英語にある「最大の弱点」とは 【オーウェルが危惧していた英語の未来】
使いやすいが故に、悪く使われることが多いと言うのです。
英語は、名詞が「男性名詞」「女性名詞」「中性名詞」に分かれているわけではないので、それに伴う冠詞や代名詞、形容詞の格変化をする必要がありません。
ドイツ語やフランス語では当然のように要求される文法が、英語には無いため、イギリス人は、幼い時に外国語を学ぶ訓練を受けていない限り、「性」「人称」「格変化」が何のことか全く理解できないそうです。
英語の文法が簡単である例として、オーウェルは、「英語の規則動詞は、三種類の語尾(①三人称単数 ②現在分詞 ③過去分詞)しか持たない」と言っています。
英語では、人称や時制を通じて、代名詞まで含めても、せいぜい30語、二人称単数を含めても約40語で表すことができます。
これに比べ、フランス語では、200語近くになるそうです。
この事実を知ってしまうと、「英文法が難しい」などと言っていては、国際人として余りにもレベルが低いということを自覚する必要があるのかもしれません。
この文法の簡単さ(シンプルさ)が、debasementをまねいてしまうのです。
その一例として、オーウェルは、インドの人が話す英語をあげています。
オーウェルは、インドで警察官をしていたことがあり、そこで遭遇した現地の人々の英語を生で体験していました。
当時、現地では500万の人々が英語の読み書きをすることができました。
少しくずれた形でも、どうにか通じるレベルの人まで入れると、さらに数百万の人が英語を話すことができたそうです。
それに対し、インド特有の現地語(ヒンドゥスタン語など)をマスターして話すことができるイギリス人は、ほとんどいませんでした。
イギリス人が現地語を覚えるよりも早く、現地の人たちが英語を覚えてしまうので、必要性を感じなかったからかもしれません。
この例をみても、オーウェルが言うように「英文法を覚えることなど誰でもできる簡単なことである」ということがわかるでしょう。
オーウェルは「特に会話英語が危険だ」と指摘しています。
文法が簡単であるため、省略に次ぐ省略を招き、スラングやジャーゴン(専門用語や隠語)を生みやすく、これが品位の低下をもたらすと言っているのです。
英語の専門雑誌などを読んでいてもわかるのですが、医師や科学者、実業家や役人、スポーツマンや学者など、その業界特有のひねくれた言葉(ジャーゴン)の例はいくらでもあげることができます。
業界人がその業界特有の言葉を使うことで、部外者を見下すような品性の下劣さを招く結果となってしまっていることを、オーウェルは懸念していたのでしょう。
オーウェルからすれば、ジャーゴンを使っている「専門家」や「業界人」は、英語の品性や品位を低下させている元凶と言えます。
外国語を学ぶ価値というのは、母国語ナショナリズムに陥らないようにするための「価値相対主義」にあります。
自分だけが特別なことを知っていることをひけらかすためであるならば、人を見下すような品位の低下を招く結果となるだけなので、外国語など学ばない方がよいでしょう。
どのような学びであっても大切なのは、人としての品性と品位を高い状態で保つことです。
これこそが、オーウェルが言う「decency」なのです。