見出し画像

「はじめて考えるときのように 「わかる」ための哲学的道案内」(文 野矢茂樹 絵 植田真)

※Amazon のアソシエイトとして、この記事は適格販売により収入を得ています。


著者の野矢茂樹さんの本は、何冊か読んだことがあり、わりと好きです。


どんなところがいいのか。

まず、奇をてらった表現や目からウロコな真実、ドラマチックな展開があるかというと、あまりそういうことは、書いていないような気がします。

結論は、ある意味あたりまえというか、まあそうですよねと思うことのほうが多いかも知れません。

難しい言葉を使っているかというと、論文とか他の著作はもしかしたら難しいのかもしれませんが、少なくともこの本では難しい言葉や表現はありません。

難しい言葉を使わずに、最後まで破綻せずに書いていくというのは実は至難の業だと思います。
特に、問いが「考えることとはなにか」という根源的なものであれば、よけいそうです。

また、仮に、そのような文章を書いたとしても、奇をてらった表現や目からウロコな真実、ドラマチックな展開を入れていかなければ、普通は、特に面白みのない退屈な文章になってしまいそうです。

しかし、著者の本は、そのような要素があまりないにもかかわらず、最後まですらすらと楽しみながら読むことができます。
読みながら、順番に一つ一つしこりが解きほぐされていくようなすがすがしさがあります。

おそらく、著者が論理学の専門家でもあることも関係しているのかも知れません。

あまり数学のことはわかりませんが、スゴい綺麗な数式を見せられているような感じです(答えがあっていてもぐちゃぐちゃな数式はつらいです)。

奇をてらっていなくても面白く読めるのは、簡単そうに見えて、論理的で無駄がないからかもしれません。

あたりまえのことをあたりまえに書いていたとしても、論理的で無駄がなければ、楽しく読み進むことができ、美しさすら感じる
ある意味、言葉のまたは国語の真骨頂かもしれません。

このあたりが、著者の本の特徴ではないかと思います。

              *

「はじめて考えるときのように」というタイトルは、ちょっと詩的な感じがします。

「はじめて考えるときのように」と想像すると、おそらく自分が子どもの頃のことを想像するのではないでしょうか。

本書は、先入観を排除し、当たり前に思えることを当たり前に(いや「実は当たり前ではないのかもしれない」ということも含めて)書いているようにみえる文章なのに、美しさすら感じさせる著者の真骨頂が発揮されている本だと思います。

その真骨頂を最大限に味わうために、子どもの頃の状態を想像できる「はじめて考えるときのように」というタイトルはこれ以上ない秀逸なタイトルといえます。

そして、挿入されている絵も「はじめて考えるときのように」読んで見ると、二重でうまみを味わうことができます。 

すてきな本だと思います。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?