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ショートショート集「おせっかいな寓話」その他

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私・いぬいの自作ショートショートです。世の中の気になる出来事からお題を拾ってネタを考えてますが、元ネタがなにか、わかりますかね?
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2021年7月の記事一覧

「慢心と残心」/連作短編「お探し物は、レジリエンスですか?」

「もっと喜べばいいのにね」 妻・ゆかりのつぶやきに、一緒にテレビを見ていた稲堂丸淳史は、まあね、と相槌を打ちながらも、言葉を続けた。 「残心だね」 「ザンシン?そんな新しいこといってた?」 テレビに映し出されているのは、オリンピック柔道男子の78キロ級でいましがた金メダルを獲得したばかりの大河原選手のインタビューだった。宿敵を延長戦の末に得意の内股で倒した際にも歓喜の声一つ上げず、直後のインタビューでも淡々とした表情で試合を振り返る様子を、ゆかりは物足りなさげに眺めて

ショートショート「『青春』とやらも悪くない」/おせっかいな寓話

まもなくキックオフ。コップのコーラを一口飲んでタオルで額の汗をぬぐう。 「よっしゃ、やってやろうぜ!」とコージ。 「燃えてきたー!」マサキが吠える。 「ああ。いけるいける」と僕。 スカイプ越しのやりとりだが、高鳴りはビンビン伝わってくる。目の前のモニターには、ネット対戦サッカーゲーム「ファイナルイレブン」のプレイ画面。オンライン対戦の準備が整い、いままさに・・・ 『ピー!』 試合開始の笛が鳴る。 ゲームは11人の選手を3人で操作し、10分間で勝ち負けを争う。相手

ショートショート「夏の医者」/おせっかいな寓話

「先生、次の患者さん呼びますねー」 「あいよー!」 白衣の男が景気のいい返事をすると、横開きの白い扉がスライドして、顔をのぞかせたのは年配の女性。促されるままにパイプ椅子に腰を下ろす。 「どうもこのところの暑さで夏バテのようですの。なにか消化にいい落語はありまして?」 「ははあ、だいぶお疲れで。今見繕って差し上げますよ」 言いながら白衣の男は手ぬぐいを広げて、書面を読むしぐさ。 「ありやした。こちらなんぞいかがでしょう?『そば清』!上方では『蛇含草』なんて言います

ショートショート「鬼百合と刀」/おせっかいな寓話

深山幽谷。一人の浪人者が無心に剣を振るっていた。 物心ついたころから道場に通いつめ、若くして師範代を任されるほどの腕を誇っていた男であったが、急な病で藩主が死亡。跡取りがいなかったことから藩は取り潰しとなり、一族郎党、家臣らは散り散りとなった。 「自分の剣の腕があれば、仕官の道などいくらでもある」 男は新たな主を求めて他流の道場を破り、他藩の剣術指南役を打ち倒しては自慢の腕を示した。だが、なぜか仕官にはつながらなかった。むしろ煙たがられ、わずかな金子を持たされては厄介払

ショートショート「ドアの向こうは。」/おせっかいな寓話(NNさん:ゾンビ企画参加)

たったひとりで自宅の地下シェルターにこもったあの日から3年。十分すぎるほどの備蓄のおかげで、空腹にさいなまれることはなかった。幸いにして屋上の太陽光発電は故障することなく作動し、風呂やトイレにも困ることはない。 当時持っていた数十億の資産は、あの騒動の中でどうなったのかはわからないが、命には代えられない。この3年で唯一不満だったのは情報が皆無だったこと。シェルターの外はいま、いったいどうなっているのか。 ・・・ヤツラは、いったいどうしているのか。 扉のノブに手をかけなが

ショートショート「メジャーな男」/おせっかいな寓話

「ブルースカイズ対サブマリンズの伝統の一戦、実況はわたし、マシュー・ダンカン。解説は通算500ホーマーのレジェンド、クリス・ヤング。クリス、調子はどう?」 「悪くない。サブマリンズの打線に比べれば、だいぶいいね」 「サブマリンズの監督、ジョーは連敗疲れでとうとう点滴を打ったってね」 「きょう負けたら『カミさんにミートパイにされる』って嘆いてたよ」 「さあ、ピッチャー振りかぶって第一球を投げ・・・ない。審判が試合を止めた。なんだなんだ?」 マウンドに歩み寄った主審が、

ショートショート「怖いハナシ」/おせっかいな寓話

【記者コラム】暑気払い!?大人気の「怪談マッサージ店」に潜入    週刊雑話 2013年7月〇〇日号  連日の真夏日に疲れ切った諸兄に、身も心もスズシーくなるようなサービスをご紹介しよう。市内のとあるビルで営業するマッサージ店。けっしてイカガワシい店ではないのだが、どことなーく人目をはばかるような佇まい。その理由は『一風変わったサービス』にあるのだ。 仮にこの店の名前を『Aマッサージ店』としよう。客が増えすぎでも困る、という店主のたっての願いでの匿名である。『Aマッサージ

ショートショート「対等な二人」/おせっかいな寓話

『これから行ってくるよ』 唯一、親友と呼べるハルカにLINEを送る。時を置かずに既読マークがつくが、返信はない。やはり怒っているのだろう。意味がないからやめろとさんざん諭されたのに、来てしまったのだ。 納得がいかない。ただただその思いで、私はここに立っている。こことはどこか。先日まで同棲していた元彼の家の前である。チャイムを押すと、仏頂面したトシキがドアの隙間から顔を出し、はいれよ、といわんばかりにアゴをしゃくった。 ズカズカとあがりこんだ私は、持参したスーツケースを開

ショートショート「笑顔の男」/おせっかいな寓話

「サザエさん症候群」という言葉を作り出したのはいったい誰だったのだろう。それまで自覚していなかったモヤモヤした気分が、この言葉によって私の中で概念化されてしまったのだから、困ったものだ。 もっとも「サザエさん」のアニメをほとんど見ることのない私の場合は、日曜19時のNHKニュースを見ることで、その症候群が発症するわけなのだが。 翌日の出社に向け、社会で起きている出来事をニュースで確認することで自分の中の『サラリーマンスイッチ』をONに切り替えている、ということもできるかも