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お金の相対性理論

 物理法則で為替相場を読み解きます。「お金の相対性理論 → お金のドップラー効果 → お金に働く慣性の法則」と続きます。
 円高あるいは円安は誰にとって有利なのか不利なのか、どういうカラクリで損なのか得なのかを考えます。これを読めば、物理と国際経済、丸わかりでしょう。

お金の相対性理論

 お金は物の価値を測るものさしである。そして、為替相場が動くことは、お金というものさしの目盛りが伸び縮みすることと同じである。たとえば、円高ドル安は、円のものさしが伸びて、ドルのものさしが縮むことにあたる。あるいは、円安ドル高は、円のものさしが縮んで、ドルのものさしが伸びることにあたる。
 <図1>は「$1 =¥100」の場合で、<図2> は「$1 = ¥80」の円高ドル安になった場合を表す。<図3>は「$1 =¥120」の円安ドル高になった場合を表す。

お金の相対性理論

 ではここで、<図4>のあるモノの長さを「円のものさし」で測ってみよう。そうすると <図1>では 100 に、<図2>では 90 に、<図3>では 110 になる。このとき「あるモノ」の長さは変わっていない。ものさしが伸び縮みしたから測定値が変わったにすぎない。
 「あるモノ」はマクロでみれば物価水準に、企業でいえば売上げや利益に、家計でいえば所得や資産にあたる。長くなったものさし=強くなった通貨で測れば、物価が下がったように、売上げ・所得が減ったように見える。短くなったものさし=弱くなった通貨で測れば、物価が上がったように、売上げ・所得が増えたように見える。
 当たり前だ。モノの長さ=物価や売上げ・所得が実質的に何も変わらなくても、ものさしの目盛り=為替相場が動けば、物価や売上げ・所得が増えたり減ったりしたように見えるのである。そして、見た目が変わることは、喜ぶべきことでも悲しむべきことでもなんでもないのである。
 お金というものさしは、相対的なものなのだ。変動相場制では為替相場が時々刻々と動く。つまり、モノの価値の変化とは無関係に、お金というものさしは絶えず伸び縮みしている。これを「お金の相対性理論」という。

お金のドップラー効果

 近づいてくる救急車のサイレンの音は高く聞こえ、遠ざかるサイレンの音は低く聞こえる。これが、音のドップラー効果である。
 近づいてくる星の光は星の実際の色より青く見え、遠ざかる星の色は実際の色より赤く見える。これが、光のドップラー効果である。
 円高になればある金額を円換算すると安く見え、円安になればある金額を円換算すると高く見える。これが、「お金のドップラー効果」である。

お金のドップラー効果

 もちろん、これは見た目の効果に過ぎない。数字が大きくなったからと言って本当の意味で増えた(値上げした)わけではないし、数字が小さくなったからと言って本当の意味で減った(値下げした)わけではない。長くなったものさし(=強くなった通貨)で測れば測定値は小さくなり、短くなったものさし(=弱くなった通貨)で測れば測定値が大きくなる、それだけの話だ。生産額でも消費額でも、また輸出企業でも輸入業者でも、あるいは国内分でも海外分でも同じである。
 たとえば、円高ドル安になれば、企業の利益を円額でみると少なくなって当然なのだ。 だから「円高で企業業績が悪化した」などという言い方は全くあたらない。ちなみにこの場合、利益をドルで換算すると増えているはずだ。
 あるいは、円安ドル高になれば、日本の株価が上がって当然なのだ。 だから「円安を好感して株価が上がった」などという言い方はまるで的外れである。ちなみにこの場合、ドルで計算するアメリカ人投資家にとっては、たぶん損得トントンだろう。
 ところが、「日本経済にとって円高はダメ、円安の方が良い」と言い張る人がいる。「円高不況」という言葉もある。日銀や政府に「円安誘導」を期待する声も多い。けれども、いずれも勘違いである。円でしか物を考えられない人の戯言である。
 彼らは円を唯一絶対のものと見ているのだろう。けれども、このグローバルな国際社会において、変動相場制という通貨交換の仕組みの中で、円を絶対視する道理などどこにも無い。

お金に働く慣性の法則

 グローバル経済では、モノは国境を越えて自由に移動する。だから、為替相場が動いても、原材料も製品も世界中でやがて同じ価格になっていく。
 話を簡単にするために、円の価値だけが変わり、他の通貨の価値もモノの価値も変わらないものとして考えよう。元の状況が「1ドル=100円」で、製品の価格のうちの原材料費と人件費と利益の内訳が(図1)のようだったとする。ここで「1ドル=80円」の円高になれば(図2)のようになるのが自然である。また、「1ドル=120円」の円安になれば(図3)のようになるのが自然である。そうであれば、商品の売れ行きも労働者の購買力も前と全く変わらないことになる。

お金に働く慣性の法則

 ところが、である。人件費だけは、どうもこのようにならないようなのだ。円高になった場合は、円額の人件費が減って当然なのに、労働者は円額の賃金を守ろうとする。でも、それでは実質的に賃金が上がるのと同じことだから、その分、企業が利益を減らす(図4)か、あるいは人件費の安い海外に工場を移転する(産業の空洞化)しかなくなる。
 反対に、円安になった場合は、円額の人件費が上がって当然なのに、経営者はそれを容易に認めない。それでは実質的に賃金が下がるのと同じことなのだが、人件費を下げれば、その分だけ企業の取り分が増える(図5)か、あるいは製品を値下げできて、どっちにしても企業業績が良くなるのである。

 「通貨安が国際競争力を増す」というのは、要するにそういうことだ。人件費を実質的に下げれば、その分だけ企業が儲かるということに過ぎない。そのことをもって「景気が良くなる」、「日本経済にプラスに働く」と言っているのである。
 円相場が動けば連動して製品価格も原材料費も動くのに、人件費だけはもとの円額の数字からなかなか動こうとしない。お金に「慣性の法則」が働いているかのような現象である。「お金のドップラー効果」のなせる業である。「お金の相対性理論」を理解していない故である。

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お金の相対性理論
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