【国語】一文一文をじっくり読み解く『しゅくだいさかあがり』

『しゅくだいさかあがり』をゆっくりじっくり読んだらとてもいい授業になりました。すばらしい本です。文章も話も良い。

ご家庭でも、塾や学校の先生にもぜひ扱ってみてほしいです。

くらくなった公園には、もうだれもいない。ぼくは大きく息をすいこんだ。

「これは、ある物語の一番最初の部分です。ここだけを読んで、わかることや、こうなんじゃないかなと想像できることを、どんどん言ってみてください。正解することが目的ではありません。想像することを楽しんでください」

学年や人にもよりますが、最初はなかなか発言ができないかもしれません。じっくり時間を取って、ねばり強く引き出してください。

うちの娘(小2)は、最初、
「夜の公園にいる」
と言いました。たとえそれだけであっても、
「いいね。だよね、くらくなった、もう夜になってる公園にいるよね。そうそう、その調子でいろいろ言ってみて」
と褒めて励まします。がんばって場を温めます。
「一人でいる」
「そうだね、もうだれもいないって言ってるんだから、一人だってことだよね。いいよいいよ」

だんだんと、はっきり分かることだけでなく、「たぶんこうなんじゃないかな」という予想が出るように誘導します。
「もう、だれもいない、って言ってるってことは」
「さっきまでは友達といた」
「っぽいよね!」
このときはものすごく褒めました。とにかく褒めます。
「何してたんだろうね」
「なんで今は一人なんだろうね」
「大きく息をすいこんで、何をしようとしてるんだろうね」 
問いかけて引き出しつつ、次の段階に進みます。

「ここで一度、この文章から離れて、人が大きく息を吸い込むときってどんなとき?」

  • 歌うとき

  • ラジオ体操の深呼吸

  • あくび

  • 寒いとき

  • 泳ぐとき

  • 緊張しているとき

  • 運動会で走るとき

  • ロウソクを吹き消すとき

たくさん出れば出るだけありがたいですが、いちばんほしいのは「緊張しているとき」や「気合いを入れるとき」などですね。出なければヒントを出します。今回は、
「あくびって、脳みそががんばって働いてて酸素をほしがってるから出るらしいよ。授業中にあくびして怒られちゃったら、いえいえ先生がんばって頭を使って考えてるから出るんですよ、って言ってもいいよ」
などと冗談もいいつつ、
「集中するためには脳に酸素が必要だから、何かがんばろうとしているときや、やるぞって思ってるときにも大きく息を吸うよね」
とつなげて、一生懸命がんばろうとしている場面を想像してもらいました。

「じゃあもう一度この話に戻って、くらくなるまで公園で何をしていたんだろうね。何をしようとしてるんだろうね。こういう経験ある?勝手な想像でいいので、何か予想してみて」

ここで娘は、
「大きな滑り台を滑ろうとしている」
と言いました。
ベタ褒めしました。

娘の言う大きな滑り台というのは、

八ッ場林ふるさと公園

これのことです。上に立ってみると分かりますが、ほぼ垂直に落ちるのでけっこう怖いです。娘はまだ滑れません。
「滑り台が怖くて滑れないけど、がんばって滑りたいって思ってて、あーでも怖いようってまごまごしているうちにみんないなくなっちゃって、しかも暗くなっちゃって、よーし今度こそって息を吸い込んで、気合いを入れて滑ろうとしているところ、ってことね!めっちゃいいじゃん!ほんとにそうかもしれないねこれは!すごい!いいね、経験が活きてる」
と褒め讃えました。うれしかったのか、娘の目頭が赤くなっていました。この日の娘はここでスイッチが入り、このあとの授業をとても楽しんでいました。

それからもうひとつ、
「なわとびの、二重跳びの練習をしてて、友達はみんなできるのに自分だけできなくて、遅くまで一人で練習してる」
とかなり具体的な想像をしてくれました。これは本当にすごいです。あまりの感動に泣きそうになりました。褒めちぎりタイム再びです。
「もう、それなんじゃないかな。これからそういう話が始まるんじゃないかな。ってくらい完璧だね」

そして、次に進む前に「ぼくの気持ち」に注目してもらいます。

「今、滑り台となわとびと、二つ想像してくれたけど、どちらともに共通していることがあって、わかるかな、あまり明るい気持ちではないよね。できなくて悔しくて、なんとかできるようになりたいんだけど、っていう感じ。つまり、今から明るく元気に歌を歌いますっていう雰囲気ではない、と感じ取った、ということなんだけど、これも実はすごいことです。ちゃんと感じ取れている。この文章は確かにそういうふうに書かれています。くらくなったとか、もうだれもいないって言い方は、ちょっと後ろ向きというか、暗い雰囲気だよね。これは、人物の気持ちに合わせてあえてそういうふうに描かれています。物語はそういうふうに書かれます」

さり気なく褒めながら情景について学びます。

そして、次のことをしっかり強調します。

「たったこれだけの、たった二文の文章から、これだけのことがわかる。これだけのことが想像できる。こんなにも伝わる。これはすごいことだね」

それから次の一文に続きます。

ふくらませたむねに、あせでぬれたTシャツがはりついた。

「ここからわかることは?」

  • たくさん運動してた

  • 夏っぽい

  • 夏だとしたら、かなり遅くまでやっている(日が暮れるのが夏は遅いから)

だんだんとわくわくしてきます。
「運動しているということは、滑り台ではないっぽいけど、ほんとになわとびの練習をしてるのかもしれないね!」

次でいよいよ核心に触れます。

「次でいよいよ何をしてるかわかっちゃうんだけど、どうする?当てたい?実は、なわとびではないんだけど、なわとびじゃないってこと以外は全部そのとおりです。何かを、友達はできるのに自分はできなくて、それで一生懸命練習しています。なんだと思う?」

「…てつぼう?」
「おおー!やったー!正解!」

うっすらと見える目の前のてつぼうを、ゆっくりとにぎりしめた。

手のひらが、じんじんしていたかった。この四日間、数えきれないほどにぎったてつぼうだった。

「なんでこんなに、四日間も、手がいたくなるまでてつぼうの練習をしてるんだろうね。くらくなるまで、一人で」

と、ヒキを挟みつつ、続きを途中までまとめて読んでもらいます。

本文をワードで入力して、部分的に印刷して授業に使いました。あえて挿し絵なしで読ませたかったので。

ぼくは、ふざけるように気をつけをして、右手をななめ前にあげた。
それから、ゆっくりとしんこきゅうをして、空にむかってさけんだ。

少し長いですが、時間を取ってここまで一気に読んでもらいます。

感想を聞くと「おもしろい」と言ってくれたので、
「どういうところがおもしろかった?説明できそう?ここがよかったとか好きだったとか、何かある?」
と聞くと、ここがよかった、と挙げてくれました。

すべりだいがあった。
ぶらんこがあった。
うんていもジャングルジムもあった。
そして、てつぼうも。
その中で、ぼくにはてつぼうだけが、ぽつんとさびしそうに見えた。

これは、図らずもいちばん触れてほしいところに触れてくれました。どういう答えでどういう流れになったとしても、ここで言いたかったことは以下の二つです。

  1. この文章は繰り返しの表現がとても上手で印象的。たくさんあるので探してみよう!

  2. たとえ(比喩)も探してみよう!

私が神奈川のHi-STEPで働いていたとき、研修でもよく言われたことですが、国語の授業でもっとも大事にしていたのがこの「探す」という作業です。見つける喜びが考える楽しさにつながります。

繰り返しと比喩の表現を探しながら、人物の気持ちを効果的に描かれていることを確認して味わってもらいます。

ぼくは、ふざけるように気をつけをして、右手をななめ前にあげた。

そして最後に、こう書いてあるポーズを実際に取って、
「なんて叫んだんだろうね」
と予想してもらって、いっしょに叫びました。

「じゃあ、続きを実際に読んでみてください」

そのあとすぐに、かなり楽しんで読んでいました。

かなり有意義な読書体験になったはずです。

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