ライオンのおやつ
小川糸さんの小説「ライオンのおやつ」を読みました。
主人公の雫さんは33歳で独身。こんな若さで余命を告げられ、残りの日々を穏やかに過ごしたいと瀬戸内の島のホスピスにやってきます。物語は、そこでの日常、新しい出会い、過去の人生、死にゆくということ、揺れ動く心、そして、毎週日曜日に入居者がリクエストできる「おやつの時間」が描かれています。穏やかな瀬戸内の風景、ゆっくりと流れる時間、おおらかで優しく清らかな施設の運営者。物語はゆったりと静かで暖かいのに、強烈なメッセージが込められているような気がしました。雫さんは、最期の1か月で人としてすごく大きく成長するのです。
以前、「死に方は生き方だよ」と言われたことがありました。また、ホスピスのチャプレンをなさっていた方は、「人は生きてきたように死んでいく」とおっしゃっていました。
自分が手厚く看取られるかどうかなんて誰にも分からない。でも、すべての人は、過去や現在の人間関係の中で生きて、死んでいくのだなあと、改めて思いました。
人生百年時代。寿命と健康寿命の間には数年の隔たりがある場合が多いそうです。もう体は自由に動かない。けれども、そういう環境の中でもあきらめず、投げやりにならず、最後まで心を養い続けることが、人生を味わい尽くし、しっかり生きて、命を燃やしきったということなのだろうと思いました。
心に残った作中の言葉を書いておきます。
「死を受け入れるということは、生きたい、もっと長生きしたい、という気持ちも正直に認めることなんだ」
「私が私の人生を祝福しなくて、誰が祝福するの」
「人の幸せっていうのは、どれだけ周りの人を幸せにできたかだと思う」
「逆転ホームランじゃなくていいんだよ…でも、自分の人生を最後まであきらめずに変えようと努力すること、このことに大きな意味がある」
どんな方にも、特に中年以降の方には、ぜひお薦めしたい本だと思いました。