【小説】 逃走 #10 誤算
ユズルは計画の成功を信じてガレージに向かった。兄ミツルの左ハンドルのベンツに乗り込み、大きく深呼吸をしてキーを回した。唸るようなエンジン音がガレージに響き渡る。ハンドブレーキをリリースし、ゆっくりとシフトレバーをDレンジに入れアクセルを踏んだ。
軽く左手をあげサトミに挨拶をして、ベンツSLの大きな車体はゆっくりとガレージを出て、まるで他の車を威嚇するかのように滑り出していった。一旦、遠回りをして逆方向からミツルの愛人であるユウコの自宅へアプローチする。これはいつものことである。ミツルの自宅から直行すれば20分ほどなのだが、誰に見られるか分からないので、幹線道路である246号線を通って抜け道にもなっている山道の反対側へ回って戻ってくるようなルートを使う。あくまでも用心深く対応している。
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