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お雛様のディープな工房探訪記・その1「顔をつくる人」
お雛様の工房探訪記、はじめます。
2024年8月、新聞社の記者さんをお誘いして、京都の雛人形工房を訪れました。場所は嵯峨野。世界的観光地となっている嵐山から車で10分ほどの場所です。
工房探訪スタート
訪れたのは、雛人形の顔を作る「頭師・川瀬猪山(かしらし・かわせちょざん)」さんの工房。魑魅魍魎が跋扈する雛人形業界にあっても、この名を知らない人はモグリだと言われてしまうほどの職人だ。1898年に人形師であった北国屋清兵衛から独立した初代猪山(猪之助)からはじまり、現在で四代目となる猪山さん。数多ある雛人形の中でも、優れた着付け師の胴体にしか使われることがないお顔は、今は猪山さん一人の手によって作られている。まさに限定品である。
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顔の素材は「桐塑」と「胡粉」
良質な雛人形の顔は、「桐塑(とうそ)」※とよばれる桐の木の粉と、「胡粉(ごふん)」という貝殻の粉でできている。
※あるいは木彫り
今では石膏を使った顔が主流であり、桐塑と比べても特段見劣りするものではないが、それでも腕の良い職人は桐塑(さらには木彫り)の技術を習得している。ただし、桐塑が使えることがすなわち「腕がいい」というものでもない。このことは必要条件と十分条件の違いに似ている。
顔の表面には、膠(にかわ)で溶いた胡粉を幾重にも塗り重ねる。下塗りには粘り気のある胡粉をつかい、表面にいくに従って薄く溶いた胡粉をつかう。
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胡粉の下にはめ込まれたガラスの目を切り出し、髪のはえぎわを描き、口紅をさす。
猪山さんの工房にはたくさんの筆がならんでいる。
一番細い筆で、毛先が2~3本ほど。描く箇所によって筆の太さを変えるため、何種類もの筆を自作している。さらに驚くべきは、その日の気温や手の調子によって筆の進みが変わってしまうため、同じ太さの筆を10種類ほど常備しているといわれていた。
目を開くための小刀も同様で、市販の小刀を加工したり、時にはノコギリを切り取って小さな小刀を自作する。職人というのは、いかに自分の手にあった道具を作りだすかが重要であり、道具によって完成品の精度がまったく変わってしまうものだ。
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少しだけ、表情を描いている様子を見させていただくことが叶う。
眉毛は、最初は〈色が付くか付かないか〉くらいの墨で描きはじめ、徐々に濃い墨に変えていく。そうすることで位置や形の齟齬なく、産毛のような優しい眉を表現することができるのだ。
猪山頭(ちょざんかしら)の眉の位置は他の顔に比べてやや高い。
人間は嬉しい時、幸福な時には眉が上がり、つらい時には下がり、狭まる。雛人形とは持ち主の幸福を祈り、見守るためのものであるから、眉間にしわが寄るような顔ではいけない。猪山さんが求めるのは「きれいな顔」ではなく「はっとするような顔」「心が和む顔」という。私は、手を合わせたくなるような、あたたかな顔だと思う。
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