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第9話 ビンテージデニムの男

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当時の、日本のベンチャーキャピタル(VC)業界は、昨今の姿に比べれば、少し滑稽な状況だったのかもしれません。

普通に考えれば、VCも金融サービスなので、行動原理はおおかた同じ。であるはずなのですが、まだ業界が勃興期で経験不足だったということもあったのでしょう、誰もかれもが外資ファンドのように手仕舞い。または、賢く引き締めをした訳ではありませんでした。

実際には、投資といいつつ、融資のような感覚(と、手法)で業務にあたられていた、オールドスクール派のVCも多かったですし。ニュースクール派であっても、経験不足だったり、投資枠の未実行分が多くて、スパッとスタンスを切り替えられていないVCも多かったと思います。

再掲します。

タイプA 祭りの終わりを察し、さっと引き揚げる人
タイプB 祭りが終わっても、片付けに時間がかかる人
タイプC 祭りが終わったことに、気づかない人

つまり、このBタイプのプレイヤーが、まだまだ生息していた時期だったのです。

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表参道、骨董通り。

六本木ヒルズもミッドタウンも、まだ産まれていなかった当時、洗練された大人が買い物をしたり、お茶をしたり、骨董品を愛でたりする、特別なエリアだったと思います。

ちなみに、僕は大学生時代、このエリアの、今から40年以上前から続く、フレンチスタイルの喫茶店 Cafe les Jeux Grnieで、アルバイトをしていたことがありました。

クリエイター、ファッション関係者、芸能関係者などが、お客様に多かったと思います。愛知県の片田舎から飛び出してきた僕にとっての、まさに憧れ。東京で一番好きな場所でした。まぁ、今でもそうかもしれません。

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資金調達に飛び回る、我らがプロトレード社。

創業メンバーの佐藤さんと僕は、とある方の紹介で、この骨董通りのど真ん中。一階にはウェディング関係の素敵なお店が入った、綺麗な低層ビルの4Fを訪ねました。

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オフィスは開放的で、黄色やオレンジをふんだんに使ったインテリア。広いバルコニーには、いい感じのクッションとかベンチが置いてあったと記憶しています。イケイケ西海岸なバイブスで、当時のVCのオフィスとしては異彩を放っていました。

僕らがお会いしたのは、ビンテージ風デニムを履きこなし、眉毛の手入れが特徴的な、アイシーピー社の穐田さんでした。


バブルが弾けて以降、厳しいバリュエーションを提示されたり、儲ける力の弱さを指摘されたりと、随分と逆風を浴びていた頃の僕らだったので、内心ではあまり期待をしていませんでしたが、穐田さんから意外な対応が返ってきます。

会話を強引にサマリーすると、こんな風でした。

最高じゃねーか。
ユー、やっちゃいなよ。


僕自身は、当時すでに自信を失いかけていたということもあり、ちょっとこのノリには、ついていけなかったのですが、うちの佐藤女史は、長身イケメンに弱いという特徴がありまして、まんざらでもなさそうでした。


条件は、八千万円ほどの資金提供で、企業評価額も結構良かったと思います。ノリも、提示内容も、バブル崩壊前のそれでした。どうしてあんなにイケイケでいられたのか、謎に思ったものです。

ただし、出資条件はアイシーピーが積極的に経営に参画すること。役員の椅子を一つ用意することでした。

しかし、これをNetAgeの西川さんがあまりよしとしなかったこと。また、「あそこはヒカリ系」という風評があったこともあり、本件はあっさりと流れることになります。


いま振り返って調べてみると、アイシーピーの1号ファンド設立は99年の11月。ネット系サービスに特化するファンドとして立ち上がっていました。バブル崩壊直前の設立でした。

これぞ、まさにサンクコストということなのでしょう。風が変わったことを感じつつも、引くに引けず、ネットベンチャーへの投資のアクセルを踏み続けていたのではないでしょうか。

ちなみにその後 2-3年、アイシーピーさんの話は、たまに風の噂で聞くくらいでした。やはり、ヒカリ系という風評被害があったようで、苦戦されていたと聞いていました。


ただし、穐田さん個人は2003年に、カカクコムの社長としてマザーズに上場。それからクックパッドの急成長、素敵な方との結婚と、経営者として大成功をされることになります。

やはり、風評がどうであれ、デニムがどうであれ、景気の逆風があっても、アクセルを踏んで張り続けた人が、結局は強いし、そういう方に、神様は力を貸すのでしょう。

僕もそういう、グリットとか、レジリエンス的な人生訓は、当時からよく聞いていましたし、本なども読んで、知識としてはあったのですが、自分に知恵として落とし込むことは出来ていませんでした。

この辺りから僕は、やりきる。というよりも、うまく風呂敷を畳むにはどうしたらいいか。そんなことを考えはじめていたのでした。

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