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芋と金木犀と彼岸花と、、華

不定期であるが、今回も『華男』シリーズで書いた。

もし、前作とのつながりが気になるのであれば、こちらから読んでもらいたい。


お彼岸を過ぎた日曜。

今日は、華漢こと、こうちゃん(平島孝介)が、私の買い出しの手伝いをしてくれた。

 アロマの勉強の指導と、たまに私の部屋がこうちゃんの宿になってしまうので、その御礼をかねて何かさせて欲しいと、あまりにもうるさいので、車を出してもらい、ドラッグストアーと業務スーパーで日用品と食料品の買い出しに手伝ってもらったのである。

 こうちゃんの車が大きいこともあって、私にとって、トイレットペーパーやティッシュなど手持ちの買い物では辛い物も、まとめて買うができたので助かる。
 後部座席には、私の生活品と2週間分くらいの食料品で埋め尽くすされた。

 にしても、この華男。さっきから、「うんまいわ〜」と、スーパーで買った焼き芋を頬張りながら、よくもまあ、片手運転するなぁ。

 「ももかも、おどう?この焼き芋、めっちゃ甘いって。」

 「はあ?」
 勧められても、すぐには手が出せれないのが、私のサガ。でも、こうちゃんが齧る芋から、仄かにあの焼き芋独特のほくほくっとした匂いが鼻をくすぐる。

「そんじゃあ。1個だけ。」
「ん!どうぞ、好きなだけ。」

とは言っても、8個買った焼き芋は、既に残り3つ。
 買い出し前の勉強会の間で、菓子パンやチョコ菓子、ポテチをあれだけ食べてたのに。食欲の秋とはいえ、この華男の腹は、底なし沼としか言いようがない。

 「そー言えばさー。この時期くらいなるとさー。ほら、あれ、星みたいな。あっ、金木犀。あれまだ咲いているとこ見たことねーな。あの香り、俺好きなんだけど。ももかは、見た?」

またいつもの急な質問で、咽かけそうになる。
「へっ?いや、私も今年は、まだ見てない。」

 「ふーん。ももかが働いている病院の駐車場、あれって、金木犀?だよね?そうなら、もう咲いた?」
「よく覚えているね。確かに金木犀だけど。まだ咲いてない。枯れてはいないけど。」
「ふーん。やっぱ今年の夏、クソ暑かったし、温暖化のせいですかねー。」
「さぁ。まあ、それもあるんじゃない。」

たわいもないやり取り。赤信号で、こうちゃんの車が停止する。

 確かに、私がまだ勤め始めた頃は、この時期ぐらいには、オレンジ色の小さい花がたくさん咲いて、ふんわりと甘い香りが駐車場に漂う。実言うと、私も、こうちゃんには言わないけど、金木犀の花の香りは好きで、仕事の行き来で金木犀を香りを嗅ぐのを密かな楽しみとしていた。

 今年はまだ咲く気配なく、こうちゃんの言う通り、異常気象のせいなのかと思うけど。
 少し寂しさを感じるけど、まあ、いつかは咲くだろう。

 「あー。あとさ!彼岸花も今年まだ見てねーなー。やっぱ、田んぼとか川でないと咲かないのかなー。」
 「意外と風流みたいなこと言うんだね。」
 「そりぁそうよ。だって俺の脚、彼岸花、彫ってあるもん。」

そうだった。この漢、確か、脚には彼岸花や赤アザミの刺青あるんだっけ。
 今日も、何気に、焦茶のカッターシャツやぴっちりとした黒のレザーズボン、ゴールドのネックレスと時計、革靴という、「裏社会の漢」みたいなファッションで何気に目立つこの漢。(買い物中は、周りから変な視線を感じなかったのは意外だが。)
 何度かの泊まりで、上半身の薔薇や白百合、向日葵や桜の刺青は見たけど、下半身は履いていたズボンを履いているので、脚の刺青までは見たことがない。

 ちなみに、泊まったと言っても、こうちゃんとは男女の仲にはなっていないので悪しからず。ちゃんと、師弟関係として維持している。

「刺青ってさ、色褪せることあるの?怪我した時とか、、、。」
自分でも、こうちゃんに時々疑うぐらい変な質問をする時がある。
「あー。あるみたいだけど。俺は大丈夫よ。これまでも、仕事で怪我したり火傷したりしても、人工皮膚に刺青をプリントしたやつを移植して修理してもらってるから。いつも彫りたて新品の刺青さー。」

そうだった。
 この漢、普通の人間じゃあなかった。いわゆる、「作られた人間」でかつ「殺し屋」。
 梅雨の時期に出会って数ヶ月、やり取りをするうちに、こうちゃんが、俗に言う「カタギ」ではないこと、私も時々忘れてしまう。

でも、彼岸花の刺青ってどんなのだろう。思わず視線が、運転席に隠れている脚にいく。

「も〜し〜、良かったら〜、今度〜、お泊まりの時〜、俺の真っ赤な彼岸花〜お見せしますよ〜。おパンツ姿で〜。」
また私の視線を察知したのか、変な鼻歌で歌うこうちゃん。
「いいえ。結構です‼︎」
何かにつけて、いやらしいことを企むが、そうはいかない。

ヒヒっと意地悪く笑う漢にイラっとしながらも、1つある提案が浮かんだ。

「ねえ。来週の日曜、暇?暇なら、隣街の私が精油を買っているアロマショップでクラフト教室やってるんだけど。こうちゃんもやってみない?誰でも参加できて、私も、そこで、石けんやハンドクリーム作ったことがあって。」
「おおお⁉︎いいの?行く行く‼︎俺、いつでも暇してるし‼︎」
急に子どもみたいなテンションで騒ぐこうちゃん。

「ただ、あまりはしゃぎ過ぎないでよ。特にその格好、普通なら目立つと思うし。ただえさえ、身体デカいんだから。」

「うんうん。分かってるって‼︎俺だって、ちゃん場はわきま、、、。」

ぷっ、ぶぶぶー

急に車内に、たまに聞く音、それと同時になんとも言えない臭いが隣から発した。

「はあ?クサ‼︎ちょっ、あんた、オナラしたでしょ」

「あ、すまん。さっきからずっと我慢してて、音無しの透かしっぺならバレないかな〜としたんだけど、、、。」

「そんなのバレるに決まってるんでしょうが‼︎もう!!クサいし、最悪。」

「いや〜本当にごめん。お詫びに、今日の夕飯手伝うし、、、あ、ももかのアパートに近づいてきた。さっき買ったサツマイモで味噌汁作る‼︎こうちゃん十八番の味噌汁‼︎」

「結構です‼︎それにかこつけて、ご飯作るの面倒だから、ついでに一緒になって食べようとする魂胆でしょが‼︎」

「んなことねぇって。それに、ももか、前に俺が作ったしめじと舞茸の味噌汁、結構お代わりしてくれたんじゃんよ〜。」

う、、、確かに。あの味噌汁は美味しかった。
特別な調味料や作り方をしているわけではなさそうなのに、なぜかこうちゃんの作るお味噌汁はどれも美味しい。

豆腐とお揚げ、なめこ、しじみ、しめじと舞茸、、、

 一宿一飯の恩義で作るこうちゃん味噌汁は、なぜか、妙に私の食欲をそそる。

サツマイモの味噌汁かあ〜。なんかずっと昔、食べたことあるけど、、、あれも上手いんだよな〜。食べてみたいな〜。

もう1人の食欲に駆られた自分の声が、頭の中でボヤいた。

「分かった。じゃあ、夕飯手伝うのと、お味噌汁お願い。それに、一緒に食べていいけど。絶対に、さっきみたいにオナラ爆発させるのやめてね‼︎私の部屋が、オナラで充満したら嫌だから。」

「分かった‼︎じゃあ、おなら出そうな時は、『オナラ出します』って言って、ベランダでします‼︎」

「いや、だから、そうじゃなくって‼︎」

毎回、こうちゃんとやり取りには、ツッコミが入ってしまう。

 そうこうするうちに、ケラケラ笑うこうちゃんの車は、私のアパートに着いた。

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