太りやすい食事法とは?その①:タラフマラ族の食事実験
世界における肥満の割合は、年々増加しています。2035年までに世界人口の51%が過体重または肥満になると予測されています。
日本では、BMI25以上の肥満の人の割合は男性で33%、女性で22.3%であり、この十年間では男性において肥満の割合が増加しています。[1]
参考1 平成16年 国民健康・栄養調査より
参考2 令和4年 国民健康・栄養調査より
今回から3回に分けて、ある実験研究を紹介します。
そこからは太りやすい要因が見えてきます。
メキシコのタラフマラ族の実験研究
タラフマラ族は、メキシコ北西部のチワワ州に住む先住民族です。
西シエラ・マドレ山脈に、2006年時点で5万人〜7万人いるといわれています。
そんなタラフマラ族は、民族的に冠動脈性の心臓病の発生率が非常に低いことでも知られています。
そして、走る民族としても有名になったようです。
実験[2]では、13人のタラフマラ族(女性5人:BMI平均21.3と男性8人:BMI平均21.8)に、
初めに1週間タラフマラ族の伝統的な食事(1日あたり2,700kcal)を摂取させた後、
典型的な現代食(1日あたり4,100kcal)を5週間摂取させました。
その結果、総コレステロールが31%、LDLコレステロールが39%、HDLコレステロールが31%とそれぞれ増加しました。
なおかつ、血中の中性脂肪が18%、体重が男女平均で3.8kg増加しました。
伝統的な食事と典型的な現代食とを比べてみましょう。
実験での食事の違いは?
伝統的なタラフマラ族(Tarahumara diet食:以下T食)の食事の3大栄養素の%は、
タンパク質15%:脂質20%:糖質65%でした。
主食は豆やとうもろこしと、その他野菜や果物、狩猟した肉や魚、卵という食事です。
他にもコーヒーや少量の砂糖も毎日摂っているようです。
とうもろこしは、トルティーヤや炒ったものをつぶして、水と一緒に飲んでいます。
炭水化物は精製せず、最低限の加工にしています。
一方で、典型的な現代食(Affluent diet:以下A食)での3大栄養素の%は、
タンパク質10%:脂質43%:糖質47%でした。
内容は、チーズ、バター、ラード、卵黄、精製小麦粉、清涼飲料水、テーブルシュガー、ゼリーといったものでした。
精製小麦粉はバターと一緒に小麦粉のトルティーヤにしたり、
ラード全卵、砂糖でケーキにして食べられました。
細かく見ていくと、脂質の割合がT食では61gに対し、A食では198.2gと3倍以上に増加しており、
その割合が大きすぎるため、タンパク質の割合が減り(T食、A食共に101g)、
糖質はT食が438gに対し、A食では479gと増加しています。
実質的なカロリーアップは脂質で、この脂質の差で実に1,200kcal以上も増加しています。
糖質も細かくみていくと、でんぷん質はT食 が419gに対し、A食は314gへと減少、
単糖がT食が19gから、A食は165gと増加。
食物繊維がT食が102gから、A食は33gへと減少、水溶性食物繊維がT食が49gから、A食13gへと減少していました。
残りのカロリー増加分は糖質によるもので、
その差は200kcalと脂質の差に比べるとわずかです。
こうしたところ、コレステロール、中性脂肪、体重が短期間で劇的に増加しました。
結果から分かることを考察
ここからは僕の考察になります。
結果から分かることは、現代食特有の高脂肪食と精製された糖質やでんぷん質の摂取によって、肥満になったと考えられます。
高脂肪食では、ランドルサイクルによって、脂肪のエネルギー代謝にスイッチしやすくなり、糖質の利用が制限されます。
ラットの実験では摂取カロリーに占める割合が45%の高脂肪食を12週間続けると、高脂肪食群(HF群)の体重はコントロール群(CON群)と比べ36.9%増加、
食後120分の血糖値はHF群がCON群よりも34.6%増加、
肥満およびインシュリン抵抗性になったラットの割合は93.3%にもなりました。[3]
ランドルサイクルを理解すると、この要因が高脂肪食にあることが分かるかと思います。
でんぷん質は、ブドウ糖がいくつか連なっている構造をしています。
エネルギー源として利用するまでに、でんぷんをブドウ糖までに分解しないといけません。
しかも精製されていると、代謝に必要なビタミンやミネラルまで、取り除かれてしまいます。
こうした高脂肪食+精製糖質+でんぷん質の食事は、血糖値スパイクを起こしやすくなり、かつ持続的に高血糖が続きやすい状態となります。
にもかかわらず、細胞の中は脂肪の代謝が優先されているので、ブドウ糖がエネルギーにしにくい状態となり、細胞にはストレスがかかります。
結果、ストレスホルモンが分泌されて、ブドウ糖を確保するために、脂肪分解とタンパク質分解を繰り返す状態となります。
僕の推測では、中性脂肪やコレステロールが増加したのは、取り入れた脂肪と分解された脂肪の二つの要因があり、結果では筋肉量は測定していませんが、筋肉量が減っているはずです。
筋肉が減ると、筋肉で燃焼できるエネルギーが減るので、より高血糖が進みます。
食べた糖質の70%は筋肉で消費され、肥満や糖尿病といったインシュリン抵抗性が起こると、筋肉での糖質の消費が大幅に落ちます。[4]
脂肪分解で分解された脂肪は、内臓や筋肉など、異所に付きやすくなります。
人為的に脂肪分解を起こさせるステロイド剤の副作用として、クッシング症候群による中心性肥満というものがあります。
タラフマラ族の食事実験の結果では、上腕三頭筋の皮膚をつまんだ幅が8±2mmから11±2mmへ増加していることからも、脂肪の異所化や筋肉の霜降り化が推測できます。
つまり脂肪が蓄積し、筋肉が減り、体重が増えていきます。
この状態は、よくビール腹といわれるような、お腹が出ているのに手足が細いという、糖尿病患者にもよく見られる状態になっていきます。
このような食事を続けていくと、糖尿病になるのは間違いないと思われます。
以上からわかるように、太りやすい食事法とは、高脂肪食と精製された糖質やでんぷん質の過剰摂取によるものだと考えられます。
バターやチーズを多価不飽和脂肪酸(PUFA)由来のものにすると、より結果は悪くなったと考えられます。
(ちなみにラードはPUFAも多い)
続いても太りやすい食事法を違う国の調査からみていきます。
この記事は以前アメブロで公開したものに加筆したものです。
【参考文献】
[1]令和1年(2019)「国民健康・栄養調査」の結果
厚生労働省
[2]Changes in Lipid and Lipoprotein Levels and Body Weight in Tarahumara Indians after Consumption of an Affluent Diet
N Engl J Med . 1991 Dec 12;325(24):1704-8.
[3][Establishment of high-fat diet-induced obesity and insulin resistance model in rats]
Beijing Da Xue Xue Bao Yi Xue Ban . 2020 Jun 18;52(3):557-563.
[4] Lilly lecture 1987. The triumvirate: beta-cell, muscle, liver. A collusion responsible for NIDDM
Diabetes . 1988 Jun;37(6):667-87.
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