渋谷教育学園幕張中学校(千葉県)について 【中学入試最前線1】
どのような生徒が合格しているか
渋谷教育学園幕張中学校(以後、渋谷幕張中学)は今、注目の学校です。
ここ何年か、東大合格者数は60人~70人の数に達し、ベスト10の上位にランクインしています。一時期、桜蔭中学を抜いたこともあり、「桜蔭中学を蹴って、渋谷幕張中学に進学した生徒がいた」という噂が流れたくらいです。
私は30年に渡って、この学校の受験指導をしてきました。過去問も昭和のものから揃えています。指導方法は、基本的に過去問で行います。それらの経験からわかるのは、この学校の入試問題には、はっきりとした傾向があるということです。
渋谷幕張側は、入試説明会で「自分達の学校は、東大進学のための学校ではない、国際人養成のための学校です」と主張しています。しかしながら、実際の入試問題を分析研究してみると、東大入試を射程に入れた傾向があることは明らかです。特に国語の問題では、東大出身の著者の作品が頻繁に出されています。わかりやすい例で言えば、夏目漱石、芥川龍之介、川端康成、三島由紀夫、寺田寅彦の著作があげられます。また、論説文では、森本哲郎、青木保、日高敏隆と言った、受験の世界では定番とも言える著者の作品から多く出題されています。
実際に指導してきた経験から見ても、渋谷幕張は国語ができないと合格できません。たとえ算数の偏差値が70であっても、国語の偏差値が60以下では、まず合格は望めないのです。
過去の入試説明会でも、「今年合格した生徒の算数の最低点は、10点台でした」、「算数の合格者平均点が30点台でした」ということがよくあります。このことから見ても、学校側が「算数に比重を置いていない」と言うことが推し量れると思います。
国語のできる生徒は、中学入学後、あっという間に英語が上達します。母国語の基礎と理解なくしては、外国語の理解はないからです。
言語能力(国語能力)が高ければ、英語はもちろんのこと、数学や理科などの他教科も成績が上がることは、過去の実績からも明らかです。学力の基礎を形成する時期だからこそ、渋谷幕張では国語を重視しているのでしょう。そして、その高い国語力が、東大合格トップクラスという結果につながっているのだと思います。全ては言語能力を伸ばすことから始まるのです。
いつから受験勉強を始めるか
塾によっては渋谷幕張中学に特化した講座を設けているところもあります。週一回、それも六年生からという所が多く、その時点である程度「出来ている」生徒が対象です。当然ですが、この講座を受けたからと言って、合格する保証はありません。
私の感覚では合格可能か否かは、四年生である程度判断できると思っています。「対策をするなら新四年生から」というのが私の持論です。
小学生に岩波新書?
経験上、四年生の時に、岩波新書の「読書力」(斎藤孝著)を面白いと思って読みふける子供は、合格率が高かった記憶があります。実際の受験でも、岩波新書の「知的生産の技術」(梅棹忠夫著)から、昭和62年と平成4年に出題されています。この過去問を四年生にやらせてみて、高得点をとれる子供は、かなり合格可能性が高いと言ってよいでしょう。
斎藤孝は「声に出して読みたい日本語」の著者として有名で、東大法学部を出た後、そのまま大学院に進み、現在、明治大学の教授をしています。斎藤先生は、高校時代に岩波新書を二百冊読んだと言っています。斎藤先生の学生時代に出版されていた岩波新書は、青版・黄版と呼ばれていたもので、かなり難しいものでした。それらを二百冊も読むことによって、東大法学部に合格できる実力を養うことができたのでしょう。
それに比べると、今の岩波新書の新赤版はとても易しく、小学生でも十分読むことが可能です。そのため、渋谷幕張中学は、過去に何回も岩波新書の赤版から出題しているのです。そのような実情を余り知らない親世代からは、いまだに岩波新書は難しいと言うイメージがあるためか、どうしても中学受験対策として岩波新書を読ませることに抵抗があるようです。
実際に、四年生の内から岩波新書を読むようにすれば、受験対策として効果的であることがわかっているのにも関わらず、一般的な進学塾で、そのような対策をとらないのは何故なのでしょうか。
それは、保護者からのクレームを恐れて、積極的に岩波新書を読むように指導できないという実情があります。保護者が抱いている上のような先入観から、「なぜそんな難しいことをやるのか」という電話がかかってくるのです。そのような電話をしてくる親に限って、「渋谷幕張中学に合格させて欲しい」と言ってくるのですから、困ったものです。
合格させたいのであれば、一見、遠回りに見えるかもしれませんが、四年生から岩波新書(新赤版)は読ませるべきだと思います。
算数ばかりをやっていても、渋谷幕張中学には合格できません。大手の進学塾では、手っ取り早く成績を上げやすい算数中心のシステムを採用しています。そうでないと生徒が集まらず経営が成り立たないからです。
対策として必要だと分かっていても、根本的に力を付けるための、すぐに結果が目に見えて出ない国語の講座は作らないのです。
国語力強化は、一生もの
中学に合格できても、そこがゴールではありません。国語力を鍛えていないと、高校受験、大学受験で頭打ちになる子供が多いです。
国語は、ともすると後回しにされがちで、受験直前では焦ってできないことが多いです。そのため、じっくりと取り組むことができる四年生から準備することが肝要です。国語学習として岩波新書を読むことによって、思考の基本回路とデータベースを作ることが可能となります。
また、受験で出題される本は、良書が多いです。そのような良書を読むことが、直接合格につながるのはもちろんです。それに加えて、長い人生において、感性と記憶力の優れた時期に良書を読むことで、その後の人生の選択の幅も広がることは言うまでもないでしょう。
遠回りに思える受験対策が、実は人生を成功へと導く近道になる良い例と言えるかもしれません。
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