映画『ラストマイル』感想
最初の感想としては「確かにこれはアンナチュラルもMIUも見たくなるわ」だった。
星野さんの演技は「逃げ恥」とか「11人もいる」みたいなコメディっぽいキャラクターばっかり見ていたし、綾野剛さんの演技も最近見た地面師に引っ張られていたので、2人ともイメージがガラッと違って「役者さんって凄いな〜」って思わされたからだ。
アンナチュラルに関しても、全く粗筋を知らなかったので、解剖医によるミステリータッチの話だと分かったことで、俄然興味が湧いた。
ただ、2作品を本作とクロスオーバーさせる必要性があったかと聞かれれば、全くなかった。だがそれはそれで、この作品から見始めた私のような新規にとってはめちゃくちゃありがたかったし、知ってる人からすればボーナス要素として機能していたのだろうし、素晴らしい遊び心だったと思う。
粗筋は色々なところで書かれているので端折るが、ざっくり言うと、大手通販企業の連続爆破事件を契機に、物流業界や資本主義社会の搾取構造に鋭く問題提起している作品だった。
本作は結局、ストライキによって一件あたりの配達料を上げることに成功して終わる。
とはいえ、結局上がったのは微々たる金額であり、抜本的な改革になったとは到底思えない。
そして、ブラックフライデーの重圧によって植物状態になってしまった山崎のような人間を2度と出さないための、デリファス側の工夫や施策も見えない。
だから、エレナの最後の言葉通り、きっとまだ爆弾は爆発していくのだろう。
ハッピーエンドに見せかけて、そこら辺が強烈に現代社会を皮肉っていると思った。
だから、「社会派な作品だ」みたいな前評判にも納得が行った。
作品のメッセージを自らに落とし込んで考えたとき、自らの給料と、華々しい企業の総売り上げや商品一つの単価などを比べることで、働きながら「搾取」という言葉がチラつく場面なんて、いくらでもあるなと思った。
だから、その2文字が脳裏を過ぎらないくらいのサラリーを稼ぐため、上へ上へと直線的な出世を考えて周りを顧みなくなる、ディーンフジオカのような人間が生まれるのも仕方ないよなぁとは思う。
だが、会社内部で競争したら、所詮どこまで行っても雇われる側でしかない。
作品内で、ディーンフジオカはアメリカ本社によるもっと直接的で強烈な搾取をされており、その様に途轍もない虚無感を感じた。
とはいえ、雇われずに起業すれば搾取の対象にならないのかといえば、そういうわけでもない。
自らの利益と関係各所との思惑を擦り合わせた結果、大手の取引先に搾取されるなんてザラにあるからだ。
つまり、資本主義経済である以上、全員が納得するシステムの構築なんか無理なんだという諦念を感じてしまった。
でも、社会は変わらないからと投げやりになるのは簡単だ。
だから、そこからは、それぞれの良心の問題なんだろうなとも思った。
俺は絶対に忘れない。
忙しいピークの時間帯でも笑顔でトークを広げながらもんじゃを作ってくれたあの店員さんを。
目的地に連れていくだけでいいのに、観光案内までしてくれたお節介で憎めないタクシードライバーを。
怪我した時に、不安な気持ちを宥めるように優しく接してくれたお医者さんや看護師さんを。
目の前の仕事に、プライドを持ちながら真剣に取り組む大人はかっこいい。
だから、サイドストーリーでしかないかもしれないけど、ドライバーさんが昔自ら作った洗濯機を使って、爆弾から一家を守ったシーンに、本当にグッときてしまった。
自分はたとえ搾取の中にいたとしても、この運転手のように生きていたい。
綺麗事だとしても、誇りを持てるような仕事をしていたいと思った。
だからこそ、仕事に真剣に向き合いすぎたせいでシステムに取り込まれ、精神を壊してしまう、中村倫也みたいな人が存在することが、とてもやるせない。
そういう人に、きちんと対価や救済措置が用意されるような社会であって欲しい。
世の中、訳分からん仕事で儲けてる奴が多すぎる気がする。
それが押し並べて悪だとは思わないし、社会の搾取構造を理解した上で、そういう仕事に就くのが賢いのも知ってるし、所謂「勝ち組」なのだろうとは思う。
だけど、不条理でやるせない気持ちになる。
この映画を見ながら、劣悪な環境や給料が見合っていない業界の現状を嘆いていた看護師の友達とか、介護士の親とか、保育士の先輩の顔が思い浮かんだ。
この映画で、社会のシステム全体を変えることはできなかった。それを簡単に皮肉だと終わらせることもできるけど、「少しずつなら変えられる」という希望的なメッセージにも読み取れるのではないかとも思った。
具体的に何ができるわけではないので所詮戯言でしかないのだが、社会に必要不可欠な仕事に、もっと正当な対価が行き渡ってほしいなぁ、と強く思った。
とりあえずMIU404とアンナチュラルをみようと思った。