なる
また、BtoCとBtoBの製品の違いはコミュニケーションの人数や内容にも影響します。BtoCは対応しなければならない顧客数が膨大ですが、BtoBはBtoCほど多くはありません。その代わり、 BtoBは1社あたりの関係者が多いため、疑問点は顧客が社内関係者を調整してからMTGで一気に質問します。
また、BtoCで対応するカスタマーサポートのコミュニケーションは、製品が動かない等のようなトラブルシューティングが多くを占めますが、BtoBのカスタマーサクセスにおいては製品導入でどう自社の業務を改善するべきか?が会話の多くを占めます。
前者は10分の電話応対で終話できますが、後者は10時間の双方の対話が時には必要になります。この顧客対応の人数や内容の違いが、カスタマーサポートとカスタマーサクセスを大きく隔てているのです。
③カスタマーサポートとカスタマーサクセスの交わるところは?
では、この両者が交わるところはどこなのか。その共通項は「デジタルコミュニケーション」になるでしょう。
先ほどカスタマーサポートのテクノロジーの進化を紹介しました。しかし、テクノロジーの裏側の現場は、実はかなり泥臭い業務が行われています。あらゆる顧客の質問に回答できなければならないため、考えうる全ての質問を文章化し、その回答もテキストデータで作り切るのです。大手の企業ではこのQ&Aの項目は数千以上にも及び、その設計作業は人が手間をかけて行っています。どのようなことが顧客体験の負に繋がるのか、そこからどんな質問やクレームが考えうるのかを、ひたすら整理し・文章化し・実際にテクノロジーに埋め込み・回答記録をチェックし…といったことの反復です。
カスタマーサポートのデジタル化は、カスタマーサクセスにおけるテックタッチ
この業務は、カスタマーサクセスにおいても似通った業務が必要になってきました。それが、カスタマーサクセスの「テックタッチ」実装です。
カスタマーサクセスにおいては、Q&Aではなく「いかに自社の製品で企業の業績や生産性を高めるか」に強い比重が置かれています。それをすべて人的で案内する業務は、カスタマーサポート職と同様に、既に人材難です。SaaS市場の急拡大に伴い、カスタマーサクセスの案内を聞きたい顧客に対して、カスタマーサクセスの人材採用と育成が追いつかないのです。
そのため、顧客案内業務をデジタルで代替することが求められ始めています。カスタマーサポートでは質問への応対に関するテキスト化が中心となりますが、カスタマーサクセスでは顧客の製品導入成果を出すための情報のテキスト化がメインとなってきます。
この、読み手の状況や期待値を考えながら、事前にコミュニケーションを設計しデジタル実装していく、という仕事は、BtoC/BtoBという違いはあるもの業務内容は親しく、ここがカスタマーサポートとカスタマーサクセスの交わるところであると私は考えています。
カスタマーサポートの人がカスタマーサクセスのテックタッチを実装するとしたら?
さらに踏み込んで、カスタマーサポートとカスタマーサクセスの交わりについて考えます。
では、カスタマーサポートの人がカスタマーサクセスのテックタッチを実装するとしたら、何の知識が足りないのか?
私は、①カスタマーサクセスのジャーニー、②顧客/製品の専門知識と考えています。
カスタマーサポートが知っておきたい、カスタマーサクセスのジャーニー
まず、カスタマーサクセスはBtoBのSaaS/クラウド製品の取り扱いが前提となります。SaaS/クラウド製品において追わなくてはならないのは、製品の利用と契約継続・契約拡大です。これは問い合わせに回答するだけでは足りず、能動的に働きかける必要があります。
ステップとしては、「①顧客がSaaS製品を契約する」「②SaaS製品のセットアップをする」「③SaaS製品を日常的に利用する」「④SaaS製品によって企業の業績が改善する/業務が楽になる」「⑤満足しているので契約を継続する」「⑥もっと広く使いたいため契約プランを上げる」「⑦他の製品も購入する」があり、この①~⑦を促すためのコミュニケーションがカスタマーサクセスです。
カスタマーサポートの一般的な対応範囲は①②が中心であり、踏み込んだ製品利用の促進や、契約の促進というのは従来は業務外とされているはずです。(もちろん、販売業務を行っているカスタマーサポートの部門の方がいることは承知の上での一般論です)
そのため、カスタマーサポートがカスタマーサクセスをするのであれば、③~⑦のステップをたどるジャーニーと、そのためのコミュニケーションについて精通しなければなりません。
カスタマーサポートが知っておきたい、カスタマーサクセスにおける顧客/製品の専門知識
①~⑦においてコミュニケーションの前提になるのは、顧客や製品に関する専門知識です。BtoBのSaaS製品には様々なものがあります。
不動産、人材、建築、医療といった業界別のツールや、マーケティング、セールス、人事といった職能別のツールです。
例えば上記の「④SaaS製品によって企業の業績が改善する/業務が楽になる」を、医療現場の病院に、遠隔治療のSaaS製品を提案するというシーンのコミュニケーションを考えてみてください。病院や医師といった顧客に関する情報は必要不可欠ですし、遠隔治療のメリット・実現方法・自社製品の機能といった製品情報も必要です。
カスタマーサクセスはカスタマーサポートからテクノロジー活用を学ぼう
これまではカスタマーサポートがカスタマーサクセスから学ぶという視点を語りましたが、その逆であるカスタマーサクセスはカスタマーサポートから何を学ぶべきか、どう交わるべきかも説明します。結論、カスタマーサクセスが学ぶべきはカスタマーサポートが培ってきたデジタル化です。
カスタマーサポートのデジタル環境はカスタマーサクセスよりも遥かに進んでいます。オムニチャネルのコミュニケーション、VoCの回収、チャットや音声での自動応答といった分野は先進的なカスタマーサポートを持つ企業の多くが実施しているものです。
現在、カスタマーサクセスの現場では顧客対応数の増加と人材難から、顧客案内のコミュニケーションを自動化するテックタッチが求められています。
このデジタルなコミュニケーションをどのようなプロセスで設計していくべきかはカスタマーサポートのDXの取り組みから学ぶことは大いにあるでしょう。
しかし、先ほど解説したように、カスタマーサポート部門ではBtoBの専門的な解説、中長期に渡る製品の利用・契約の促進といった業務は不慣れであることが多いです。両者がフォローアップしあい、コミュニケーションのデジタル化を進めていくことが2つの職種の交わるところだと私は考えます。
Appendix①BtoC事業のカスタマーサクセス、BtoB事業のカスタマーサポート
以降の文章はappendixです。カスタマーサポートはBtoCが中心で、カスタマーサクセスはBtoBが中心である、という前提でこれまで説明をしてきました。では、前提を変えて、BtoCのカスタマーサクセス、BtoBのカスタマーサポート、という視点を考えると、また異なった観点での両職種の交わりが見えてきます。
BtoC事業のカスタマーサクセス
先ほど紹介した高広伯彦さんの図の中では、よく見るとBtoC事業の中でも検討頻度が長いものを短いものがあると図解化されていました。同じBtoCのビジネスにおいても、消費の時間軸や購買後の取引関係の長さは、製品によって異なります。BtoBの SaaS製品と似通ったモデルであれば、そこにカスタマーサクセス業務が発生します。
ですので、BtoCにおけるカスタマーサクセスを考えるのであれば、BtoBのSaaSと近いビジネスモデルの製品は何か、という観点が必要です。事業形態が近しいビジネスモデル同士であれば、仕事のノウハウがある程度応用が効くからです。
SaaSと近い継続課金モデルという観点では、BtoCのサブスクリプションビジネス(会員制サービス、定期購入型ECなど)、ITビジネスという観点ではアプリ/EC/ゲーム/コンテンツビジネスなどが共通するBtoC事業です。
しかし、私が知る限り、これらのBtoCのビジネスにおいては、カスタマーサクセスではなく「ディレクター職/プランナー職」や「グロースハック職」のほうが先立つ職種として既に存在していたと認識しています。
例えば、「ディレクター職/プランナー職」であれば、任天堂においてWiiの企画開発に携わった玉樹 真一郎さんは、こちらの書籍でいかに製品(この場合はゲーム)の体験を作り込み、長きにわたって愛される状態を作るのかという解説をされています。
また、グロースハックはBtoCのアプリやゲームなどのアクティブ率向上や課金額向上などを目的として2010年代に流行った職種ですが、グロースハックの生みの親であるショーン・エリスさんが下記の書籍でその方法論をまとめています。
このように、BtoCビジネスにおいては、BtoBのカスタマーサクセスという言葉が生まれるその前から既に別の職能で製品体験の向上や契約金額の拡大について議論・実践されてきておりました。そのため無理にBtoBが基軸となるカスタマーサクセスのノウハウを当てはめる必要はなく、従来の他職種の知見とカスタマーサクセスの知見を自社の事業に合わせてミックスして取り入れるべきだ、というのが私の意見です。
BtoCのカスタマーサポート部門で、カスタマーサクセスの取り組みを強化するのであれば、カスタマーサクセスだけではなくディレクション/プランナーやグロースハックといった知見を学ぶほうがしっくり来ることもあるはずです。
私が経験したBtoCのカスタマーサクセス(Wowow事例)
ただ、当然例に挙げたグロースハックは全く別物の職種にも思えるかもしれません。よりカスタマーサポートが担うBtoCカスタマーサクセスの事例をお話させてください。結論からいえば、製品消費における「顧客ガイド」的な役割を担うべき、というのがBtoCのカスタマーサクセスです。
私は昔、wowowのコールセンターの仕事をしたことがあります。その際に、登録時のアンケートデータが顧客管理システムにすべて整理されており、その情報に基づいて、実際に見たい番組があったか、どんな番組を見てるかをテレコールで確認し、今月の特番をレコメンドするような案内をしていた時期がありました。また契約プランの状況をチェックし、トライアル顧客には有償化の案内をしました。これは、toCの事業に対して、トラブルシューティングではなく、消費体験をよりスムーズにする、楽しいものにするためのコミュニケーションでした。またプランのアップグレードを促すことから収益貢献にも寄与しており、振り返ってみればカスタマーサクセス的だったと思います。
カスタマーサクセスは、購買後の顧客を「成功」させることですので、言葉通り、どのような情報をお届けすれば製品を購入した後も楽しんだり、役に立てたりすることが出来るのかを考えていました。このような仕事が、BtoCにおけるカスタマーサクセスなのではないかと思うのです。
この仕事については、偶然にも、2018年に書籍でより詳細な仕事術が紹介されたものが発売されています。この分野に興味のある方は必読の一冊でしょう。
BtoB事業のカスタマーサポート
では、BtoB事業はカスタマーサクセスが中心となるという話でしたが、カスタマーサポートはBtoBにおいてどのような立ち位置になるのでしょうか?
私が、周囲のSaaS企業におけるカスタマーサポートの状況をヒアリングしたところによると「カスタマーサクセスがカスタマーサポート機能を吸収している」ケースが多かったです。というのも、BtoB取引においては営業担当・カスタマーサクセス担当が対面で十分にコミュニケーションを取り合う関係性であり、それを飛び越えて直接企業のカスタマーサポート部門に電話してくることは少ないとのことでした。もちろんこれは事業の構造によって企業ごとに異なり、例えば何万店舗もの飲食店が利用している予約管理システム、のような事業の場合は、仮にBtoBであっても一定の電話・メール問い合わせが発生するためカスタマーサポートを別部門として設置しているケースがありました。
このように、カスタマーサポートの業務発生、カスタマーサクセスの業務発生はそれぞれ事業構造において頻度や重要性が変わるものであり、一概に全ての企業にカスタマーサクセス・カスタマーサポートが必要、と言えるものでもないことがわかります。
Appendix②カスタマーサクセスに関して誤解を招く表現
appendixその2です。これまでの説明で、カスタマーサポートとカスタマーサクセスの背景・業務内容の違い・必要性・交わるポイントなどの輪郭が浮かんできたと思います。ではなぜ、カスタマーサポートから見てカスタマーサクセスに誤解を招いてしまうかといえば、メディアとベンダーにその一因があると考えます。
メディアの思惑がカスタマーサクセスへの誤解を誘導する
カスタマーサクセスはBtoBのSaaSから生まれた職能であり、実態としてその仕事術の多くはSaaSの製品利用促進や契約拡大になります。しかし、SaaSの仕事と限定するとあまりにマニアックすぎる内容になってしまいます。多くの読者にとっては関係のない話題に映り、編集部としても取り上げにくい内容になります。そのため、なるべく抽象度を高めて、ビジネスマン全般に通ずる概念として紹介したいというメディアの思惑があります。
ベンダーの思惑がカスタマーサクセスへの誤解を誘導する
カスタマーサクセスに関係するベンダーも、同様にSaaS企業のものと言い切ってしまうと顧客セグメントが狭すぎて売上が小さくなります。そのため、なるべく抽象度を高めて、いろいろな業態の企業に広めたいという思惑があります。
もちろん、これらの考え方が全くの誤りとはいえません。私もカスタマーサクセス領域のベンダーの代表である以上、その共犯者になる可能性はあるでしょう。
過去の例では、「サブスクリプション」というSaaSから生まれたワードが、SaaS以外のビジネスモデルへ拡張していった(そしてこれはZuoraのマーケティング戦略だった)という歴史がありました。
同様に、正しく機能すればカスタマーサクセスも対象範囲が多くの企業に拡大していく可能性は大いにあります。私はカスタマーサクセスのITベンダーですので、もちろんそれには大賛成です。
しかし、実態としてカスタマーサクセス部門の多くはBtoBのSaaS/クラウドの事業の会社に設置されているもので、それが本来の成り立ちです。まだ日本のSaaS企業のカスタマーサクセス部門でさえ導入過程の取り組みでありますので、聞き手によっては解釈がしづらく、ついていけない可能性があります。
この前提を意識しないでカスタマーサクセスを捉えると、誤った認識でカスタマーサクセスを理解してしまいます。
今回の記事では、カスタマーサポートとカスタマーサクセスの交差点、というタイトルで、両者の成り立ちや共通項、その実態などをあらゆる点で解説させていただきました。矢島編集長ともお話しましたが、この記事の続きは、雑誌コールセンタージャパンで寄稿ないし連載の形で更新したいと考えております。お楽しみにしてください。
おわりに
記事をご覧いただき、ありがとうございました。
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カスタマーサクセスについてより学習したい方は、その他のカスタマーサクセス記事もnoteで更新しておりますので是非ご覧ください。
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