太りやすい食事法とは?その③:オーストラリアのパラドックス
前回はメキシコ系アメリカ人が、高脂肪食ほどインシュリン抵抗性と膵臓のβ細胞の機能障害につながったことを見ていきました。
今回はオーストラリアでの調査[1]を見ていきます。
オーストラリアのパラドックス
オーストラリアは先進国と呼ばれる国の中でも、人口に対する肥満が多い国です。
2007年から2008年の調査で、成人の62%、子供の23%が過体重、または肥満と発表されています。
特に1980年以降はそれ以前と比べて、肥満での有病率が3倍にも上昇しています。
そしてオーストラリアは世界一、砂糖の消費量が多い国でもあります。
そのため、国をあげて砂糖の消費量を減らしてきました。
一般的には砂糖は、肥満の原因になるとされています。
そんなオーストラリアでは、1980年から2003年にかけて、精製砂糖の消費量が23%減少。
異性化糖などの甘味料は16%減少。
甘味料入りの飲み物の売り上げが、6400万リットルも減少しています。
肥満の原因とされている砂糖や甘味料の消費が減少しているにもかかわらず、
肥満の割合が増加していることから、
オーストラリアのパラドックス(逆説)と言われています。
オーストラリアのパラドックスから分かること
この調査から分かることは、砂糖が肥満の原因ではないかもしれないということです。
実はこの期間で、砂糖の減少とは反対に、消費が増加したものがあります。
それがチョコレート、クッキー、ピザ、スナック菓子の増加です。
WHOの調査[2]では、オーストラリアの食事におけるエネルギー量の割合が、
糖質16%に対し、脂質が35%を占めていました。
これはこれまでお伝えしたように、高脂肪食にあたると考えられます。
このWHOの結論でも、オーストラリアでのエネルギー供給量の増加は、
ほとんど総脂肪によるものだけであった。と指摘されています。
高脂肪食では脂質を食べた分だけ体脂肪になりやすくなります。[3][4]
また、食事を高脂肪食に変化させると、脂質をうまくエネルギーに出来なくなります。[5][6]
ランドルが発見した現象と似ていますね。
肥満の被験者は脂肪から2倍のエネルギー量を摂取したという実験結果[7]があるように、脂肪は食欲を狂わせてしまうと考えられます。
カロリーベースで考えてみても、脂質は糖質の2倍以上ものカロリーがあります。
それでは一方の糖質ではどうでしょうか。
肥満者19人を対象とした糖質制限食と脂質制限食を6日間行った実験[8]では、
糖質制限では体脂肪が一日あたり53±6g減少したのに対し、
脂質制限では体脂肪が一日あたり89±6g減少と、有意に減少していることから、
脂肪の増加は、糖質よりも肥満と直接的な関わりが深いと考えられます。
高脂肪食ではなく、高炭水化物食を15日間続けた実験[9]では、グリコーゲンがしっかりと作られた被験者において、脂肪の蓄積と体重の減少が確認されています。
II型糖尿病ではない肥満の人と、II型糖尿病患者を低炭水化物またはバランスの取れた炭水化物の減量食を食べた2年間の追跡調査では、
体重減少および心血管危険因子の変化にはおそらくほとんど差がない。と結論づけています。[10]
つまり炭水化物を減らしても、あまり効果がなかったということです。
やはり一番のポイントとなるのは高脂肪食です。
ある文献[11]の体重減少での結論でも、体重減少には脂肪の摂取量を減らすことである。と結論づけています。
また、肥満患者を対象とした研究では、低脂肪食により6ヵ月で8kgの体重減少が確認されています。[12]
マウスの実験でも高脂肪食を通常食に切り替えると、脂肪蓄積とブドウ糖の代謝ならびにインシュリン抵抗性が改善されたことが確認されています。[13]
オーストラリアのパラドックス調査の考察では、
とあるように、肥満の直接的な原因は砂糖と考えるよりも、脂質の増加、それに加えて精製度の高いでんぷん質の過剰摂取、アルコールというものが考えられます。
周りを見渡せば、油を使った料理が大変多いと感じます。
唐揚げ、串揚げ、とんかつ、コロッケ、フライ、天ぷら、炒め物、ドレッシングやマヨネーズ。
どんな飲食店にも必ずと言っていいほど油を使った料理はメニューにありますね。
それだけ好きな人も多いと思います。
一方で『甘いもの』というと果物やドリンクよりも、
チョコレートやケーキやドーナツ、菓子パンといった、脂質と糖質が混ざっているものを想像する人が多いと感じています。
日本では、脂肪摂取の割合が昭和30年の平均と比べると、3倍以上にも増加しています。
あくまで平均ですので、多い人はもっと多いと考えられます。
この60年で日本人の食は大きく変化しました。
それ以前は、油を使った料理はほとんどありませんでした。伝統的な和食は、蒸す、焼く、煮る、漬けるという調理法です。
WHOの調査においても、脂肪摂取量は世界で増加傾向にあります。[14]
なお、僕が上限としている一日の脂肪摂取量を食べ物の量でたとえると、
アボカド2個分
ドーナツ5個分
K社フライドチキン4個分
C社ポテトチップス1.6袋分
C社チキンカツカレー1食分
M社ダブルチーズバーガー2個分
直径20センチのピザ1.2枚分
とんかつ1.2枚分
中くらいの鶏の唐揚げ6個分
です。意外に少ないと思われるかも知れませんが、これでも多いくらいです。
更にできれば、不飽和脂肪酸を極力摂らないということが最善です。
三大栄養素の摂取比率でいえば、脂質の割合が30%を超えると危険です。
肥満が増加しているのも、糖尿病患者が増加しているのも、がん患者が増加しているのも、昔とは何かが変化したからです。
それに気がつかない限り、健康への道は見えてこないと考えています。
【参考文献】
[1]The Australian paradox: a substantial decline in sugars intake over the same timeframe that overweight and obesity have increased
Nutrients . 2011 Apr;3(4):491-504.
[2]Trends in obesity and energy supply in the WHO MONICA Project
Int J Obes Relat Metab Disord . 2004 May;28(5):710-8.
[3] Failure of dietary fat intake to promote fat oxidation: a factor favoring the development of obesity
Am J Clin Nutr . 1989 Aug;50(2):307-14.
[4]Food intake measured by an automated food-selection system: relationship to energy expenditure
Am J Clin Nutr . 1992 Feb;55(2):343-9.
[5]Changes in fat oxidation in response to a high-fat diet
Am J Clin Nutr . 1997 Aug;66(2):276-82.
[6]Dietary fat oxidation as a function of body fat
Am J Clin Nutr . 2008 Jan;87(1):132-5.
[7]Dietary fat and the control of energy intake: evaluating the effects of fat on meal size and postmeal satiety
Am J Clin Nutr . 1993 May;57(5 Suppl):772S-777S; discussion 777S-778S.
[8]Calorie for Calorie, Dietary Fat Restriction Results in More Body Fat Loss than Carbohydrate Restriction in People with Obesity
Cell Metab . 2015 Sep 1;22(3):427-36.
[9]Carbohydrate balance predicts weight and fat gain in adults
Am J Clin Nutr . 2006 Apr;83(4):803-8.
[10]Low-carbohydrate versus balanced-carbohydrate diets for reducing weight and cardiovascular risk
Cochrane Database Syst Rev . 2022 Jan 28;1(1):CD013334.
[11]Regulation of Body Weight in Humans
PMID: 25905170
[12] Comparison of weight loss among named diet programs in overweight and obese adults a meta-analysis.
JAMA-J. Am. Med. Assoc. 2014;312:923–933.
[13] Adipose tissue supports normalization of macrophage and liver lipid handling in obesity reversal.
J. Endocrinol. 2017;233:293–305.
[14]WHO Diet, nutrition, and prevention of chronic disease. Geneva: WHO; 2003