6.キャラ立ち過ぎ冒険小説〜ジュール・ヴェルヌ作鈴木啓二訳『八十日間世界一周』感想書評〜
今度友達とTRPG「冒険都市Z」をするにあたり、「ベルヌ大好きな探検家」という設定でキャラメイクをしてしまったので、参考のために読んでみた。
爆裂に面白い。
ベルヌを読むのは小学生以来だが、ストーリーのテンポが良く、展開もよく練られていて飽きず、何よりキャラクターが魅力的で、「ほんとに150年前の小説?」となる。
【主要キャラクター】
・フォッグ
ロンドン在住の英国紳士。賭けのために80日で世界を一周する。経歴不明。感情の起伏が無く常に落ち着いているが、ときどき奇想天外な発想で旅を進める。全てのトラブルを札束でぶん殴って解決する。
・パスパルトゥー
フォッグが世界一周に出るその日に雇われた召使。運動神経の塊でめちゃくちゃ良い人。どんどんご主人様大好きになる大型犬。フランス人。横浜で物理的に天狗になった。出発の日にガス灯を消し忘れたため、早く帰らないと破産する。
・アウダ夫人
インド横断中にフォッグたちが命を救った美女。インドに残るとまた命が危ないので、彼らと旅をすることになる。いざとなれば銃撃戦も出来るパワフルレディ。
・フィックス刑事
フォッグのことを手配中の銀行強盗だと思って逮捕を狙うが、逮捕状が届かないので出来ませ〜ん!→とりあえず尾行だ!→結局途中から世界一周を共にすることになる。作中唯一フォッグからダブルパンチを貰う。
今アニメ化しても遜色ないキャラ設定の濃さだが、中でもフォッグとパスパルトゥーの主従関係の変化が好きだ。主人の旅を疑っていたパスパルトゥーは、やがて彼のことを敬愛するようになる。フォッグもまた、一召使としての彼を、危険を賭して助けようとする。
その関係性の象徴なのがアメリカ横断鉄道がスー族に襲われた一連だろう。パスパルトゥーが命がけで連結部を外し、一行は危機を逃れるが彼はスー族に捕虜にされてしまう。フォッグには彼を助けにいく時間的猶予は無い……にも関わらず、彼は
これには僕もアウダ夫人と共に「ああ、ムッシュー」と言う他なかった。香港の時は大使館に金を預けただけだったのに。
鈴木啓二先生の訳文が良いためだろう、めちゃくちゃ読みやすく、シーンがすいすい頭に思い浮かぶ。日本のエキゾチックな描写も魅力的だ。
いまは気軽に世界の風景をスマホで見ることはできるが、世界を次々と言葉で味わうという体験はなかなか出来ない。不思議なことに、映像で見るよりも感覚に訴える力がある。「◯◯カ国巡る!」みたいなチャレンジをしたい人はぜひ読んでほしい。YouTubeのショート動画は5年後見られるかわからないが、文字にすると150年は残る。
とにかくワクワクが止まらない小説なので「あのシーンよかったよな!」「あそこ面白いよな!」とまるでアクション映画を観た後のように語ってしまいたくなる。以下、好きなシーンを羅列して終わる。
アウダ夫人を助けるシーン。パスパルトゥーが味方含めて出し抜くところ。喝采が聞こえてきそうで嬉しい。フォッグが褒めるのも好き。
裁判所でパスパルトゥーの靴が証拠品として提出されるところ。「僕の靴だ!」と叫んでしまう迂闊さ、かわいい。
上海発横浜行きの船にあわや間に合わないというところ、半旗を掲げて大砲を撃つフォッグの発想が常人離れしてて好き。ここの訳文作るの楽しいだろうな〜。
横浜で(物理的に)天狗になったパスパルトゥーが客席のフォッグと合流するところ。そこまでのフォッグ側の描写を省いていた演出がオシャレすぎる。策士ベルヌ。
「実はあと1日あった!」のネタバラシが天才的すぎる。しかもこれには「パスパルトゥーが牧師の元へ行く」必要があり、それには「アウダとフォッグが婚約する」必要があり、それには「アウダを救出する」必要がある。伏線回収が巧み。そしてアウダを助けたのはパスパルトゥーです。
結論