読書感想文『52ヘルツのくじらたち』【ネタバレ注意かも】
そろそろ2024年も終わりですね。お疲れ様でした。2025年も頑張っていきましょう!
さて、最近『52ヘルツのくじらたち』を読了しました。この本は2021年本屋大賞受賞作。読書が好きな人ならかなり有名な作品かと。
読み終わって忘れないうちに、本書の感想を綴らせていただければと思います。
暗い
まず思ったこと。出だしから主人公のバックボーンが重い。そしてその暗さを助長する田舎の閉塞感。田舎のコミュニティも捉え方次第では温かい人同士の繋がりなんですけど、そういうのを必要としない人にとっては、周りからの視線が苦しいだけですよね。
現在ゴリゴリの田舎暮らししてる私からすると「じゃあ田舎行くなよ」と思うのですが。人とのつながりを絶つことを目的に田舎に行くことはお勧めしません。一番人とのつながりが希薄なのは都内のアパートです。
しかし今作においては主人公が田舎に引っ越した訳について、割としっかり描かれていたので、まあわかるな。という感じに思えました。よかったよかった。
そして主人公の重みを彩る重い登場人物。本書は主人公の現在と過去が交互に描かれるのですが。基本的に救いがありません。チラッと主人公に手を差し伸ばす救世主が現れたかと思えば、泡のようにいなくなったり。
動物好きな人、勘のいい人はタイトルから察することができるでしょう。くじらは特定の周波数の音を出すことによって仲間とコミュニケーションを取ると言われています。世界中のくじらの中で一頭だけ、52ヘルツで鳴くくじらがいるとされています。本来、鯨の発する周波数はもっと低いものであるため、52ヘルツで鳴くくじらの声はどのくじらの耳にも届くことはない。ということらしいですな。
僕もこの作品のタイトルを聞いた時「きっと孤独な主人公なんだろうな」と思いました。案の定孤独な主人公でした。孤独に生き、誰かに愛される温もりを覚え、失い、また一人で生きていくことを決める主人公。最初の印象は孤独というより「孤独になろうとしてる」の印象が強かったですね。
ともあれ今作、ストーリーの9割が暗いです。残りページがわずかになってもハッピーの予感が遠く「いつになったらハッピーになんねん!?」というツッコミを心で唱えながら読んでいました。
孤独な人たちが織りなす魂の響き
孤独になりたがる主人公。そこで出会うもう一人の孤独な少年。孤独な二人が出会うことでもたらされる魂の化学反応。それが本書の読みどころとも言えるでしょう。この作品のタイトル『52ヘルツのくじら”たち”」というところが割とミソになってきます。52ヘルツのくじらっぽい登場人物が何人か登場しますが、とある人の”孤独”が発覚するシーンは胸が震えました。もしくは、捉え方によっては全ての人間が孤独であるのではないか。そんなことを考えることもありました。また、孤独とは対照として、魂の共鳴というべきか、誰かと誰かの鼓動が響き合う、生命力のハーモニーみたいなものについて、かなり的確な描写がなされているように感じました。もしかしたら、本書の登場人物や舞台は、「魂の共鳴」について描かれるために全て用意されたものではないか。「共鳴」について描くために圧倒的な「孤」を描く。陰を描写することによって光の存在感を演出する芸術作品みたいな。そういった趣向を感じました。
最後
僕は今までの本屋大賞はぼちぼち読んでるんですけど、本書は中でもある意味ダイナミックな作品だと思いました。何かこう、緻密な心理描写とか、ストーリーの奥深さというより、生き物の根底に根ざした「生々しさ」のようなものを感じました。なぜ孤独をテーマにした作品から生々しさを感じるのかといえば、文字に起こすことはとても難しいのですが。強いていうなら、テーマは孤独。描き方は生々しい。といった感じでしょうか。でも、そこまでの没入感を与えるための材料として「主人公の過去」が緻密に描写されているが故、というのもありますが。
ちなみに、文庫本の「後書き」も、僕的にはとても素敵だなと思いました。後書きの中で本書の「生々しさ」について言及されているような気がします!気になる人は読んでみてや!
ゆく年くる年。年末年始は暇になりがち。皆様良いお年を!