『フレンチアルプスで起きたこと』【映画は観たけれど】
夫の定時は22時のはずだが残業があるそうで、帰宅時間が23時をまわっている。
わたしも寂しくならないように週に2~3回はそのあたりまで仕事しているので、0時前から夕食もとい夜食をとりはじめる。最適なバラエティ番組や動画をザッピングしても、疲労と食事と刺激的な笑いをなかなか難しい。そんなある日沖田修一監督の『南極料理人』を見はじめたら結局最後まで見てしまう出来事があった。(そして観た人はわかると思うけど、無性にラーメンが食べたくなる。)すでに5回は観てる。やっぱり沖田さん映画は素晴らしいだとネットサーフィンしていると『フレンチアルプスで起きたこと』を紹介していた。
前置きが少々長くなってしまったが、ともかく沖田監督がおすすめしていた映画なのでさっそく見ることにした。夫と爆笑していた。とくに夫は「居心地悪そうにするおじさん」の笑いに弱い。
「フレンチアルプスで起きたこと」母と父の愛と、それぞれの愛と
家族4人でのスキー旅行で起きた雪崩。全員無事だったが父親だけが逃げていた。家族間における父親の絶妙な立ち位置が描かれる。まさしく喜劇である。
かつて家族旅行で、ディズニーランドへいった。小学校2年生くらいの頃か、スプラッシュマウンテンで一気に滝を下るとき、写真が撮られる仕組みだった。落ちる瞬間の表情が激写されて、出口で1枚1000円で販売される商法だ。購入した写真を見るたびに母は「すっごい顔、レバーを握りしめて自分のことしかみてないのね」とよくわからない家族愛マウンティングをとっていた。実際に父に浮かんでいた表情は今にも「しぬわああ!」っていう絶望でそれどころじゃなかったろうし、父は自分のことを話題にされると、おもろくてたまらないって笑い方をする人だったので、そのときも息もできないかんじで笑ってた。
我が家の家族写真は、そういうあちこちの観光地で撮られた写真のほうがよく見返した気がする。
映画でスキーに訪れた家族も同じ手口で家族写真を撮られるシーンがあった。家族全員仲良くやってはいたけど、ピースして、肩くんでよりそって、みたいな演出に従わざるを得ないかんじで、雪山をバッグに何ショットも撮られる。どの写真を購入するか選ぶのは母の役目だ。
家族同士、感情の発露の仕方と立ち位置のうまさが随所に表現されていて、夫婦ゲンカかと思えば子どもの不機嫌に突入するし、父の涙を子が慰めることもある。母のイラつきに父も子も敏感だ。妻としての必死さは誰に向けたものだろうか。家族は組織の最小単位でしかないとわかる。
ラスト少し前、家族一同で雪山を滑り降りようとするときに、妻にトラブルが起きる。感動のフィナーレか、と思いきや、妻は、すっくと自力で立ちあがった。混乱のなかから冷静さを取り戻す、いいシーンだった。
男女で見方が変わるとは言わぬが、上の世代が人が書いた感想ブログにはそんな妻を批判する内容もあった。「えっ、その解釈はちがくない?」と声に出したくなったが、いうと長くなりそうだった。
詳細
2014年のスウェーデン・デンマーク・フランス・ノルウェー合作のコメディ映画。監督・脚本はリューベン・オストルンド。雪崩から家族より自分の身を守ることを優先した夫トマスとその妻との関係を描いている。
公開日: 2015年7月4日 (日本)
監督: リューベン・オストルンド 音楽: オラ・フロットゥム 出演:ヨハネス・バー・クンケ、リサ・ロブン・コングスリ、クリストファー・ヒビュー、クララ・ベッテルグレン
(▼)映画『フレンチアルプスで起きたこと』予告編
(▼)【かけがえのない1本】沖田修一(映画監督)オフビートな笑いはお好き?『フレンチアルプスで起きたこと』
ここまでお読みいただきありがとうございました。サポートいただいた分は、映画の制作費や本を買うお金に充てたいと思います。