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【SS】共有スペース

 最近のマンションには共有スペースとしてラウンジが設けられていることが多い。ラウンジといってもアルコールが飲めるわけではない。景色のいい部屋などを共有スペースとして開放しているのである。

 このスペースは意外と利用者が少なく快適に利用できる。私が住んでいるマンションでは、共有スペースでWiFiに接続すれば多くの電子書籍が無料で利用できる特典もついている。通常の分譲の部屋の一部屋相当が共有のラウンジとして設定されているので平日の昼間などは書斎代わりに利用も可能である。もちろん、キッチン、トイレ、エアコン完備であり、我が家と違う方向の窓からの景色も楽しめる。

 窓際にPCを持っていき記事を書こうとすると、眼下に見える高速道路を行き交う小さな車を眺め、上を見上げれば月が見える窓があるので、しばし我を忘れて景色を楽しむこともある。

 高速に入っていく車は日が暮れるとともに少なくなり、灯りの少ない目の前の湾は夜になるとともに暗くなっていく。そんな時間とともに変わりゆく景色の中でパソコンを目の前にしてキーボードと格闘する自分がなぜか小さく感じてしまう。

 窓越しに見える景色にはそれぞれの生活があるのだろう。目の前は港湾だが、左側の窓に目を移すと、いろんな家庭の明かりが見える。病院の一室だったり、一軒家だったり、マンションだったり形態は様々ではあるが、確かに人としての営みがそこにはあるようだ。

 たまに訪れるマンションのラウンジ、自宅とは違った景色と雰囲気を楽しむことができる。まぁ、時には先客と出会う時もあるがそれもまた出会いである。今日は、女子高生数人のグループが先客としていたので、「くつろいでいるねー」と声をかけたら、完全無視でスルーされた。まぁ、それも仕方ないかもしれない。その後彼女たちはソファで眠ったり、スマホを見たりしてジャージ姿でくつろいでいた。なぜか、私の方が邪魔をしたような錯覚に囚われそうになったが、めげずに窓際の席に行って、パソコンを開けた。これも自分を小さく感じた要因の一つかもしれない。

 そして、この原稿を書いた(笑


#小説 #ショートショート   #創作 #マンション #共有スペース #ラウンジ

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松浦 照葉 (てりは)
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