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天才作曲家から学ぶ創作のコツ(某レコード会社GM/作曲家・硯川俊二さんの事例)

「音が、極彩色のような感じで、頭の中に浮かぶんだよ」
高校時代の友人、硯川俊二さんの言葉だ。
絶対音感を持ち、学生時代につくった楽曲が、いくつもの音楽コンテストでグランプリを受賞。
プロのミュージシャンとしての道が開けていたが、大学卒業後は、大手レコード会社に就職。
現在はレコード会社で仕事をしながら、自身の楽曲を演奏するバンドでプロデュースも手掛けている。
 
作曲活動を本格的に行っていたのは、15~25歳ごろとのこと。
今回のインタビューテーマは「クリエイティブな力の高め方」
主に作曲活動を行っていた当時のことを振り返り、「作品を生み出すプロセス」や「クリエイティブ力を磨くための心がけ」について、貴重なお話をいただいた。

◎頭の中で音が鳴る

「頭の中で音が鳴る。それは単音ではなく、いくつもの音が和音となって響いている」
それが硯川俊二さんの日常なのだという。
実は現在も、そのようなことがよく起こる。
感動する出来事に出会うと、インスピレーションが湧きあがる。
そして自身の中に、多様な音が響きだす。
作曲をする際も、同じ状態になるそうだ。
大学4年生の時、硯川さんは日本最大級の楽曲オーディション「AXIA MUSIC AUDITION」で、日本一となる「一万人審査賞」を獲得した。
応募総数は約8000作。
プロアマ不問の中での頂点だ。
前年の同賞は槇原敬之さん。
槇原さんはこの受賞によって、メジャーデビューにつながった。
硯川さんが獲得した一万人審査賞の楽曲のタイトルは「SECRET SEASON」。
この時の作曲の様子を、彼は次のように語る。

◎硯川俊二さんの曲づくり・楽譜づくり

さっきも言ったように、頭の中で同時に音が鳴るのね。
ボーカルが歌うメインの旋律。
ギターの音、ベース、キーボード。
それらが一度に頭の中に浮かぶわけ。
頭に浮かんだ曲を再現するには、演奏をしないといけないよね。
僕の頭の中に浮かんだものを、他のメンバーが楽器を使って、音を出さないといけない。
誰にどんな音を出してほしいのか、それを共有するため、楽譜をつくる。
楽器ごとに振り分けて、音を音符に落とし込んでいく。
多くの作曲家は、ギターとかピアノとか、楽器を持って作曲すると思うんだ。
コードを弾きながら、出た音を耳で確認しながら、曲をつくっていく。
でも僕はそれをしない。
面倒だから。
頭の中で鳴り響いた音を、そのまま楽譜に落とし込んでいく。
ペンを持って、紙に書いていく。
ギター、キーボード、ベース、ボーカルと、それぞれのパートごとにね。
頭の中で鳴る音を取り出して、それをそのまま再現できれば楽だけど、できないんだよね。
メロディを口ずさみながらの再現もできない。
頭に浮かぶのが、単音じゃないから。
いろんな楽器の音が同時に鳴り響くから。
だからしかたなく、楽譜をつくる。譜面を起こす。
面倒だけど、そうしないとメンバーが演奏できないし、曲をこの世界に生み出すことはできないからね。
 
「SECRET SEASON」の楽譜も、そのようにして生まれたものだ。
そして下の写真が、その楽譜になる。(驚愕!)

◎作曲の4つのファクター

今までになかった音楽を、世の中に生み出す「作曲」という行為。
1つの作品を完成させるまでに、硯川俊二さんの中にどんなことが起こっているのか、インタビューを行いながら、言語化を試みてもらった。
硯川さん曰く、「作曲には4つのファクターがある」という。
それを1つひとつ解説していきたい。

(1)感受

まず大切なのは、「感受」であるという。
人は感動したり、じーんときたりすると、心が大きく動く。
涙が出ることもある。
この心が動く状態が「感受」になる。
例えば、感動的な映画を見たり、印象的な音楽を聴いたりする。
すると心が動き、何らかのインスピレーションが湧くことがある。
そのインスピレーションを得ることが、作品づくりの最初の一歩になるし、土台になる。
そしてこの土台を生み出す源が、「感受」になると硯川さんは話す。
感受の力を養い、感動できる自分であること。
素敵な情報に触れた時、心が動く自分であること。
そしてインスピレーションを得ること。
ここからスタートしないと、曲は面白いものにならない。
自分が感動できないものに、人は感動しないからねと硯川さんは言う。

(2)冒険・交信

自分の中にインスピレーションが生まれたら、人をイメージしながら「交信」をする。
音楽は、〝独りよがり〟ではいけない。
聴いてくれる人が、喜んでくれること。感動してくれること。
それが何よりも大切になる。
そのため、インスピレーションが生まれたら、「これは、聞いてくれる相手のハートに刺さるものだろうか」と、人をイメージしながら確認をする。
頭の中に思い描く、他者の姿。
または他者の内面や感受性のようなもの。
そこに、自分の中に生まれた曲のテーマのようなものを投げかけてみる。
想像の中で、キャッチボールを行ってみる。
どんな反応になるだろう。
どんな感想を持たれるだろうか。
自分の脳内でシミュレーションを行い、「一人壁打ち」のような形で検証を行っていく。
それが硯川さんの言う「冒険・交信」というプロセスになる。
自分の中に浮かんだインスピレーションを、他者を意識しながら確認をする。
そこには、「インスピレーションを冒険の旅に出す」ような感覚があるという。
一度、外に出す感じ。
宙に放り投げる感じ。
それが「冒険」という言葉に集約されている。
ちなみに硯川さんは、スピリチュアル的なものには全く関心がない。
「交信」という言葉には、少しあやしさを感じるかもしれないが、霊のようなものに関心はなく、瞑想もしない。

(3)破壊

創作のプロセスには、破壊の要素が必要だと硯川さんは話す。
特にオリジナリティを出そうと思ったら、既存の形を壊すこと。
これをしないと、「模倣」になってしまうのだという。
人はどうしても、「既存の型」のようなものを自分の中に記憶として持っている。
自分がつくりたい曲がある場合、その曲の中に、模倣につながる要素がないかを探すこと。確認をすること。
もし見つけたら、それを壊すこと。
このプロセスを経ることで、自分ならではの作品づくりに、自信を持って臨めるのだという。
音楽を聴く、テレビを見る、ゲームをする。
それらはすべて消費的な行為になる。
消費するだけなら、破壊はいらない。
でも、生み出すなら、つまり生産者になるのなら、やっぱり破壊はいるよね。生産者は破壊者でもあるから、と硯川俊二さんは語る。

(4)組み立て

作品を創作するには、最後に「組み立て」のプロセスがいる。
持っている材料を、1つの作品として組み上げ、仕上げる作業が必要になる。
この組み立てのところには、ある程度技術がいるし、経験もいる。
曲づくりには、基本となるセオリーのようなものがいくつかある。
そのようなものを理解した上で行う作業となる。
何事もそうだが、いきなり大きな作品をつくることは難しい。
だからまずは、小さな作品を組み立てること。
小さく形にした経験を自分の中に積み上げていくこと。
組み立ての作業には、そんな心がけも必要になる。

以上が、硯川俊二さんからうかがった「作曲の際の4つのファクター」になる。
これは、硯川さんが自らの経験を通して得た、個人的なノウハウになる。
皆が同じように実践できるとは思えないが、発想や創作のヒントになる知恵が多く散りばめられているようにと思う。

硯川さんへのインタビューの最後に、「簡単に実践できるお勧めワーク」について、話をうかがった。
〝今までになかったもの〟を生み出すクリエイティブの力。
その力を養うには、インプットとアウトプットの2つの力が大切になる。
硯川さんが考える、インプット力とアウトプット力を高めるお勧めワーク。
以下、本人の言葉を借りながらご紹介したい。

①インプット力を高めるワーク:「日常生活で、五感を強く意識してみる」

「感受」のところでもお伝えしたけど、創作の土台は、「感動」だと思う。
自分が感動できないものに、人は感動しない。
感動のためには、感受性が大切になる。
それは、「情報を受け取る感度」のようなものでもある。
クリエイティブの力を高めるには、この感度の力を養うことが大切。
具体的には、「五感の感度を高める意識づけ」が効果的だと思う。
人には、目、耳、鼻など、感覚を受け取る5つの器官がある。
そして五つの感覚がある。
それを意識しながら、時間を過ごしてみること。
例えば、散歩をしている時に、空を見上げてみる。
目に入った景色の中に、心動くものがないかを探してみる。
そのようなものに注意深く意識を向けてみる。
また、聞こえてきた音に耳を澄ませてみる。
実は人の耳には常に、たくさんの音が届いている。
それが聞こえるかどうかは、人の意識しだい。
いろんな音に意識を向け、気にとめてみること。
気にとめるクセを持つようにしてみること。
そういう日常のちょっとした訓練で、人の感受力は高められると思う。

②アウトプットを高めるワーク:「自分ごととして考えてみる練習」

何か気になる情報に触れた時、「自分だったら」を考えてみる。
「自分としてはこう感じている」
「自分としてはこう考えてみた」など。
身近なところからでよいので、「自分だったらどうするのか」をできるだけ意識をしてみるとよい。
食事の味付け。
SNSで見かけた言葉など。
ちょっとしたことでよいので、「自分だったら」を考える。
そんな時間を重ねることで、自分独自の感性が研がれ、創造性を高めることに役立つと思う。
ちなみに「自分だったら」を考える際、人と対話をすることも有効な手法だ。
映画を見た後、感想を述べあう。
ある楽曲に対して、人と意見を伝えあってみるなど。
大切なのは、作品に対するレッテルのようなものを意識せず、自分の素直な感覚を大切にすることだ。
このような取り組みが、オリジナリティのあるアウトプットづくりの練習につながると思う。

以上、「クリエイティブな力の高め方」をテーマにした、硯川俊二さんへのインタビュー内容をご紹介しました。
硯川さんにはお忙しい中お時間をちょうだいし、貴重なお話をいただきました。
この場をお借りして、心よりのお礼の言葉を申し上げます。
本当にありがとうございました!

◎「AXIA MUSIC AUDITION」の審査結果
◎硯川俊二さんに書いていただいた「作曲の4つのファクター図」

◎硯川俊二さんの演奏の様子(動画)


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