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猛暑と華 2


 (上の話の続き)

 華男(はなおとこ)こと、こうちゃんの突拍子もない提案で、急遽、勉強会からアロマクラフトの時間になった。

 とは言っても、手持ちのイランイランの精油、無水エタノール、精製水で、簡単にできる、ルームスプレーを作るだけなのだが、、、

「最近の100均ってすごい便利ー。こんなスプレーボトルも売っとるんかー。」

「勉強の時よりも、なんかすごくテンション高くて、ウザ。とりあえず、イランイランの精油は、入れ過ぎんといてね。なるべく仄かに感じる程度で。」

「はーい。」
 こうちゃんは、そう言つつ、テキストをチラチラ見ながら、100mlのスプレーに、無水エタノールを入れ、次に、イランイランの瓶を待ち、ボトルに入れる。
 ポト、ポト、ポトっと、瓶から、香りの雫が落ちた。

「ねぇ、何滴入れた?」

「ん?6滴」

「はあ⁉︎入れ過ぎじゃん‼︎」

「んーでもさ、このテキストでも、他のルームスプレーとか結構多めの量入れるように書いてあるし!それに、この後、これ?この水、入れるんだから、薄くなるしょっ‼︎」

いくら精油とは言えど、私の部屋中に、あの独特な華の香りがムァと広がったら、、、イランイラン自体は嫌いでないけど、内心、今日はそんな濃厚な香りを嗅ぎたい気分ではなかった。

私の心中を察しない華男が、精製水を入れようとしている。

ええい、こうなったら、

「ちょっと、待った。これ、入れて。」

すかさず、ベルガモットの精油を差し出す。

「おーブレンドってこと?さすが、大上先生、洒落てますねー。ってか、先生、本当に好きだねー。ベルモルモット、、、。」

「ベルガモット‼︎とりあえず、3滴入れて。」

華男は、はーいと、言い間違えを気にせず、スプレーの中身にベルガモットの精油を加える。
 最後に、精製水を入れて、蓋をした後、華男は、これでもかというくらいに、ボトルをブンブンとシェイクした。(下手して、中身が出るのではないか、内心ヒヤヒヤものだったが、、、)


「おっしゃあ‼︎完成‼︎こうちゃん第1号のアロマスプレー‼︎」

さらにハイテンションなこの華男。

「ねぇ、早速、シュッして良い?」

「良いけど、カーテンとか、ベットの布団には、かけないでよ。」

「はーい」と言うや否や、こうちゃんは、立ち上がると、シュッシュッシュッとする。

細かな霧からは、イランイランの甘く、エキゾチックな香りが感じた。

「まあ、イランイランの香りが強いけど、結構良いんじゃあない?」

「んー。俺的には、もうちょっと濃い香りになって欲しかったなー。香水みたいに、、、。」

不満なのか、眉間に皺を寄せて、少し悔しがるこうちゃん。

それでも、シュッシュッとする度に、イランイランの淡い香りが私の部屋を満たす。

「ベルガモット入れて良かったかも。そんなにドギヅイ感じしないし。」

「んー。やっぱり、初めてだから、やってみなくちゃ、分からんな‼︎。な、大上先生、今度は、ローズの精油をたっぷり使ったルームスプレー作りたいです‼︎」

「はあ?あのね、アロマクラフトするのは良いけど、これでも、精油揃えるに、結構費用がかかるの‼︎ましてや、ローズの精油は、ほらここ、このページにも書いてあるけど、貴重で、少量でも万越えするんだから‼︎」

「大上先生、大丈夫です‼︎勉強のためなら、俺、1000万でも10億でも、喜んで出します‼︎、それに、ほら、今まで使ったから、このイヤンイヤンや、ベルモルモットの精油も大分減ったし、買いに行くの俺手伝います‼︎」
グイグイとこうちゃんは、私に詰め寄る。

「そこまで、熱くならないでよ。って言うか、あんた、そんなに大金持ちだったの?てか、イランイランとベルガモットだし‼︎」

天然なのか、わざとなのか、よく分からないけど、意地悪く笑うこうちゃん。

 少々、ムッとはするが、甘い仄かなエキゾチックが、しばらくの間、私とこうちゃんの間を漂っていた。





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