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散文

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夏の終わり

夏の終わり

夕飯を終え、キッチンで、暮れていく夕陽を見ている。夏の終わりの気配のする夕暮れ、盛んに鳴いていたクマゼミはヒグラシへ、そして、陽が落ちると、ヒグラシから秋の虫の音に変わる。尾形亀之助の『美しい街』を読む。闇に紛れて、真っ白な紙面に、筆で染みを落としたような美しい詩は、形をなくしつつあり、私自身も像を失っていく。夏野菜の炒め物の香りも、冷蔵庫のコンプレッサーの音も、気配を失い、詩集をポロンポロンとめ

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正義とは?

正義とは?

<正義とは?>これは妻からの質問です。昔からウルトラマンで、ウルトラマンが負けて、いつも都合よく負けている怪獣たちが勝たないかなという目線で見ていた歪んだ子どもだった私に正義を語る資格があるのかと思うのですが、私なりの解釈で言います。正義とは、そこに悪がないものに正義が宿るのかなと思っています。少年サンデーに、小山ゆう著の「スプリンター」という漫画がありました。その序盤に、お祭りで大多数の大人たち

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醜い男の物語

醜い男の物語

100人中99人が醜いと顔を背けて言うような男を女は伴侶として選んだ。女は道を歩いていると男が振り返るような美女だった。男は自分が醜い事をもちろん知っていたが美しい物とは何であるか知り尽くしていた。男の部屋には異臭が放つほど食べ物の残りかすや埃にまみれていた。そのゴミの山の中に男が描く美しい絵画が埋もれていた。女の周りにはいつも美しい男たちが集まってきて、甘い言葉や贈り物を届けて、美しい女を喜ばせ

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葉桜の頃

葉桜の頃

届いた手紙に添えられた一枚の桜の葉には、真ん中や端に、小さな虫食いの跡が数ヶ所ありました。初めどういうつもりでこの桜の葉が届けられたのか図りかねましたが、額に入れて飾ってみると、ちゃんとした一枚の絵のようでした。虫食いの跡に情緒を感じ、あなたらしいセンスだと感じました。

あなたは自宅の本を図書館のように分類して整理整頓していると手紙に書いてありました。一つでも違う場所にあると気が狂いそうになると

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風雨を凌ぐ

風雨を凌ぐ

乱れた髪を直してベッドから起き上がる。薄暗い部屋に散乱した服に光が差し込んでいる。扇風機は二人のいるスペースとは全く違う方角を向いて、風を送っていた。月曜日の午後、小曽根真のピアノを聴きながら、台風が過ぎ去るのを待った。腐った古木の洞に身を潜めて、風雨を凌いでいる小動物のよう。

くだらないジョークも、台風の進路も、共通の知人の話題も、古いキャベツをざく切りにして作ったsoup。いろいろなスパイス

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敗者復活戦

敗者復活戦

いつでも敗者復活戦が本番で、ギリギリの闘いから、何かを学び、失うものは何もないと気づかされて、這い上がろうとしている毎日。

引き合う力

引き合う力

私たちは分かり合う必要はないのかもしれない。満ちた潮は引き、引いた潮は満ちる。引き合う力は釣り合いの取れないモビール。大小様々な飾りをつけて、バランスを取る。乱れた虚空に張り付いた月。ぜんまい仕かけで動いていることすら知らない。私はあなたの存在に救われています。意識の果てに鍵をかけて、遠い宙を見つめるように見つめている。大きな力は小さな炎を守る為に必要で、小さな力の宿る者に世界の広がりが展開してい

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道裏

道裏

あなたのことを虐める人がいれば僕がその人を呪ってあげる。深い闇にひきずり込むような恐ろしい目に合わせてあげましょう。そうすることによって僕も一緒に深い闇に入り込むことになっても、あなたのことを守れるなら本望です。あなたがそのことに関して不幸に思うことはありません。あなたの目を見張るような美しさに寄り添えるだけで、幸せです。僕はもう汚れてしまった人間。あなたの悲しみをできるだけ遠くの方へ持ち去ってゆ

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ジグソーパズル

ジグソーパズル

ジグソーパズルをしていると、何か人生めいたものを感じてしまう。一辺が真っ直ぐな端っこのものや二辺が真っ直ぐな角のものは特別な選ばれた人。メインの絵や写真が描かれているような華々しいピースもあれば、空の一部や景色の一部で、一色で塗られたピースなどもある。最初は分かりやすい部分から形作られて、分からない部分は最後まで残る。でも、そのピースもないとジグソーパズルは完成しない。どれも似たような形なのに隣合

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閑話休題

閑話休題

食卓のテーブルに飾っているケイトウの花から種が溢れ落ちていた。小さな種。拾って翌年種蒔きをすると、立派な芽が出て、花咲かせてくれるだろうこと思うと、わくわくした。

妻が花瓶に活けてくれているタカサゴユリも、花期が終わると、雌蕊だけ残って、花弁、雄蕊、全て振り落とし脱ぎ捨てるところがなんとも面白く、世の中の男性の末路を見ているようで、私自身に準えてみても、決して笑えない姿である。

二人で楽しく、

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もやもや

もやもや

頭の中がもやもやする時には絵を描くようにしています。夢中で描いていると、頭の中がスッキリします。言葉にならない想いが言葉になり、整理出来なかった言葉が整頓されます。上手ではなくていいんだと思います。形に捉われず、夢中で描けたら。

夏の終わり

夏の終わり

夏が終わりつつあります。それは私の夏の終わりでもあります。気温、湿度、気圧、天気に心身がめちゃくちゃにされましたが、激しい恋に似て、去っていく寂しさに身を焦がしています。確実にフェイドアウトしていく夏は、私を振り回し続けたにも関わらず、たくさんの思い出と日焼けした素肌の痕だけを残して、いつまでも愛され続ける、ずるい奴なのです。